17怪
-彦根城内木俣執務室-
木俣が仕事をしていると廊下をドタドタと走る音が聞こえた。
そして勢いよく執務室のふすまが開いた。
「木俣殿、お聞き頂きたい事があります。」
加藤が勢いよく駆け込んできた。
「加藤殿、そんなに慌ててどうされたんですか?」
「孕石殿が家宝のお皿をたたき割るほど錯乱されていると聞きました。
やはり例の幽霊騒ぎが原因なのでしょうか?」
「まあ、そうなるでしょうね。
ですが、まだ事件の真相の解明はできていません。
このまま政之進殿が錯乱を続けたら隣領の加藤殿に何をするかわかりませんね。」
「そんな・・・何かされる前にどうにかして頂けませんか?」
「無理ですね。今はまだお家の中の問題だけですし、正直いまの政之進殿にかかわりたくはないのです。」
「そんな・・・藩主様はなんとおしゃっているのですか?」
木俣は加藤の様子を見ながら、焦りを見ていた。
「藩主様は今までの政之進様の忠誠に免じてお咎めをしないつもりです。」
「そんな事が許されるんですか?」
「藩主様に直接いってもらえますか?
私は今は事件の真相解明に大忙しなのですよ。
事件に無関係なあなたの相手をしている暇などありません。」
加藤はかなり慌てている。木俣はもう一押しかなと思っていたが加藤から
「いえ、私は無関係ではありません。
私が唆した下女達が孕石家の家宝の皿を割り、政之進と仲の良かった下女に罪を着せたのです。」
「な・・・・なんという事をおっしゃるのですか?
その唆した下女というのは今どこにいるのですか?」
「えっ?あ、その・・・あの・・・」
「どうされましたか?所在がわからないという事ですか?」
「実は不都合がありまして・・・・処刑してしまいまして・・・」
「それは許せませんね。
彦根藩の領民は井伊家の所有している者です。
それをむやみやたらに殺すことは許されません。
おい、この者をとらえよ。」
「ちょ、ちょっとお待ちください。」
加藤が何か言おうとしたところで執務室の周囲のふすまが開き、木俣の配下が現れ加藤を取り押さえた。
「木俣殿?これはどういう事でしょうか?」
取り押さえられながら必死に加藤が聞いてきたので、
「私は事件の真相を暴く事が仕事です。
ついでに言うと、藩主様には孕石家の家宝の話はまだ知らせていません。
当然、政之進殿にも処罰を受けて頂く事にはなるでしょうが、それは私の知るところではありません。」
「そんな・・・・だましたのですね?」
「あなたの関与は間違いなくあると思っていましたがここまで卑劣な手を使っているとは思いませんでした。お家取り潰しとあなたの命をもって償ってもらう事にしましょう。」
加藤はうなだれながら連れていかれた。