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二人でお話

「リオ様、は」


 リオの斜め後ろを歩きながら、セイディはリオにそう声をかけてみる。そうすれば、リオはセイディの方に視線を向けてくる。その後、じっとセイディのことを見つめてきた。その目が何もかもを見透かしているように感じられてしまい、セイディはそっと視線を逸らした。こういう目は、少し苦手かもしれない。そんなことを、思った。


「……うーん、私、あまり様付けをされて呼ばれるの好きじゃないのよ」

「では、なんと呼べば?」

「呼び捨ては難しいだろうし、普通にさん付けでいいわ」


 セイディの戸惑う声を聞いたからか、リオはそう言ってくる。だから、セイディは「リオ……さん」と口に出した。セイディは元貴族とはいえ、今は貴族ではない。だから、騎士を様付けしないのは不敬に当たるかもしれない。そう思うものの、リオ本人が望んでいるのならば別に問題はないだろう。そう自分に言い聞かせる。


「そもそも、セイディは元貴族でしょう? 私は男爵家の生まれだし、そんなにかしこまらなくてもいいわ」

「……元は元です。今はただの平民ですから」

「でも、最強の聖女だって言われているじゃない」


 それは決して、セイディ自身が望んでつけられた呼び名ではない。なんだか知らないうちに、その呼び名が独り歩きしただけに過ぎない。そう言おうかと思ったものの、セイディは口を閉ざした。行き過ぎた否定は自分を否定する以上に、褒めてくれる相手を否定することになる。周囲を否定するのは、少し違う気がするのだ。


「ところで、セイディはこの付近に住んでいるの?」

「……神殿の近くに、アパートを借りて住んでいます」


 突然変わった話題に戸惑いながらも、ありがたいと思いセイディはその話題に乗る。そうすれば、リオは「私はしばらくこの神殿に滞在するつもりなのだけれど……」と言ってくる。その言葉を聞き、セイディが頭上にはてなマークを浮かべていれば、リオは「いずれは、実家や騎士団の方に戻るのよ」と続ける。……それはつまり、セイディに一緒についてこいということなのだろうか。


「それは、一緒に王都に行った方が良いということ、ですよね?」

「まぁ、いずれはね。王都の神殿の所属聖女になってもらう予定だし。……でも、別に突然来いって言っているわけじゃないわ。準備期間もあるし、気持ちの整理もあるだろうし」


 リオのその言葉に、セイディはホッとした。ジャレッドのことを鬱陶しいと思っているため、神殿を出ること自体に躊躇いはない。しかし、やはり今まで良くしてくれた同僚や神官長のことを考えると、「はい、さようなら」で済ませてはいけない気がするのだ。きちんと順序を踏んで、出てくるのが良いだろう。そう、思った。


「とりあえず、私は二週間程度滞在するから。その間、よろしくね。その後もしばしは文通友達みたいな感じでいいわ」

「……婚約者って、そういうものなのですか?」

「……ごめんなさいね。私もあんまり詳しくなくて。でも、婚姻まではまだまだ時間があるわけだし、今は出逢ったばかりだから友達みたいな方が気楽でいいじゃない」


 そういうリオの言葉には、セイディも素直に同意出来た。いきなり婚約者と言われて、確かに戸惑う気持ちもある。ならば、まずは友人や友達として付き合っていくのが良いだろう。幸いにも、リオは友人付き合いをしやすそうなタイプだった。オネェ系の男性というのもあるだろうが、何よりもリオは人当たりがよさそうだった。だから、特別嫌悪感を抱くことはない。……苦手意識は、別だろうが。


「ところで、セイディは私との婚約を受け入れたわけだけれど……好きな人とか、いなかったの?」


 でも、そういう質問は純粋に困る。そう思いながら、セイディは「……いません、よ」と苦笑を浮かべながら答える。正直、好きな人などいたためしがないし、恋をした覚えもない。だから、正直に言えば恋とか愛とか、そういうことの意味さえも分からないのだ。でも、それを言うのはなんだか嫌だったので適当に誤魔化す。


「そうなのね。噂では、ヤーノルド神殿の次期神官長だという男性が、貴女に言い寄っているって聞いたのだけれど……」


 何故、それがリオの耳にまで入っているのだろうか。そんなことを考え、セイディは「……一方的なものですよ」と言って、こっそりとため息をつく。ジャレッドのことは苦手だ。自身にしつこく言い寄ってくる。はっきりと言って、婚約話がうやむやになったのに心の底から感謝できるレベルなのだ。


「私、彼には迷惑していて。そもそも、あんまり好みじゃないですし」


 自分の好みのタイプなんて、考えたこともないのだけれど。心の中でそんな言葉を付けたし、セイディはリオにぎこちなく笑いかけた。好みのタイプは分からない。ただわかるのは、ジャレッドは間違いなく苦手なタイプに当てはまるということだろうか。だから、ジャレッドに言い寄られても心は動かないし、響きもしない。それだけは、間違いない真実なのだ。

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