表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界革命  作者: パラダイス タイム
第4章 降り掛かる災厄
73/87

70話 2つの異世界

誘拐事件からまる2日が経っていた。


ミカはとある古びた屋敷へと運ばれて檻の中に閉じ込められていた。


しかしミカの心は至って平常だった。


むしろ楽しさまであったのだ。


檻の中には仲間が沢山いて親切にというか自分の娘のようにとても可愛がられていたからだ。


「ミカちゃんこれあげる。


私のご飯も食べて!」


1人が配膳された食事を全てミカに差し出すと我も我もと皆が差し出してきた。


「え、え!?いや、あ、あの自分の分だけでお腹いっぱいです。


き、気持ちだけいただきます。」


異様な状況に思わず動揺していた。


異様といえばこの周りの環境というか光景は異様そのものである。


檻は部屋の左右に分かれており右には人が左には獣達が収容されていた。


獣の方は至って静かである。


なぜなら獣達は餌も与えられておらず傷だらけで衰弱しきっているからだ。


ミカはそんな反対側の檻を決して見ないようにしていた。


いずれ自分もそんな風に、そう頭を過らせないためである。


また人が収容されているこちら側も同じく異様であった。


女性しかおらずそしてミカ以外の全員が服はボロボロの身体は傷だらけである。


ガチャ。  ギィィィ


檻の大広間の入り口が突如開いた。


人の檻を中心に急な静まりをみせた。


周りの雰囲気の変化にミカも気がつき身を強張らせる。


隣の女性はそれに気がついたのかミカの腰に手を回し摩ってあげた。


そんな周りの空気とは真逆の優しさを感じたミカは緊張しながらも体の強張りは取ることができた。


「「よっこらせ!」」


2人の大男が何かを反対側の檻へと運んでいった。


ギィィ  バタン


そして再び閉ざされる大広間、しかし誰も口を開こうとはしなかった。


いや開く前に運ばれてきたものに皆一様に釘付けになっていたからだ。


ミカもそのうちの1人だった。


運ばれてきたのはミリンの下で養殖されており、何度も見たことある猪、なのだが顔から背中まで至るところに結晶が生えていた。


いやミカからしたら刺さっていたように見えたであろう。


「あれって魔獣!?」


誰かが1人やっとのこと口を開いた第一声がそれだった。


魔獣、この帝国では神出鬼没の獣である。


だがそれはただの獣ではない。


猛獣よりも大きさが一回り大きく何より特徴的なのは体に生えた結晶だった。


それは結晶の数、大きさがその魔獣の年齢、強さを表していること。


普段の猛獣の突然変異であると言われている事。


精霊魔法のような事象改変を使えること。


一般的にはこの3点以外未だ判明しておらず謎大き存在なのだ。


実は魔族は一部の魔獣を従えさせていることは極一部の人間が知っておりそのもの達の更に極一部は魔族と完全に敵対しており集落同士で紛争を起こしている。


この檻の中ではある1人を除き全ての女性達が魔獣を見るのは初めてだった。


魔物なら街を襲いにくるため生きていればよくあることなのだが何もなければ魔獣は街を襲わない。


だからこそ誰も怯えたり恐怖したりはしていない。


その魔獣を見たことある1人を除いては...


「......カちゃん??ミカちゃん??ミカちゃん??大丈夫??」


「......!!」


大丈夫??その一言をかけられるまで少女は恐怖し怯え、震えていた。


家の裏庭に住みついていた魔獣に幼い頃母を殺されたことのある少女はその当時の記憶を呼び覚ます。


そしてその記憶を声をかけられた女性へと打ち明けるのだった。


.....


「そう。そんなことが...」


打ち明かした頃には皆が泣いていた。


それは少女が5歳にも満たない頃、38歳の父親が亡くなった2日後の出来事だった。


教会に遺体を運び込み母親と2人で丸一日祈りを捧げたその帰りだったのだ。


遺体を魔獣が住みつく庭へと埋葬していたところ馬と同じくらいの大きさの狼型の魔獣が突如母親を襲ったのだ。


棺を穴に入れ這い出てくるその時に襲われ夫婦揃って埋葬されることになってしまった。


少女はただ泣いていた。


誰かと合唱しているかのように2つの悲しみと泣き[鳴き]声を奏でながら。


少女はただ同調するかのように泣いていた。


村の者が駆けつけた時、猛獣はその場を去っていった。


そんな約7年前の悲しい記憶だった。


檻の中、シクシクと泣き広がる中で少女は更なる恐怖心で震えだしていた。


(....ぐうぅ人間め...許さんぞ...人間...


殺す、、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す)


母親を無くす直前聞こえた呪詛のような声、その時のような声がミカの頭の中に響いてきていたのだ。


「い、猪さん?」


声の主に気がついたのか震えながらも声を絞り出した。


(汝、さては混血だな。声をかけるでない!汚らわしい!)


「こ、混血??私の親を知ってるの??」


混血、その言葉は彼女の好奇心を湧き立たせた。


「どうしたの?ミカちゃん??誰かと喋っているの??」


その質問で視線を一身に浴びている事にミカは気づく。


周りの皆は何事かとどよめいていた。


(汝...もしや自分の親のことも血統のことも何も知らないな?まぁ良い。チカラを貸せ!そしたら逃してやる。)


猪は生意気な口調でミカの頭へと言葉を送り込んだ。


(チカラ??力??筋肉??......ない...)


チカラと言われ何のことかさっぱりわからないミカは力から開拓村の筋肉自慢達を思い浮かべ服の裾をめくり自分の腕を確認していた。


(汝...いやお前、まじか...おいおい本当にケットシの血継いでんのか!?)


猪側から突っ込みを受けた。


ガチャ  ギィィ


「おぉいたいた。へぇこれが魔獣か...


確かに結晶だらけじゃん。


この結晶、価値あんのかねぇ...」


部屋に偉そうな人が入ってきた。


それと同時に檻の女性全員がミカを庇わんとミカの前に壁として立ちはだかった。


「お?なんだ角に(たか)りやがって


おい新入りいたろ。服燃やすから出せおら。


ここで買う事になったから早くだせ!」


偉そうな男が檻の女性達を羞恥などお構いなしに裸へと変えた張本人だとそして自分もやはりこうなるのだとミカは覚る。


だが誰一人としてミカをこの男に近づけさせまいとミカから離れなかった。


「ちっどけつってんだろ!」


腰の鞭を器用に振り、檻の間から通し肉壁を散らすように打ちはなった。


何十分も叩き続けていると男はいつもと違い暴力が通じないと気がつき手を止めた。


「まぁいいてめえら全員飯抜きだ。


魔獣とやらと遊んでくるか。


おらおきろ」


男は今度は猪の魔獣へと鞭を打ち付けた。


ぶひぃぃぃぃ


猪の悲鳴が鳴り響く。


ミカにとってはそれは激痛のような言葉の響きだった。


頭に直接語りかける、いや訴えるかのような形で頭に響いたからだ。



(....ぐうぅ人間め...許さんぞ...人間...


殺す、、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す)


全く同じような呪詛が猪の悲鳴と共にミカを苦しませた。


「失礼します。ガメイ様。精霊魔道士を呼んで参りました。」


男は鞭を放り投げ捨て連れられてきた精霊魔道士の方へ向かった。


「よぉ。元気にしてたか?んじゃ早速だが仕事だ。


逆らったらどうなるかわかってんな?」


「ひぃっ!」


精霊魔道士の男は男とは思えない悲鳴を漏らした。


それは彼もまた弱みを握られている事に他ならなかった。


「この檻の中にガキがいるから痺れさせてでも引っ張りだせ!」


その言葉が放たれた瞬間肉壁の密度が増した。


ミカは苦しい中でもそれが優しさから来ることを知っていた。


それでも少女はやはり苦しかった。


「絶対この子は渡さないわ!2度も娘を失って堪るものですか!」


1人がそう言い返したのに周りも皆同調した。


そう、彼女ら全員母親だったのである。


誘拐という形で愛する我が子とは生き別れになった彼女らにとって突如やってきた幼き少女ミカはある意味娘のような存在だった。


今度は守る。どうしているかもどこにいるかもわからない我が子に代わりこの子だけは守り抜く。


しかしその優しさがミカを苦しめる。


鞭の音、悲鳴、それらはミカの過去に受けた虐待の記憶を呼び覚ましそれらと彼らの優しさの板挟みでミカはジレンマに陥っていた。


結局、ガメイ様と呼ばれていた偉そうな男の興が削がれたためミカは助かった。


その場に精霊魔道士の血塗れの死体と引き換えにして。


少女の道徳とを引き換えにして。


ミカが苦しめられていたその頃ルイスは権限の行使を行い皇帝が住む居住区を案内されていた。


それは城の中心部である。


普段謁見の間などは城の内壁のような感じでぐるりと一周するように全てを囲いさまざまな施設が点在している


しかし居住区となるとそのさらに内側。城の内部となる。


それは下界、外界から完全に隔絶された境地。


ある意味、異世界に迷い込んだかのような気分をルイス本人は味わっていた。


(どうしたものでしょうか...この帝国で最も安全な場所なはずなのに全くもって生きている心地は全くしないです...死後の世界にでも迷い込んだのかな??)


一応、貴族の彼でもそう感じさせるくらい異質な場所と言えた。


彼は城の中にあるガラス張りのようなドーム状の広間へとシトリと皇帝ご本人に案内されていた。


「やっとついたのじゃ!さてシトリはよやるぞ!」


到着早々皇帝がお言葉を発した。


もちろん後に続いて入室する。


入室直後全身の産毛が逆立ちゾワっと感じてしまった。


産毛の逆立ちは全く持って止む様子がなく僕の不安心をより掻き立てた。


またなぜか皇帝は到着少し前より目に見えてわくわくされていた。


「あなた、目的わかってます??楽しむためではありませんよ?」


シトリが感情の抜け落ちたかのような無機質な声で指摘してきた


「わ、わかっておる。楽しもうとなどしておらん。


あれじゃろ。ミカちゃんを追跡すればええんじゃろ?わかっておるぞ!」


そうやはりなぜか皇帝はわくわくしていたのだ。


その小さめな容姿も相まって子供のようにも見えるが皇帝はアドラーの血を引いていて容姿と年齢など普通の人間の感覚で到底、比例、比較できるものでもない。


「シトリさん。この部屋は何でしょうか。何の支えもないガラスのドームといった部屋に見えるのですがなぜここなのですか?」


僕は当然の疑問を投げかけた。


ミカの追跡調査を帝国に依頼するという形で権限の行使をしたのだ。


まさかついて来いと言われ城の更に内部へと案内された挙句わけのわからないガラスのドーム部屋に案内されたのだ。


だが返答は僕の想像を絶する回答であった。


「ガラスに見えるかしら。まぁ水泡はないし薄い膜みたいなものですしね。


はじめますよ。」


相変わらず感情が読めないが指摘されたことに興味が移って周りを見回していた。


水泡、気になるワードを頼りに太陽の方を見てみる。


光の屈折が見てわかった。


ガラスでも屈折はするのだがこの屈折具合はどちらかというと水に近かった。


「え、これ全部水ですか?ガラス使われてないのですか?」


部屋の大きさは半径10メートルの半球の部屋である。


その天井であるドームが水のみで作られていたのだ。


「全ての維持は私がしています。今皇帝に映像見えるように準備させてますのでしばしお待ちください。」


シトリさんは待機でまさかの皇帝が働かされていた。


しかしその異様な光景とは裏腹に皇帝ご本人にはなぜか楽しそうである。


皇帝は部屋の中央付近で何やら皇帝陛下の顔より大きいガラス製のレンズらしきものを微調整していた。


そして何より目を引くのがちょうど部屋の中央に位置する皇帝と同じ高さの大きな大きな蒼い結晶である。


その周りで皇帝はぐるぐる移動しながら調整に励んでいた。


「え、あの今陛下は何をなされておられるのですか?


というか(わたくし)は本当に何もしなくていいのですか?」


なぜか皇帝陛下ご本人が働いて自分は何もしていない異様な現状にそわそわが止まらなかった。


「何もなさらないでください。あなたたちはどうせあの人の趣味で毎日覗かれてますからお気になさらず。」


返ってきた返答がこれである。


全てにおいて気に触る言い方、内容なのだがその思いすら次の瞬間全て吹き飛ばされた。


「シトリ、いやウンディーネよ!できたぞ!」


その呼び声を合図としてシトリさんが分裂し片方が浮いたようにみえた。


その片方は蒼い髪に尖った耳の様相でもう片方は身長が皇帝と何ら変わらないくらいまで縮んでいた。


ここはルイスの知っている魔法のある世界観からも逸脱していた。


ここはもはやもう一つの異世界である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ