11怪
-彦根城内 一室-
「政之進殿、率直に言わせてもらうが先ほどの話はそう急に対処されるべきだ。」
家老の木俣殿は真剣な顔で言ってきた。
「しかし、件の下女のお菊は、あのお皿が大切なものだと知っていました。
わざと割るなどあり得ません。」
「政之進殿、あなたがその下女を大切にされているのは今の様子を見ればわかります。
普段から身分の差についての話をされている事も知っています。
ですが、私はあなたの考えが悪いとは言いません。
今の最大の問題は、加藤殿があなたに敵意を持ち今回の事を利用しようとしている事です。
もしかしたら、すべて加藤殿が仕組んでいる事かもしれません。
その確証がない限り、今回の件を治めるのは難しいでしょう。」
「そ、そんな・・・・・・」
政之進が愕然として言うと木俣は
「加藤家も孕石家も井伊家が彦根に来た時から仕えている家柄です。ですが、両家には大きな違いがあります。
大坂夏の陣で武功をあげた孕石家は領地もいい場所が与えられ役職も貰える家柄。
その反面、加藤家の先祖である新左衛門殿が初代の顔に泥を塗るような事をして自刃させられているため、隣の領地であっても土壌も悪く山の斜面も多く農地にしづらい場所をあてがわれ、藩内で役職を貰う事もないという家柄です。
一方的な嫉妬や逆恨みではあるでしょうが、悪い印象を人につけることに関してはとてもうまい事やる男ですからね、加藤殿は。
ただ、事が大きくなりすぎたので加藤殿を排除すれば問題が解決するという話でもありません。」
「では、どうすればいいのですか?
このまま、お菊を見殺しにしろとおっしゃるのですか?」
「政之進殿はすべてを捨てる覚悟がありますか?
そのお菊という下女のために何もかもをうしなってもいいと思われますか?」
木俣殿はとても真剣な顔で聞いてきた。
すべてを捨てるとは何だろう?領地を失う事、武士という身分、自分の命?
そんなものとお菊の命を秤にかけるまでもない。
領地があってもお菊がいなければ楽しくない、好きな女一人守れない武士に何の価値がある、共に生きたいと願ったから自分が死んでは意味がないかもしれないが自分の命一つでお菊が幸せになれる未来が来るなら喜んで差し出そう。
「覚悟はあります。お菊を救うためならこの命も差し出しましょう。」
「わかりました。
それでは、とっておきの策を差し上げます。
実際に行われるかは政之進殿がお決めください。
私もうまくいくようにお手伝いはします。」
「ありがとうございます。で、その策とは?」
「政之進殿、お近くに・・・・」
木俣は政之進の耳元で驚きの策を話した。
「おやめになりますか?」
木俣が確認してくるが政之進の気持ちは固まっていた。
「やります、よろしくお願いします。」
かくして、政之進を追い詰める策を講じる者達を追い詰める逆襲の一手が打たれるのであった。