3怪
屋敷の広間において当主政之進と家臣が険しい顔で向き合っていた。
「政之進様、当主としてのお自覚をお持ちください。
下女と親しくされているなど外聞が悪いです!」
「なぜ、私が誰と仲良くするかについて悪く言われねばならんのだ。自らが器が小さいと周りに言いふらすような真似をしている奴の方がよっぽど恥ずかしいと思わないか?」
「政之進様のおっしゃりたい事もわかります。
しかし、周囲の意見もしっかりと聞いていただけないと困ります。中には下女との関係が基になって御家取り潰しなどに繋がった事もありました。
そんな話ばかり聞いていると心配になるのはしょうがないじゃないですか。」
「こんな時代ではしょうがないかもしれないが、理不尽な話がまかり通るなんて許されないよな。」
「それでもそれがこの社会の仕組みです。
変えられないものもありますし、変えてはいけないものもあります。武士という支配階級があるからこそ、安定を保っているんです。その支配階級が支配される側と馴れ合うなど社会構造を揺るがしかねないんです。
とにかく、下女との仲は許されません。」
家臣の一人から厳しく言われても政之進の気持ちは少しも揺さぶられる事がなかった。
屋敷内の台所にお菊と3人の下女が集まっていた。
下女の一人が
「お菊、あんた最近さ政之進様と親しくしているらしいじゃん。」
「調子に乗らないでよ。」
「あまり、武士の人と仲良くならない方が良いよ。」
一人は疑うように、一人は嫉妬しているように、一人は本当に心配そうに言った。あまりに噂が広がりすぎたために屋敷内でも問題扱いされていた。
政之進の顔色も伺わねばならない家臣達は遠回しに下女仲間から政之進と仲良くしないように言い聞かせるように言っていた。
「私はそんなつもりではないですし、政之進様にご迷惑をおかけするつもりもありません。」
「ねぇお菊、他のお屋敷に奉公を変えたらどうかな?
このままだと大変な事になるかもしれないよ。」
心配そうに言った下女が言い出した。
「いなくなった方がすっきりして良いかもね~。」
嫉妬している下女が言った。
「でも、そんなに簡単には奉公先も見つからないし、今後は気を付けるよ。」
お菊が言うと3人はそれぞれ違う表情を見せたが、その感情を言葉にした者はいなかった。