第3話 ケイトの目覚め
ご覧いただき、ありがとうございます。
それから一時間ほどが経った頃、ケイトの意識が戻った。
医者の見立てによるところでは、緊張が極限に達したことで意識を失ったのではないかとのことだった。
侍女によれば持病があるわけではないし、身体に異常も見受けられないので問題はないとの医者の触診による診断に、一同はホッと胸を撫で下ろす。
ただ、もしあの場所で倒れたまま放置をされていたら意識を取り戻すのに時間が掛かった可能性もあるし、あの段階では病の可能性も考えられたので、エマの判断は賢明だったと医者から感謝の言葉をもらった。
──そもそも、あのまま大衆の中で気を失った姿を晒し続けることは、ケイトの公爵令嬢としての矜持を失うことに繋がりかねなかっただろう。
また、ケイトは目覚めた当初はぼんやりとしていたが、次第に意識がはっきりとしてくると先刻のパーティーのことを思い出したのか、小刻みに震える身体をか細い両腕で抱きしめた。
「何故、あのようなことになってしまったのでしょうか……」
先ほどまで気丈に振る舞っていたが、その実、心は酷く傷つけられてしまったのだろう。
「お嬢様は悪くありません!」
「マリー……」
侍女のマリーが傍にいてくれることに安心したのか、ケイトは小さく息を吐いた。
「そうです! ケイト様は全く悪くありません!」
「……あなたは、どちら様でしたでしょうか……?」
疑念を抱いているのであろうケイトの様子に、エマはまだ自分が名乗っていなかったことを思い出しカーテシーをする。
「ケイト様。わたくしはグランデ子爵家の長女、エマと申します。先ほどのパーティーに居合わせまして、失礼ながらお召し物を替えるお手伝いをさせていただきました」
「まあ……、それは大変なお世話をお掛けしたのですね。誠にありがとうございました」
そう言って頭を下げるケイトに対して、エマは慌てて上げるように促した。
「お顔をお上げください、ケイト様」
「いいえ。あなたには、なんと感謝を申し上げればよろしいのか」
先ほどから初めて会った人々に頭を下げてもらっているので、申し訳なさと同時に心にくすぐったい感覚が過ぎる。
ただ、やはりケイトの表情は沈んでおり、気を落としているようだった。
大勢の前で、あのようなことを言われたのだ。大方の人は傷つくだろう。
「わたくしは、なにか間違っていたのでしょうか。幼き頃からシャルル様のお役に立つようにと、両親から強く言い聞かされておりました。これまで公爵家の維持と発展のためにも、王宮に赴き必死に妃教育を受けて参りましたが、……それはわたくしには分不相応だったようです」
加えてケイトは、男爵令嬢のカミラに嫌がらせをしたことなど全く身に覚えはないが、彼女がそう言うのならなにか誤解をさせてしまっていたのかもしれない、とも言った。
普段に弱音を吐くような女性ではないと噂で聞いたことがあるから、今はよほど精神的に堪えているのだろうか。
そしてケイトの言葉を聞くと、エマはこれまでは部外者はしゃしゃりでてはいけないと思い口を挟まないようにしていたが、その考えを改め直したのだった。
「一つ、発言をお許しいただけるでしょうか」
「ええ、構いません」
「持論と言いますか、私の実体験なのですが」
「はい」
「ケイト様はその件に関しては全く悪くありません! 第一、さっきの言いがかりはおそらくカミラさんの自作自演です!」
ケイトは目を見開いた。
「その理由を訊いてもよろしいでしょうか?」
「はい。わたくしも同様のことを妹にされたからです」
「まあ、……誠ですか?」
「ええ」
そして、エマはこれまでの経緯を説明していった。