友から裏切り者と言い渡される俺
そう言えば、昔、ナミとマキちゃんがケンカした時なんかに俺、マキちゃんの頭をあんな風に撫でていたっけ。
部屋に戻った俺は、小さい頃の二人を思い出していた。
まさか、この歳になってやり返されるとは……。
それにしても、目の前にあった、彼女の胸、大きかったなぁ……。
そんな事を考えていると、妹の声がドアの外からした。今日は鍵をぬかりなくかけておいたから中を覗かれるようなことは――ないっ!
「お兄、部活、明日はさぁー」
妹が何かとんでもない事を言い出しそうな雰囲気を感じ、俺は急いでドアを開け、ナミを部屋の中に引き込む。何を廊下で言うつもりなのかっ!!
「もう、何? 聞かれて困るような事?」
「困るだろ? 兄がこんなキャラクター使ってたら?」
「え? 可愛いんじゃない?」
「は?」
「ミツキちゃん、可愛いじゃん」
そりゃあ、可愛い女の子を目指して作ったから可愛いは間違いじゃない。間違いじゃないけどなぁ――。
「兄の威厳が」
「最初からないでしょ。そんなの。それで、明日なんだけど」
容赦なんてない、ストレートパンチを叩き込まれた俺は心だけダウンしながら、彼女の続きの言葉を待つ。
「明日さ、私いないから、マキの家には一人で行ってね!」
「はぁっ?!」
「じゃあ、そういうことで」
「まてまてまて! 俺一人とか無理に決まってるだろ?」
「…………」
少し【考える人】のように考えていたナミは、口元をゆっくりあげて声を出さずに笑った。
「……大丈夫、ちゃんと話はついてるよ」
「は? え?」
「それじゃあね。お兄」
ニヤニヤしながら、部屋を出ていくナミを見つめながら、俺は一人考えていた。
いや、どう頑張っても無理だろう?
何をどうしたところで、ナミがいないのにマキちゃんの部屋に行ける訳がない。
なのに、ナミは何故あんなにも自信満々だったのだろうか――。
◇
「というわけなんだ。友よ、助けてくれ」
「いや、わからんな。全然わからん。何がどうなって幼なじみの部屋に行くかを説明してくれないとだな。裏切り者よ」
茶色に染めた短い髪の男が冷たい視線を送ってくる。
彼は七瀬勇樹。中学、高校とつるんでいる友だったが、今日から裏切り者扱いになってしまったようだ。
「彼女がいない僕に対する宣戦布告だな。そうに違いない。お前もヤツのように僕より先に……」
そう言えば最近、ユウキの双子の弟に可愛い彼女が出来たそうで、イライラしていたんだった。
「僕も可愛い彼女が欲しい!」
「だから、彼女じゃなくてだな、ただの一個下の幼なじみだって」
「なら、何故そんな、けしからん事になるんだ!」
「あー、それは……、見られたんだよ。一人でしてるところを――」
「なん……だと……」
「そしたら、妹も一緒になって、俺を無理やりだな――」
「裏切り者ぉぉぉーーーーー!!」
遠ざかるユウキの足音。待て、俺はまだ説明の途中――。
「はぁ……。どうしたものか……」
◇
「やっほー、樹君」
門の前で待つ、制服姿のマキちゃん。違う高校の女子が門の前で待っているという、めちゃくちゃ目立つ状況に俺は頭を押さえる。
「今日もよろしくね!」
そう言って、彼女が笑いかけてくれる。
俺の隣にいた、ユウキは、にっこりと笑いながら「爆発してしまえっ」と言い、走っていってしまった。
はぁ、明日謝ろう。
ん、あれ? 誰だ?
彼女の横にもう一人、少し背が低い女の子が一緒に居る。
「私の友達、月城唯ちゃん。ゲーム好きだから、色々一緒にしてるんだ」
「よろしくお願いします」
そうか、二人きりはこれで回避出来た訳だ。しかし、また可愛い子だな。黒髪を短く揃えた、ショートボブかな?
格好いい髪型なのに、すごく可愛い顔なのでそのミスマッチさが可愛さを際立たせている気がする。
「よろしくお願いします」
俺がペコリとお辞儀すると、マキちゃんが自分の口に指を当てながらあることを言ってきた。
「ユイちゃんは、ラブラブな彼氏がいるから手を出しちゃ、ダメですよ!」
「あ……、はい」
そりゃあ、そうだろうな。こんなに可愛い子だもんな。
俺は頷きながら、二人の女子高生の後を追いかける。二人きりだったらと想像して悩んでいたけれど、二人の女子高生の後ろをとぼとぼついて歩く俺の図もなかなかくるものがあった。