16怪
-木俣家屋敷-
「どうですか、政之進殿?
お屋敷内の様子など教えて頂けますか?」
木俣が聞くと政之進は
「家臣の多くもだいぶ減りましたし、領民の中には逃げ出している者もいると聞いています。
もうそろそろ屋敷の維持に必要な人数を保てなくなってきてます。」
「一応、作戦通りといった感じですね。
あとは加藤を追い詰めるためにもう一押ししていきたいと思っています。」
木俣は加藤の悪事を暴くための最後の一手を求めていたが、決定打を決めかねていた。
政之進はその様子を見て、
「家宝の残りのお皿を使ってはいかがでしょうか?」
「というと?」
「私が残りのお皿を割ります。
お菊が一枚割っただけで処罰されているので、残りの九枚を私が割れば私の乱心ぶりを示すことができます。
幽霊騒動でさらにおかしくなったという感じを出せば、加藤殿も慌てる事でしょう。」
「ですが、その方法では政之進殿にも危険が及ばないですか?」
「それは覚悟の上です。それに何かあったら木俣殿に助けて頂きますので。」
政之進の言葉を聞いて木俣は驚いたが、色々と考えると
「確かにそうですね、まあ善処しますよ。」
木俣があきらめたように言うと政之進は
「まあ、無理なら見捨ててください。
それでは行ってまいります。」
木俣は政之進の後姿を心配そうに見送った。
-孕石家屋敷-
「急いで、家宝の皿を持ってこい。」
帰ってきた政之進が急に言ったので残っていた家臣が慌てて走り出した。
屋敷内の政之進の部屋に九枚のお皿が並べられた。
「それでこのお皿をどうされるのですか?」
家臣が聞くと政之進はお皿の一枚に向かって刀を振りかざし一枚のお皿を割った。
それを見て慌てて家臣が
「何をされているのですか?おやめください!」
そう言って捕まえられたが政之進はそれを振り払い、
「ええい、離せ!
そもそもこんな皿があったからお菊は死んでしまったのだ。
こんな皿などもういらぬ!」
そう言って順番にお皿を割って行った。あまりの気迫に押されて家臣たちが身動きできずにいるうちに政之進はどんどんと割って行った。
そして最後の一枚を割ったところで大きな奇声を上げて床に倒れた。
家臣たちが慌てて駆け寄り引きずって行かれた。その様子を隠れてみていた加藤家の家臣は慌てて加藤のもとへ走って行った。