恥ずかしくないのですか?
「あの」
マルレーネと青年たちの方に近づき、セイディはゆっくりと声をかけた。そうすれば、青年たちの視線が一瞬でセイディに注がれる。それに怯むことなく、セイディは「どうか、なさいましたか?」と出来る限り優しく問いかけてみた。が、表情は清々しいほどの無である。
「関係ないだろ!」
しかし、セイディの言葉に青年の一人が怒鳴ってくる。……何か、都合の悪いことをしているな。その態度だけでそう読み取ったセイディは、「一人の女の子を取り囲んで、何をされていたのですか?」と今度は具体的に言ってみる。自分たちの行いがどれだけ非道なのかを、分からせるためだ。
「お前には関係ないだろ!」
でも、どうやら青年たちも引く気がないらしい。それを理解し、セイディはマルレーネに視線を向ける。セイディの視線を感じてか、マルレーネは気まずそうに視線を逸らした。多分だが、彼女に非はないようだ。
「関係ない……といえば、そうかもしれません。ですが、私は彼女の友人なので」
セイディのその言葉を聞いて、一番に動揺したのはマルレーネだった。だが、青年たちはそれに気が付くことはなく。セイディのことを頭の上からつま先まで見つめると「じゃあ、その女の代わりに償ってくれるのか!?」と言ってすごんでくる。それでも、セイディは怯まない。
「償う、とはどういうことでしょうか?」
凛とした声でそう言えば、青年たちは明らかに動揺していた。……今が、隙になるかもしれない。そう考え、セイディは「具体的には、何をしたのかをお教えいただければ、と」と言い、青年たちを見据える。それに、都合が悪くなったのだろうか。青年たちは「金をよこせ!」とセイディに詰め寄ってきた。
「この女の所為で、そこの水たまりに嵌ってな。服が汚れたんだよ! 慰謝料だ、慰謝料!」
「さようでございますか」
確かに、青年の一人の衣服は汚れている。水たまりに嵌ったというのも、納得できる汚れだ。かといって、それがマルレーネの所為だとは考えにくい。彼女にぶつかったとか、そういう理由も考えられるが、マルレーネには青年とぶつかるような度胸はない。それに、マルレーネはこれでもよく周囲を見ている……と思う。だから、青年たちが数人で歩いてきたのならば、気が付くはずなのだ。
「では、そこにある監視の魔道具を見せていただきましょうか」
セイディはそう言って口元を緩めた。幸いにも、ここはオーディッツ男爵家の敷地から近い。そのため、防犯のための魔道具がどの位置に配置されているかを、セイディは知っていた。そして、丁度すぐそばの木に。それが付いていることを、セイディは知っている。
「なっ……!」
「私、このお屋敷の方と親しいのです。お願いをすれば、見せていただけるかと」
正しくは、この屋敷に住まわせてもらっているのだが。そんなことを心の中で付け足しながら、セイディは今度はにっこりと笑った。その笑みを一体どういう風に受け取ったのだろうか。青年たちは「そ、そんなの……!」「話が違うじゃないか……!」などと口々に言っている。やはり、変な因縁をつけていたらしい。
「一つ、言わせていただきます」
慌てふためいた青年たちを見据え、セイディは凛とした澄み切った声でそう言葉を発した。その言葉を聞いたためか、青年たちは露骨にぎくりと言った風な表情になる。嘘がバレたことに動揺しているのだろう。だからこそ、セイディは「一人のか弱い女の子に寄ってたかって因縁をつけて……恥ずかしいと思わないのですか?」と告げた。
「万が一彼女の方に非があれば、彼女は認めると思います」
「な、何を根拠に……!」
「私、彼女と友人だって言いましたよね?」
まっすぐに青年たちを見据えてそう言えば、青年たちは「く、くそっ!」と言いながら走り去っていく。……どうやら、面倒なことになる前に退散したらしい。それは、正しい判断だ。そう思いながらセイディは先ほどから何も言葉を発しないマルレーネに視線を送る。
「大丈夫ですか?」
ゆっくりと彼女にそう問いかければ、マルレーネは肩をびくりと震わせていた。……もしかしたら、怖がられているのかもしれない。先ほどの態度を見れば、そう思うのもある意味納得だ。それが分かるからこそ、セイディは少しだけマルレーネから距離を置いた。少しでも離れれば、彼女も大丈夫だろう。
「……だ、だいじょう、ぶ」
それからしばしの時間が経って、マルレーネはようやくそう言ってくれた。その声は弱々しく震えており、きっと怖かったのだろう。それが分かるからこそ、セイディは「災難でしたね」と声をかける。
「ああいうタイプは、はったりにも弱いですよ。なので、はったりを使ってみることをお勧めします」
「そ、そう」
万が一監視の魔道具がなかったとしても、ああいうことである程度はけん制出来る。それを、セイディは知っていた。
「ああいうことをするタイプは、結構小心者が多いので」
そして、マルレーネに視線を向けながらそう告げてみた。