第21話 意外な再会
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王宮へと向かう馬車に乗り込んでから三十分ほどが経過すると、ゆっくりと馬車が停まった。
窓から外を覗いてみると、どうやらすでに王宮の門の前まで辿り着くことができたようだ。
御者が門番に許可証を見せてから入門することが叶い、無事に王宮内に進むことができたのだった。
周囲には幾つもの宮が建てられており、傍らには美術館や図書館、先日ケイトたちの結婚式が執り行われた礼拝堂も建っていた。
エマの配属先の任命式はこれから行われるので、現時点ではどこの宮に務めることになるのかは不明だが、大方の女官の場合は初年度では大抵図書館や他の施設に派遣されて、その施設の経理等を行うと聞いている。
また、女官は主に男性が就いている文官の補佐なども行うので、文官が配属されている部署には漏れなく女官も配属されているらしい。
(私は何処に配属されるのかしら……。いくらなんでも、初年度から王太子妃付きにはなれないわよね)
王太子妃付きの女官は、女官の中でも花形中の花形であって、大方は最低でも五年は務めている女官から選ばれることが多いと聞いている。
毎年例外はほとんどないので、きっと今年もないだろう。
それから、馬車は王宮女官専用の寮の敷地内へと入り、間もなく乗り場へと到着した。
御者がエマの手を取りエスコートをしてくれたので、ゆっくりと降りることができた。
「それではお嬢様、お元気で」
「ええ、ありがとう」
御者を見送ってから、エマは小さな鞄を手に持って寮内へと入室した。
ちなみに、他の荷物は大方予め寮へと送ってあるのだ。
そして、緊張を抑えながらロビーを抜けてカウンターまで移動をすると、そこには小柄なブロンドの女性が座っていた。
「こんにちは。今日から入寮予定の方ですか?」
「は、はい。エマ・グランデと申します」
「エマ・グランデさんですね。入寮許可証は所持していますか?」
「はい」
エマは手持ちの鞄から書類を取り出すと、カウンター内の女性に手渡した。
女性は寸秒ほど書類を確認すると、頷き顔を上げた。
「はい、確認が取れました。ようこそ、サザンカ寮へ」
そう言った後、女性はカウンターから退出し、エマの近くに立った。
「初めまして。私はこちらの王宮女官専用の寮、サザンカ寮の寮母をしておりますマール・デルタと申します。私のことは、気軽に呼んでいただいて構いません」
朗らかに微笑むマールに、エマは緊張が少し和らいでいくように感じた。
「エマ・グランデです。デルタさんとお呼びしてもよろしかったでしょうか」
「ええ。もちろん、構いません」
「デルタさん、これからよろしくお願いいたします」
「はい。こちらこそよろしくお願いいたします。サザンカ寮には長年務められている女官の方はあまりいらっしゃらないので、新人の方が入寮されるのを待ち遠しく思っていたのですよ」
「左様でしたか」
マールの話によると女官の多くは独身であるが、その大半の場合結婚をすると同時に職を辞するケースが多いらしい。
それは、この国の慣例で未だに女性は結婚をしたら家を守るべきだ、という思想が根強いためであった。
ただ、近年では思想改革運動によってその考えも薄れていき、結婚後も職を辞さない女官も多くいるらしい。
だが、結婚後は皆新居から王宮へと通うため、必然的に入寮者の年齢層が若くなるのだ。
と、大方そのような説明を受けながら廊下を歩き、一室の扉の前で立ち止まった。
「寮は個室です。ただ、あなたと同じく今年度入寮予定の方がすでに到着なされているので、先に挨拶をしていかれますか?」
(入寮予定の方……。というと、同期ということね。とても緊張するけれど、早めに挨拶をしておいた方がよいわね。今なら、デルタさんもいてくれるし)
「はい、ぜひ挨拶をしたいと思います」
「分かりました」
マールは穏やかに微笑んだ後、隣の扉をノックした。だが、一分ほど経っても何の応答もなかった。
「もしかして、留守なのでしょうか」
「いえ、外出した記録はないので、そのようなはずはないのですが……」
もしかしたら、寮内を見て回っているのかもしれないとマールが言った後、突然扉が勢いよく開かれた。
「す、すみません……! 色々勝手が分からなくて時間が掛かってしまいました!」
そう言ってこちらに深く辞儀をした女性を、エマは見覚えがあった。
「もしかして……、キャサリンさんですか?」
声に反応したのか、すぐさま身を起こした女性はこちらに気がつくと目を大きく開いた。
栗色の長い髪にヘーゼル色の瞳がエマを捉える。
「…………あの時のお嬢様……ですか……?」
女性は声を高く上げ、大変驚いた様子だった。間違いなくキャサリンだと思った。
「よかった、キャサリンさんも無事に合格していたのですね。これからよろしくお願いします」
エマが微笑むと、つられたのかキャサリンも眩しい笑顔を向けた。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
正直なところ新生活に不安も覚えていたのだが、マールとキャサリンのお陰で大分それは薄らいだとエマは思ったのだった。