第1章
サバゲーについてネットや動画を見たりして一から学んでみて、サバゲーの歴史などについても勉強してから書きましたが、サバゲーマーからすると陣取り戦にサバゲーが利用されるのを不快に思う方もいるかもしれませんが、ご了承ください。
まだ日も落ちていない街中。
どこかが、何かがおかしい。おかしいはずなのだ。
だが、そう感じる者はこの街にはいない。
やけに風通しがよく感じるのは建物の構造のせいではない。
いないのだ、人が、気配を失った殺風景な街並み。
普通ならばスーツ姿のサラリーマンや町を徘徊するおばあちゃんまで、その全てが複数の人間を除いて完全に姿を消してしまっていた。
ガチャリと音を立つ。
黒い人影が獲物を狙う狩人のように息を殺し、その瞬間に狙いを定めた。
身を潜める女。
そして何かの力で口元を吊り上げられたように二ヤケ面をしつつ、
パスっという空気音を発生させる。
やけに軽い音の後、飛び出た数ミリの丸く白い玉が直進して、同じように身を潜めていた人間に辺り、手首に装着された特殊な腕輪がけたたましい音をがなり立てる。
「もらいね。ちょろいもんねほんと。余裕って奴かしら。我ながら自分の腕に惚れ惚れしちゃう」
『油断しないでよシオ姉敵はまだまだいるんだから』
シオ姉と呼ばれるフワフワした茶髪の女は迷彩服に身を包んでおり、普通とは程遠い風貌だ。
そんな彼女の近くに置かれた無線機。
そこから聞こえてくるのは、少女のような声だった。
『解ってますとも毛歌ちゃん。お姉さんこれでも真面目にやってんのよ? たださっきから目障りなコバエがウロチョロしてんのが不愉快だけどさ。いっそあれごと討ち抜いちゃダメかな。いても邪魔なだけだしさ』
『鉄砲玉は少しでもいた方がいいでしょ。それより頼むわよ、絶対に負けられないんだからね』
「絶対に負けられないか~。うん、そうだよね。適当に片付けていきますか」
そう言う彼女の手にはやけに長く大きい、ライフル銃が担がれていた。
「――ほらほらおいでー」
スコープを覗き込み狙いを定める女の視線の先に『敵』が映る。
彼女の前では敵はどこにいようと丸裸。
邪魔さえなければ一発必中。
いや、そもそも彼女にとってただの邪魔など邪魔にはなり得ない。
そのはずだった。
「――ッ」
引き金を引こうとした直前銃身を上げる女。
「もうなんなのよあいつさっきから、邪魔くさいったらないわねほんと。あんたはお呼びじゃないって奴なのよ」
再びスコープを覗き込む。
しかし映るのは先ほど視界を遮った迷彩服の男。
その度に狙いを変えなくてはならないことに女スナイパーの苛立ちは増していく。
毛歌と呼ばれる女に言われたことを守るより、さっさと片付けた方がいいのではと女は思ったが、逆らって後から文句を言われるのも癪なので素直に従うことにした。
「ほんと面倒って奴ね」
その男が敵ならば良かった。
しかしそいつはよりにもよって味方だった。
だから当然撃つわけにはいかない。
風が髪をなびかせ視界を遮る。
その髪を片手で掻き分けながら、再び銃口を狙いへと向ける。
スコープを覗き込む。
そして敵に照準を合わせる。
「また――」
だがその度に射線上に出現するその男に女は苛立ちを感じ舌打ちをした。
「ちょっとー勘弁してよね……一体何なの?」
その日。その一戦が終わるまで女が男に話しかけることは無かった。
途中で話しかけれたのならしていたがあまりに距離があったからだ。
男は遥か前方で女は遥か後方だったから。
「――ッ」
女は頭を掻きながら呟いた。
「…………最悪って奴ね」
その日負けるはずがないと誰もが疑わなかった戦い。
それがある一つの『邪魔』によって敗北に導かれてしまったのはまだ肌寒い季節のことだった。
ありがとうございました。