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サバゲー23区  作者: 流石 挿入画
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第3章

よろしくお願いします。

サバゲーから少し離れて少し政治臭い話をしよう。

東京には都区財政調整制度と呼ばれるものがあることをご存じだろうか。

調整三税と呼ばれる税金は一度全て都に集められその内の五十五%が23区に財政の状況に応じて振り分けられる制度であり、この制度は23区全土を一つの都市として成長させる為に必要なものとして極めて重要な役割を持ったものなのだが、23区内には当然のように税収に格差がある為に他の区に比べてある意味では損をしていると感じる区があっても無理はない。

2000年に入って千代田区が提案した千代田市構想がそれである。

千代田区は大企業の集合体。

当然のように固定資産税などの額は極めて高い。

だがこの構想は他の区の猛反対によって結局のところ失敗した。

しかし時代の流れに沿って人口の移動などいろいろな要因が重なりこの構想を支持する区民が現れ始め千代田区を筆頭とした税収の高い区がこの構想を支持し始めたのである。    

その流れは勢いを増していき東京では一部の区民同士の確執による争いへと発展。

都はこれを防ごうとするも難しくなっていき住む場所地域によって罵詈雑言を与える者も表れ、時には暴力沙汰にまで発展していった。

一度ついた火種は瞬く間に大きくなり、区の独立は避けられない状況となってしまう。このままでは完全に破綻してしまうと考えた足立区を筆頭とした葛飾区江戸川区の低収区連合はなんとかしようと奮闘する。

そうした中、いい加減区長達の文句に疲れ果てていた東京都知事はこう言った。


「じゃあもういっそ交付金の振り分け方をわかりやすくしようや。バカな区民どもにもわかるような簡単なやり方でな。それなら文句ねーだろ。もうめんどくせーんだよほんとさぁ……。どうする? マジどうするよ交付金の振り分け。なんかこう解りやすい方法でサクッと決めちゃおうや。あー、そうだな、あれだあれ、あのなんだっけ? あーそうそれそれ、サバゲーだサバゲー。それで何? 陣取り合戦みたいなのすりゃいいじゃん? 陣地の大きさで交付金の量を決めよ。うん頭良いわ俺。ほらお前ら今まで散々好き勝手暴れたんだし好きなだけ暴れろよ。だーいじょうぶ。ちゃんと細かい決め事は作るよ? 都庁の連中が。だからもう勝手にやれよめんどくせえ」


今まであらゆる公共事業を都庁がやってきたものを「じゃあ全部お前んとこでやれよ」と言われると実際は区は難しい。

なので都区財政調整制度の形は残し、制度の関係で今まで交付金が貰えなかった港区も貰えるということや駅のある町に関して交付率が上がるという理由で陣地の広い区も主要な駅を持つ区も続々と賛同。

違うことがあるとすれば都庁がサバゲーを管理する立場になったこと、区内の街を区同士で奪い合うことができるようになったことである。

これではまるで戦争そのものではないかと憤るサバゲーマーもいたが世論の勢いはそんな声に耳を貸すこともせず一気に本格的な衝突へと向かう。

だが、一部のサバゲーマー達による必死な声に応えた都によって陣取り戦におけるサバゲーは従来の形からかなりハイテクなモノへと変化を遂げることとなる。

 

陣取り戦を行うプレイヤー達は基本的に特殊なライダースーツの上に従来通り防具や装備を身につけることとなる。

それとは別に腕に装着することで全身の振動をキャッチしBB弾のみに反応し、大きな音でヒットコールを上げる腕輪を装備することとなった。

これは当たれば即座に反応し音と夜間なら色も加えてヒットを知らせてくれる代物で、身につける防具に応じて対応できるように設定されており、ゾンビ行為を不可能にする効果を持つ。

またライダースーツは非常に防弾性に優れており、それこそBB弾を至近距離から受けようと軽量化されたとはいえ通常ならば大怪我に繋がるようなグレネードの放り投げ行為。  

それもまず怪我をするようなことは無いとされている。

実際現在このスーツを着てから始まったプレイ中においての怪我人は報告されていない為ひとまず信用してもよさそうである。

極端な話これさえ着てれば防具なんぞ身につけなくてもオーケーという高性能っぷりだ。

ただしその際の見た目は保障されていない。

さらにゲーム中戦場となる町の上空にはカメラ付きのドローンが展開され、予め許された場所以外の住宅やビルに侵入することや規定以上の危険な行為、プレイヤーに選ばれた人間以外の町中への立ち入りを厳しく取り締まっている。

そして例外としてこの公式認定の戦場においてのみ原則として14歳から18禁の装備が使用可能となっている為、プレイヤーの中には普通にお前まだ小学生だろというような女の子もチラホラ見受けられるから不思議に思う者もいることだろう。


であるからして、高校生である削間も目の前のチビも問題なくサバゲーをやれているというわけだ。

そのチビがこちらの視線に気づいたようで、


「ちょっと何やってんのよバカ、しっかり辺り見回ってよね。見つかったらどうすんのよ、相手はまだいっぱいいるんだからね!」


 籠り気味の小さな音量で注意を促してくる。


「俺の行動よりお前の行動の方が目立ってるし声がでけーっての。その相手さんに見つかるぞ」


ハッとした表情で口を両手で押える白鳥、の手から落ちる電動ガン。

落ちた衝撃でそこそこの音が響く。

口を塞ぐ行為にどれほどの価値があったが解らないが、少なくとも近くに敵がいれば気づかれたことは間違いない。

相手に位置を特定されたかと少しだけ焦る削間を余所に、銃を拾い上げ壊れてないか必死な形相で調べる白鳥は、困った表情で削間を見てきた。


「こここ、これ壊れてないよね? もももし壊れてたら弁償だよね? そんなことなったらお小遣いから引かれちゃうよぉ」

 気づかれたかどうかより支給品の銃の心配をするあなたはほんとに区長の孫娘かと問いたくなる。


「どうだろうな……」


サバゲー素人である削間は当然だがこういう類の物の値段は詳しくないが、おそらく普通の高校生の小遣いで弁償できる値段でないことだけは判る。

ただ白鳥は区長の孫娘。

仮に数万するであろうおもちゃの銃でも払おうと思えば払えるのかもしれない。

もしそうであるならぜひその銃には戦死していただいてブルジョア学生の小遣いを減額してもらいたいものだ。

しかしここはとりあえず落ち着かせた方がいいと思った削間は


「大丈夫だって、どこも壊れてやしないって。そんな顔すんな隊長」


と気休め程度の言葉を使う。

その言葉に少し安堵の表情を浮かべた白鳥だったが次の削間の言葉に、


「そもそもこの電動ガンにしろ防具一式にしろ区からの支給品じゃねえか。元手は俺らなら葛飾区なんだし、そこの親玉の孫娘のお前がいちいち気にするようなもんでもねえだろ。壊れたならまた支給してもらえばいい。出したい放題やりたい放題、ドラえもんのポケットみたいなもんじゃねえか」


ギラリとしたどこぞの爬虫類のように鋭い瞳が夜闇に輝く。

知ってる事実をありのままに伝える削間に白鳥のキッとした鋭い眼光が突き刺さるのである。


「アンタほんっとに何も解ってないわね! 何度同じこと言えば気が済むわけ!? 今の葛飾区にとってね、このサバゲーの備品一つとっても重

要な資産なの。財源なの。壊したらまた買えばいいわなんてブルジョア区民共、いやブルジョア愚民と同じようなこと言わないでくれる?」


削間からすれば白鳥も十分ブルジョアの階級だが、実際現在の東京では当初見越していた通り区同士の間にはかなりの格差が生まれていた。

区の広さこそ葛飾区はマシな部類だが主要な駅、こいつが問題である。

都庁の言ってた駅を持つ町に応じてって部分で千代田区やらが賛同した理由がここだ。

駅に応じてもランキング付けみたいなもんがあり、駅の利用率の高さに応じて相当な配当があるわけで、東京駅やら新宿駅みたいなでかい駅の町一つあるだけで区内にある、そこらに分類される町何個分にも勝る価値があるわけだ。

その結果交付金の額も上がってるようで、逆にこちら葛飾区は下がってしまったという単純な話。

そのせいか千代田区や新宿区みたいなでかいとこはほとんど動きを見せておらず、逆に葛飾区やお隣江戸川区足立区なんかはしょっちゅう陣取り戦。

そのせいで財政が圧迫されてんだから本末転倒。

裕福な区に攻め込む余裕も無いし、そもそもあちらは金にものを云わせて攻め込まれないよう戦力をしっかりと周りに見せつけてきてる。

陣取り戦が過激化したことによってそれを嫌がる人の移動が加速。

他の区に移る者だけでなく県外に移動する者まで続出。

仕事をする為だけならわざわざ面倒事に巻き込まれてまで東京に住む理由はないからだ。


「ムカつくわ~、葛飾に生まれたなら葛飾に骨を埋めるのが基本でしょ基本。それをちょっとあれになったからって見捨てる奴ってもう最悪。プライドってもんがないのかしら葛飾区民の誇りが。ほんっともう! ありえないえりえないありえないんですけど!!」


小声であからさまにイラついた声をだしながら地団駄を踏む白鳥。

こいつは今隠れているという事実を忘れているのだろうか。


「そんなこと言われてもなぁ」


どう返していいのか言葉に困る。

そもそも全員が全員葛飾生まれの葛飾育ちでもなく地方から来た人間だってめちゃくちゃ多いわけで、誰もが愛着があってここに来た奴ばかりでもないだろうに。


(口が裂けても言えんがな……言えば文句が加速するだけということを俺は知ってるのさ)


中には現在地の隣の駅のように悪い方に有名になっちゃって死神求めて上京してきた奴だっているだろうよ。

少なくとも削間に成田エクスプレスに飛び込む勇気は無い。

そんな勇気があるならせめてその前に今よりもう少し真剣に生きるだろう。


(朝の時間、特に雨の日は止めてもらいたいもんだ)


「とにかく私はジジイと約束したの、東京全土を葛飾区にしてやるってね。葛飾都構想の実行よ。もちろん完成させたあかつきにはまず金にものいわせて高い装備でお高くとまってるブルジョア愚民と裏切り者の抹殺……じゃなくて莫大な税を掛けてやるわ。もちろんその際に逃げようなんて人間は即地獄行きよ」


とんでもないことを言い出しやがった。ちなみにジジイは区長のこと。呼び方がこいつの性格をよく表している。


「おいおい、ここは現代日本だぞ。どこの独裁都市の真似だそりゃ。そんなことまかり通るわけねえだろ。つーかお前が地獄に行け」


こんなことマジで考えてるんだとしたらとてもではないがこのアホに力は貸せないと削間は内心思うが面倒は御免である。

貸そうものならきっと死んだ後、天国と地獄の門の間に座っているであろう人間なんて目じゃないでかさの閻魔大王様らしきガタイのいい爺さんに笑顔で「オマエコッチナ」と地獄の門を指名されることだろう。


「なーんて冗談よ冗談、そんなことするわけないじゃん。独裁者の最後は大抵お決まりだかんね。身内に殺されるなんて間抜けな最後私は勘弁よ」


そういう白鳥の表情はどことなく作り笑顔にも見えた。


「それより全然攻めて来ないわね。どうなってんのかしら」


「そういえばそうだな……」


これだけ音を出して談笑していれば玉の一発でも撃ってきておかしくない。

だが来ない。

何故だろう。

まだ試合終了まではまだ二時間ほどあるはずだ。

ありがとうございました。

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