8怪
-彦根城内-
「政之進様、大変です。」
用事を済ませて帰ろうとした矢先に家臣の一人が走ってきた。
「どうした?」
「下女のお菊があなた様のお気持ちを試すために家宝のお皿の一枚を割ったようです。」
この家臣もまた政之進の失脚を望むものだった。しかし、政之進は知る由もなかった。
「それは・・・・真か?」
「はい。至急お屋敷にお戻りください。」
「わかった。」
政之進が大急ぎで走り出した様子を物陰から加藤が見ていた。
-孕石家屋敷-
「お菊と直接話をさせてくれ。
直接話を聞けば何を考えていたのかもはっきりとするだろう。」
「なりません。あのような下女の申すことなど信じるに値しません。
何よりご先祖様が頂いた大事なお皿を割っているのですぞ?
当然、手打ちにされるのが筋というものです。」
「だが、一方的に片方の言い分ばかり聞くことをしてはならん。」
「ですが、目撃した下女は5人います。それに家臣の中にも遠目に目撃したという話もあります。
言い逃れはできないでしょう。それに、これ以上下女をかばうような行いをされては家名に傷がつきます。
それでなくとも悪い噂が広がっているというのに。」
「それも古き考えに縛られている者達のいう戯言だ。」
「新しき考えなどありません。皆に認められて初めて一つの考えとして認められます。
政之進様のお考えが認められてない以上、政之進様の妄言について来る者ばかりではありません。」
「そうであったとして勝手な決めつけで手打ちにするわけにはいかないだろう。」
「とにかく、今回の件は政之進様には一切関与して頂きません。
我々家臣の方で処理いたします。これでもしあの下女に何もしなければ他の家の者に何と言われるか分かったものではありません。
なので、政之進様は完全に関与しないで頂きます。
あの女に近づくことも許しませんので、そのおつもりでお過ごしください。」
「お家を守るために我慢ください。」
家臣の多くからそう言われてしまい政之進は言い返せる状況でもなくなっていった。
その日はお菊に関する評定は決まらなかった。