14怪
-彦根城内-
加藤は彦根城内で政之進を見つけて駆け寄った。
「孕石殿、例の下女についてお話が・・・・・・」
政之進が振り返ると顔は少し瘦せているように見えた。
「あっ、いや、そのお体は大丈夫ですか?」
「ああ、ご心配なく。
それでどのようなお話ですか?」
政之進から以前はあった覇気のようなものが感じられなかった。
「あの、その幽霊がでるとうわさで聞きまして・・・」
政之進の顔がみるみる赤くなっていき
「お前らのせいだろうが。
お前らがお菊を追い込んだんだろうが!」
そう叫んで思いっきり加藤を殴り飛ばした。加藤は驚きすぎて受け身をとる事も出来ずに廊下に倒れた。
周りにいた人が政之進を取り押さえられている。加藤は頭の中で自分のたくらみがばれたのかと疑問を感じていたが、どうやら錯乱しているようだ。
加藤の屋敷に逃げ込んできたあの年長の者が言っていた事は正しく、政之進が正気を失っているように見える。そんな事を考えていると騒ぎを聞きつけて木俣殿がやってきた。
「何の騒ぎだ?」
木俣は周りを見渡して大体の事情を把握したかのように
「孕石殿を私の執務室にお連れしろ。
かなりお疲れのようだから丁重にな。」
政之進はうなだれて抵抗する事もなく連れていかれた。
「加藤殿、今日は災難でしたね。
孕石殿についてはしっかりと処罰を考えますが、お家の事情で少し気を病んでおられるようなので大目に見て頂けないでしょうか?」
「例の下女は木俣殿が処刑されたと聞いております。
それは確かに行われたのですか?」
「ああ幽霊騒動ですか。
処刑をしたからこそ幽霊騒動になっているわけですしね。
もしかしたら、例の下女の事件の真相がわかれば収まるかもしれませんね。
加藤殿も何かご存じでしたら私の執務室までお越しください。
では、私は孕石殿と話さなければいけないので失礼します。」
木俣がそう言い残して離れていった。それと入れ違いになるように加藤家の家臣が走ってきて、
「殿、お忙しい所すみません。
実はお屋敷で問題が起こりました。」
「なんだ?何があった?」
家臣が耳打ちすると加藤は焦り、近くにいた人に
「申し訳ありません、急用が入りましたので帰らせて頂きます。」
家臣と共に加藤は走り出した。彦根城をでたあたりで立ち止まり
「例の逃げてきた年長者が死んでいたというのは本当か?」
「はい、朝に確認をしに行ったら頭を鈍器のようなもので殴られており、近くには割れたお皿が落ちていました。」
「残りの二人はどうした?ともに来ていただろう?」
「行方不明です。」
「では、その二人が殺して逃げたのか?」
「いえ、あの三人は親子だったようで、親を殺すなど考えられません。」
「侵入者がいて連れ去ったのか?」
「争った跡はありませんでした。それに・・・・・」
「なんだ?」
「白い着物を着た女を見たとの証言がありまして・・・・」
「まさか例の下女の幽霊か?」
「わかりませんが、孕石殿の家から逃げてきた者があれはお菊の亡霊だと言っていました。」
「と、とにかく急いで戻るぞ」
加藤はそう言って一心不乱に自分の屋敷めがけて走った。