第2話 介抱
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救護室へと到着すると、男性はベッドの上にケイトをゆっくりと降ろした。
入室して来たエマたちに気がつくと、救護室付きの医者がすぐさま駆けつけた。
「如何いたしましたか⁉︎」
「パーティーの最中で動揺することがあったためか、バランド公爵家の御令嬢であられるケイト嬢が気を失われた。今すぐに診ていただけないだろうか」
「はい、かしこまりました、補佐官殿」
(補佐官殿?)
こちらまでケイトを連れて来てくれた男性はまだ年若いように見えるが、王宮内において非常に地位の高い男性なのだろうか。
それはともかくとして、ケイトは現在ドレスを着ているので、ベッドに横になるにはまず召し物を替えなければならない。
本来なら上位貴族と思しき相手に先に声を掛けることは許されないのだが、今は緊急事態であるし咎めなら後ほどに受けると思い、エマは手のひらをギュッと強く握り締めた。
「補佐官様。ケイト様をこちらまでお連れしていただきまして、本当にありがとうございました。これからケイト様のお召し物をお替えいたしますので、一旦ご退室いただけますでしょうか」
「ああ、そうだな。分かった」
男性は顔色一つ変えず快諾して移動するが、彼は出入り口付近で立ち止まってからこちらに向き直した。
「君の行動は、大変勇気があり称賛に値するものだった。私もすぐに動くべきだったのに、自分の立場を考えて判断が遅れてしまった。君があの時声を掛けてくれなかったら、一体今頃ケイト嬢はどうなっていたことか」
そして、深くエマに対して頭を下げた。
「心から礼を言う」
「い、いいえ! お顔をお上げくださいませ! こちらこそ、あなた様には深く感謝をしております。わたくし一人ではケイト様をこちらまでお連れすることは到底叶いませんでしたから」
「いや……。君の名前を教えてもらえないだろうか」
「わたくしはグランデ子爵家の長女、エマと申します。普段は領地に住んでいるのですが、今日は伯母に連れていただきパーティーに参加をしておりました」
「左様か。私は宰相閣下の第一補佐官、ロベール・バルトだ。これから会場へと戻り、閣下とことの収拾へとあたることになるだろう」
「ご紹介をいただきまして、光栄でございます。左様でございましたか。……それでは補佐官様、これでわたくしは一度失礼いたします」
「ああ、よろしく頼む」
「はい」
扉を閉めると、すぐにケイトの傍に駆け寄った。
そしてベッドの周囲を仕切りで囲ってから、補佐官と入れ違いで合流したケイト付きの侍女と一緒にドレスの紐を解いていき、ドレスを脱がすことができた。
コルセットも外して、擁護室で用意のあった肌着や寝着に着替えてもらい改めてベッドに横になってもらう。
「非常に手際がよろしいのですね」
ケイト付きの侍女マリーは驚いた様子だったが、それは無理もないのかもしれない。
なにしろ、貴族の令嬢は他人に対してこのような介助はしないものだからだ。
ただ、エマの祖母は高齢で介助が必要であったのだが、祖母は屋敷の使用人ではなく家族に、特にエマに介助してもらいたいと指名し、主に彼女が介助を行っていたのだ。
その祖母も半年ほど前に亡くなり、更にある事件が起きたことで伯母を頼り領地を離れて王都を訪れたのだった。
「はい。以前に、よくお祖母様のお世話をさせていただいておりましたから」
「そうでしたか。……エマ様は、とてもお心根がお優しい方ですのね」
「いえ、そんな当然のことです」
「いいえ。この度お嬢様におかけいだきましたご恩情は、中々なされるようなことではございません」
そう言って深々と頭を下げるマリーの様子を見ると、申し訳なさが込み上げてきた。
ただ、同時に自分の行動は間違ってはいなかったのだという安心感も込み上げてきたのだった。