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第14話 意外な面接官

ご覧いただき、ありがとうございます。

 そして、最終試験当日。

 本日もエマは屋敷を発つ際に、テイラー伯爵家の面々に激励の言葉をもらっていた。


 エマはその言葉を思い出し噛み締めながら、最終試験の面接に挑むために王宮の大会議室の出入り口付近で椅子に腰掛けて待機をしている。

 第一試験の際には三百名ほどいた受験者も、最終試験の段階では十名までに減っていた。


 また、本日は王宮側から華美ではないドレスを身につけてくるように指定があったので、エマも紺色の装飾の少ないドレスを身につけている。


 そして、右隣の席には一次試験の際に出会った女性、キャサリンが座っていた。

 話し掛けたい気持ちもあったが、最終試験前の緊張感が張り詰めている空気の中で話し掛けることは中々勇気がいることであったし、皆私語は慎んでいるので今は控えることにした。


「ありがとうございました」


 丁度、前順の受験者が退室し廊下へと戻ってきた。

 チラリと視線を向けてみると、彼女の表情は緊張からか強張っている。加えて、頬は赤く涙ぐんでいるようにも見えた。


 その様子を受けて少々不安が心中に過るが、ともかく緊張に押し潰されないように意志を強く持とうと、手のひらを強く握りしめた。


「受験番号百十五番のエマ・グランデさん。お入りください」

「はい」


 身体が硬直し、自分のものではないように感じる。だが、自身を鼓舞し小さく深呼吸をしながら何とか扉の前に立った。


 力の加減を意識しながら、扉を四回ノックすると、間を置いてから「お入りください」と声がかかった。

 その声を聞いた途端、鼓動が早鐘のように鳴り響きはじめる。


(この声は……、まさか……)


 気が遠くなりそうだったが、何とか気を保つように両足に力を込めた。


「失礼いたします」


 扉を開くと、そこには以前にあの社交パーティーの際に出会った公爵令嬢のケイトが、室内の奥に置かれた椅子に綺麗な姿勢で腰掛けていた。

 彼女も紺を基調にした色の華美ではないドレスを身につけ、化粧も控えめに施している。


(ケイト様だわ……)


 まさか、このような形で彼女と再会するとは思ってみもなかったので、エマは強く衝撃に打たれたのだった。


(ケイト様の王太子妃就任は来月。だから、それに合わせて御自ら裁量をなされるのかしら……)


 ケイトの他には眼鏡を身につけた吊り目の女性が少し離れて座っており、彼女らの長テーブルを挟むように近衛騎士が両サイドに一人ずつ立っていた。


 室内に入った時から張り詰めた緊張感が漂っており、再び気が遠くなりそうになる。


「それではお掛けください」

「……はい」


 心臓が飛び出しそうだったが、ともかく表情に出さないように全力で努めた。

 

「まず、お名前と年齢を教えてください」

「はい。わたくしはエマ・グランデと申します。歳は十九歳です」


 それから眼鏡を掛けた女性がいくつか質問をし、その度に緊張を抑えながら、自分の考えをできるだけ分かりやすく正確に心がけて伝えていった。


 それは「こうした事案が起きた時にどうするか」とか、「この国の在り方をどう思うか」といった内容や、「趣味や余暇の過ごし方」など、個人的な質問もあった。


 そうして、受け答えをしていると十分ほどが経ち、眼鏡を掛けた女性が軽く咳払いをしたので、そろそろ試験は終わりかと思い内心で小さく息を吐いた。

 すると、これまで口を噤んでいたケイトが口を開いた。


「それでは最後に、あなたの女官を志望する動機を教えてください」 


(志望動機……)


 思えば、この質問は最初の方に訊かれるかと思っていたが一向にその気配がないので、もうないものかと思っていたのだ。

 なので、不意打ちを受けた形になってしまった。


 また、最大の志望動機である「ケイトの役に立ちたい」という想いを本人に伝えるのには、相当の勇気が必要になることを思い知った。


 少しの間、室内に沈黙が流れる。


(まずいわ。このまま、何も言わないでいたらきっと不合格になってしまう……)


 だが、ケイトを前にすると怯んでしまい、もうここまでかという思いが過る。


 すると、目前に例のパーティーの際、王太子によって糾弾されても気高く姿勢を崩さなかったケイトの姿が過った。


(そうだわ。私は、そんなケイト様に憧れてここにいるのだわ。ここで怯んでいてはいけないわ……!)

 

 そして背筋をより伸ばして、ケイトの方に視線を向けた。


「私は、王太子妃となられる方に憧れ、少しでもお役に立ちたいと思い王宮女官の職を志望しました」


 そう言った後、少し間を置いてからケイトが口を開いた。


「左様ですか。志望動機は以上でしょうか」


 エマは、自身の中から湧き出てくる想いを拾い上げて伝えることに努めようと決心した。


「王宮女官は、王太子妃の意見を肯定するだけではなく、ときに王太子妃が迷い誤った判断をした際にも、諌めて助言をしなければならないと存じます。私はそのような女官になりたいと思っております」


 そう告げると、ケイトは寸秒間を置いてから小さく頷いた。その瞳は穏やかな色を含んでいるように感じた。


「ありがとうございました。以上で面接は終了となります」

「ありがとうございました」


 深く辞儀をしてから、できるだけ背姿を見せずに速やかに退室した。

 

 そうして、全試験の行程は終了したのだった。

 控室に戻る途中、どうにも現実味がなく身体がふわふわ浮いているような感覚を抱いたが、エマは同時に何か手応えのような、やり終えたという感慨が、強く心中に芽生えてきたように感じたのだった。

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