最強聖女の始まり
ずーっと書きたかったたくまし令嬢のIFストーリーです(n*´ω`*n)
気まぐれに更新していきますので、よろしくお願いいたします!
リア王国の中央付近にあるヤーノルド神殿。そこには、「最強の聖女」とこの付近で呼ばれている聖女がいる。
サラサラの腰までの濃い茶色の髪。おっとりとして見える綺麗な赤色の目。自分を磨くことに興味がないのか、容姿は派手ではないものの、どことなく人のよさそうなオーラを醸し出している。その聖女は三年前に没落したオフラハティ子爵家の長女であり、何処かメンタルが強めの少女。その聖女の名は――セイディ・オフラハティ。最近では王国の大臣たちまでをも唸らせる、力の強すぎる聖女である。
「……えっと、まずは……」
そんな風に大臣たちに言われているなど、想像もしていないセイディはヤーノルド神殿の近くにある商店街を歩いていた。ヤーノルド神殿では備品の買い出しなどは交代で行う。今回はセイディが買い出しの当番であり、のんきに買い物を行っていた。
「うわぁ、今回これがあるのかぁ……。これ、結構重いのよね……」
買い出しのメモを見つめ、そんなことをつぶやきながらセイディはゆっくりと歩を進める。手に持ったメモに買い物を行う順番などを書き込み、セイディはまずはと軽いものを買うことにした。食材などは出来る限り神殿に届けてもらうのだが、どうしても足りない時などはこうやって聖女が買い出しに出向く。ヤーノルド神殿の現神官長、エーベルハルトは倹約家だ。出来る限り、節約をする。それが、彼の考え。セイディは常々その考えを神官長の息子であるジャレッドにも見習ってほしいと思っているが、その願いは今のところ通じたことはない。
ゆっくりと商店街を歩き、買い出しを行っていく。食材に備品、様々なものを買い込み、買い物袋はいっぱいになっていく。最後に一番重い備品を買い込んだ後、セイディは帰路に着くことにした。とりあえず、一旦ヤーノルド神殿に戻るか。自分の物もこの際買っておきたいが、この荷物を持ったままでは無理だ。そう判断し、セイディは帰路に着くことを選んだ。
「今日のお仕事は買い出しが最後ね。……はぁ、なんて平和な日々」
そうぼやき、セイディは空を見上げる。実家の子爵家があったころは、家に帰ってもろくに落ち着けなかった。しかし、一人暮らしになった今、家は天国ともいえる場所だった。元々住んでいた子爵邸とは似ても似つかないほど、ちっぽけなワンルームのアパートだが、それでも天国に違いない。誰かに文句を言われることもなく、のんびりとくつろげる場所。……虐げてくる父と継母も異母妹もいない。それだけで、天国になるのだから自らはなんと単純なのだろうか。
そんなことを考えながら、セイディは重い買い物袋を持ち、ヤーノルド神殿に戻っていく。途中数人の人間とすれ違ったので、軽く会釈を交わす。そんなことをしながら歩き、ヤーノルド神殿が目の前に見えてきたころだった。ふと、一人の男性がヤーノルド神殿を見上げていることに気が付いた。その男性は騎士服に身を包み、呆然とヤーノルド神殿の前に立ち尽くしていた。……その横顔は、とても美しくセイディは思わず息をのんでしまう。……何故か、その男性には人を惹きつける魅力が確かにあった。
「……あの」
だが、もしかしたら彼はヤーノルド神殿に用事があるのかもしれない。神殿を訪れる騎士は、かなりの数がいる。それは治癒目的だったり、解毒目的だったり、話を聞いてもらうためだったり。目的は人それぞれだが大体は聖女が用事がある。でも、その男性の騎士服をよく見るとここら付近にいる騎士とは少し違う。……なんというか、どこか豪奢なのだ。それはまるで、王都にある騎士団の面々が身に着ける制服のようで。
「……ここが、ヤーノルド神殿?」
セイディが声をかけたからか、その男性はそう問いかけてきた。その際に、その男性とセイディはばっちりと目が合ってしまう。その男性の綺麗な青色の目は澄み切っており、どこか気品さえ与えてくる。顔立ちは美しく、女性である自分よりも綺麗ではないかと、セイディは思ってしまった。その男性を呆然と見つめていれば、その男性はただ「そう、また来るわ」とだけ言い残し、ヤーノルド神殿に入ることもなく立ち去ってしまう。
「……また来るって、どういうこと?」
今、用事があったのではないだろうか。なのに、あの男性は「また来る」とだけ言葉を残し、さっさと立ち去ってしまった。……もしかしたら、場所の確認に来ただけなのかもしれない。ならば、自らがどうこう言う筋合いはない。そう思い、セイディは一旦ヤーノルド神殿の中に戻ることにした。いい加減、買い物袋が重すぎて手がしびれてしまいそうだったというのも、関係している。
ヤーノルド神殿の中に戻れば、いつものように聖女たちが和気あいあいと談笑していた。基本的に仕事がない時間の聖女はこうやって交流スペースで談笑をすることが多い。もちろん、セイディも暇なときは同僚たちと会話を交わしている。同僚たちとの交流も大切なことなのだ。
「あぁ、セイディ。おかえり~!」
セイディが交流スペースに足を踏み入れれば、聖女たちの中で最も仲のいいアリアが出迎えてくれる。にっこりと笑い出迎えてくれるアリアに、「ただいま」とだけ返し、セイディは一旦買い物袋をテーブルの上に置いた。その後「はぁ」とため息をついて「疲れた」とだけぼやく。買い出しは重労働だ。そう思いながら、セイディが肩を回していれば、ふと思い出したようにアリアは手をパンっと叩いた。
「神官長がさ、セイディが戻ってきたら執務室に来るように言ってくれって、言われていたのよ。……荷物は片付けておくから、早めに行っておいで」
「……いいの?」
「うん。いっつも助けてもらってるからさ。ほら、行った行った」
アリアに背を押され、セイディは渋々といった風に神官長の執務室に向かう。……何も、へまはしていないはずだ。だからこそ、呼び出される意味が分からない。そんなことを考え、セイディは頭上にはてなマークを浮かべていた。