アパートが燃えました
今回は早めに更新出来ました。今後も一週間から二週間に一回は更新したいです……(n*´ω`*n)
そして、セイディとリオが出逢って二週間の日が過ぎた。リオとの距離も、少しずつだが近づいているように思える。しかし、セイディからすれば一つだけ気になることがあった。
(リオさんって、私とちょっと一線を引いて接しているような雰囲気なのよね……)
そこそこ親しくなり、そこそこの信頼関係を築け始めていると思っている。が、リオはいつだってセイディと一線を引いている。それは、セイディにも容易に分かった。深入りさせないというか、自分について話したがらないというか。そんな雰囲気を醸し出すリオに、セイディは深入りすることが出来なかった。婚約者なのだ。深入りして嫌われたくない。そう思う気持ちが、ほんのちょっぴりあったのだろう。
「はぁ、本当に悩んでばっかりだわ……」
呆然とそう呟き、アパートへの帰り道をトボトボと歩く。いつも通りの帰り道は、何故かいつもよりも閑散としており人が少ない。……なんだか、不気味だな。そう思っていた時、不意に焦げ臭いにおいが鼻を突き抜けたような気が、した。……何だろうか。そう思い顔を上げれば、住宅街の一角で黒い煙が上がっている。……火災のようだ。多分、人々は野次馬としてそちらに集まっているため、ここら辺は人が少ないのだろう。そう思いながら、セイディはゆっくりと歩を進める。
「……というか、あの辺りって……」
まさか、ね。そう思ったものの、一瞬脳裏をよぎった嫌な予感が心の中で燻る。そのため、セイディは早足でアパートに向かうことにした。あの黒い煙の上がっている辺り。そこは――セイディが住んでいるアパートの近くだ。
(私の住んでいるアパートじゃなかったとしても、延焼してしまったら……!)
そう考え、セイディの歩はどんどん早くなる。聖女の力で炎を完全に消すことは出来ない。だが、弱めることくらいは出来る。火災など滅多に起きるものではないため、聖女の力が炎の威力を弱めることが出来ることが、頭からすっぽ抜けていた。それはきっと、考えることが多く、そこまで頭が回っていなかったのも関係しているのだろう。
息を切らせて走り、黒い煙の上がっている家の前にたどり着く。その瞬間――セイディは、全身の血が引いていくような感覚に陥った。何故ならば、燃えていたのはセイディが住んでいたアパートだったためだ。しかも、ほぼ全焼状態。必死に火を消そうと魔法使いたちが頑張っているが、それでももう住むことは叶わないだろう。
「……火が上がった原因って、分かっているんだっけ?」
「さぁ……。ただ、怪我人がいなかったのがせめてもの救いよね」
近くの女性たちがそんな会話を交わす。怪我人がいないのならば、まだよかった。心ではそう思うものの、脳内は住む場所を失ってしまったことに対する危機感でいっぱいだった。しばらくは、ヤーノルド神殿に滞在させてもらうことが出来るだろう。あの神官長のことだ。セイディを追い出すことはない……はず。しかし、長居するのは嫌だった。ジャレッドと、ずっと一緒に住まうことになるからだ。
「あ、あの、セイディさん!」
セイディの姿を見て駆け寄ってきたのは、セイディが住まう部屋の隣の住民だった。何処か野暮ったい印象を与える彼は、セイディのことを見てホッと一息をつく。その後「……ちょっと、いいですか?」とセイディを手招きしてきた。そのため、セイディは黙ったまま頷き、野次馬たちから少し離れ、彼に近づいていく。
「……あの、どうか、なさいましたか?」
青年の何処か困ったような表情を見つめて、セイディはそう問いかける。すると、青年は「……その、炎が上がった原因について、何ですけれど」と言いにくそうに口ごもる。炎の上がった、原因。先ほどの女性たちは知らないようだったが、もしかしたら住民にだけ教えられているのかもしれない。そう考え、セイディは「知っているのならば、教えてください」と強い口調で青年に問いかけた。
「……その、どうにも、誰かが火をつけた……みたい、なんですよね」
「それって……」
「はい。怪しい人物も目撃されていて、大体その人物だろうって……」
青年の言葉が途切れ途切れなのっは、きっと火災に少なからずショックを受けているためだろう。だから、今はこれ以上問いかけるのは得策ではないな。そう思い、セイディは「……住む場所、どうしましょうか?」と視線を下げて青年にそう声をかけてみる。すると、青年は「僕は、実家に一旦帰ろうかと」と答えてくれる。
「セイディさんは、どうしますか……?」
「しばらくは、職場に住まわせてもらおうと思います。……神殿なので、新しい住居が見つかるまでは、面倒を見てくださるかと」
目を伏せながらそう言えば、青年は「だったら、よかったです」と言葉をくれた。どうやら、彼はセイディの新しい住居を心配してくれていたらしい。
「あ、あと、今後もしかしたら騎士の方が事情を聴きにいらっしゃるかも、です」
「分かりました。教えてくださり、ありがとうございます」
彼にお礼を告げれば、彼は「いえいえ」と残して立ち去っていく。大方、別の住民にも事情を説明しに行くのだろう。そんな彼の後ろ姿を見つめながら、セイディは「神殿に住むにしても、服とかは買い直さなくちゃ……」とぼやく。生憎、残っているのは鞄に入った最低限の必需品のみ。服などは、きっとすべて燃えてしまっているはずだ。
(それにしても、誰が何の目的で……)
そして、セイディはそう思った。アパートが、誰かに燃やされた。それに対して、湧き上がるのはショックよりも怒り。未だに炎が上がっているアパートを見つめながら、セイディはただ怒りを実感することしか出来なかった。セイディの真っ赤な目には、燃える炎が映っていた。