68 犯人一行逃避行
ミリンとミリアの2人と別れて3分後、事件現場のロカンダ村に到着した。
「ルイス!すまん!ミカが!ミカちゃんが!」
ロディが俺らを見つけるなりすぐ飛び込んできた。
「犯人と思しき人物はみてますか?」
トイレということは出入り口以外の出入りはできないはず。
なのでよっぽどボーっとしてなければ見ているはずなのである。
ところが事はそう都合よくいくわけもない。
「分からへん!それがな!トイレが両側に入り口があっておそらく裏から連れ出されてしもうてん!」
話しながら事件現場のトイレに到着した。
早速中へ入ると確かに入った側とは反対側にも入り口があり路地裏に出るようになっていた
「これはあれですかね。ここに住む人が混雑しない裏の路地通ってトイレ使えるようなやつですかね。」
マイクが即座に分析し訊ねてきた。
「かもしれませんね。最悪この村の住民が犯人だとすぐに別の街や村へ連れて行かれる可能性すらありますね。」
やはり難解な大事件である。
複数犯を疑って然るべきであろう。
「ロディ、俺はルイスさんと共に帝都へ向かう。お前はミリア嬢とミリン嬢と一緒に証拠探しだ!」
マイクがロディに今後の予定をそのまま伝えてくれた。
「帝都??なら俺らは??」
その疑問も当然であろう。
「あらかた情報集めたら帝都に集合になりますかね。
僕とマイク君で我が家の繋がりでの協力者と皇帝に権限使用して国に依頼を出します。
1ヶ月間はどのみちヴァーミリオン家の離れに寝泊り予定でしたのでミリアがこちらで情報集めたら案内してくれるはずです。
ミカに守るといった約束、果たして下さい!」
活動報告で予定してた1ヶ月をフルに使いミカを救出する!
ミリアにはここの貴族の従者などに話を取り付ける必要もあるためここで俺とミリア、マイクとロディが完全に別れる必要がある。
ミリンには姉の足となってもらうため姉についていってもらう
「マイク!ルイスを頼んだで!ほな!」
裏路地を見回るためか走り去っていった。
「マイク君!帝都まで一走りしますね。」
こうして俺とマイクは帝都に向け、走り出した。
ここから帝都までは約30キロ、フルマラソンほどではないが走り抜くにはかなりの距離である。
(30キロちょい...開拓中の日課の筋トレでの成果が出てくれると期待して頑張りますか!)
そう決意を定め俺たちは走った。
ペースを一定にして走る事で長距離を安定して走れるように意識する。
呼吸もリズミカルに行い、特に吐き切るのを意識して行う。
全てロディが筋トレし始める1番最初に教えて貰った事である。
呼吸とペースさえ守ればきつい流れも楽になりだしていくらでも筋トレができるようになるのだとか...
街を抜け出す刹那、思い出す数々の教えを履修し人々が行き交う帝都までの道のりを2人で駆け抜ける。
その頃ミカは猿ぐつわを咥えさせられ両手足縛られて馬車にて運ばれていた。
「おい!なんで攫ったの子供なんだよ。これじゃあボスの欲求の吐口にならないかもしれねぇじゃねぇか。」
「仕方ないっすよ。待ち伏せして最初に来た女性拐う予定なんすから。
連れいる可能性も考えて1人捕まえたら撤退が定石っす!」
眼鏡かけた細身の男がそう答えた。
「攫った以上捧げる他ありゃせんがしかしまぁ育てれば偉いべっぴんさんになるかもだしええんとちゃいまっか?」
また別の男が続いた。
「そんじゃあ、あんたならこの子、幾らで売るっすか?」
痩せ男の質問に悩む独特な方言の男。
「そうですなぁ。子供の時点で値がいくらか落ちてまんねんがなにぶんこの子は聞き分けがかなりええから点数上がって...売るとしたら金貨5枚でっかなぁ
躾しやすいからいかようにも調教可能って売り付ければ値が更にあげても売れるとちゃいまっか?」
商人としての的確な値踏みを淡々と仲間に説明してみせる。
一般人からすれば違法な人身売買なのに的確というのは不思議な気がするが彼らの日常ではそれは的確そのものであった。
「てかあの子のちょっと灰色が入った目みました!?超チャーミングっすよ!」
痩せ男は聞いておきながら話題を急に変えた。
眼鏡をクイッと抑え上げ次々と彼女の魅力をペラペラと語り出す。
「スレンダーなセミロングの黒髪!ぷにぷにする柔らかな肌!灰色が少し入った黒目!少しだけ細長い耳!どこかしらで亜人の血も入ってるかもしれないじゃないっすか!」
幼子を語り尽くすその形相はまさに変態そのものだった。
「んあ?耳?ちょっとみてくるぞ!」
リーダー格の男は背後から耳に入ってくる情報に驚き飛び退き慌てて後ろの木箱へと向かう。
「ダボンはんどうかされたんか?」
商人の語りを披露した中年の男性が取り引き相手のリーダー本人が前からやってきたことに驚く。
「んやこやつが拐った女子の耳の話したろ。んで確認にきたんだ。」
思い当たる節があったのか商人もリーダー格についていき確認へと向かう
がこん!
中には怯えた様子のか弱い少女が1人手足を縛られて入っていた。
「ヒッ...」
少女の悲鳴が少し漏れそのまま黙り込む。
「嬢ちゃん怯えないでねー。ちょっと確認するだけだからねー。」
気持ちのこもっていない宥め口調で呼び掛けられた少女は過去に受けた心の傷が呼び起こす、「従わねば痛い目に遭う」、そこからくる恐怖心に支配されただただ震えることしかできなかった。
「確かに言われてみれば耳が少し長いような...」
「尖るまではなくとも確かに耳ちょっと細いでんなぁ...混血??いやその子孫やろか」
まじまじと観察されるうちに今は何かされるわけではない、そう知らずのうちに震えそのものは収まっていた。
「耳尖ってるのってアドラーと魔族のケットシくらいだっけか?」
事実、少女の耳は尖るまではいかなくとも少し形状は長いように見えるのだ
しかし福耳とは違う長さで外耳の丸みは無く耳介も丸みが潰れたかのような長さを彼女の耳は持っていた。
「どちらも耳上部が尖った形状の耳を持ってはって祖先が同じ説があるくらい耳似てはるさかいしがらみちゅうもんも多いでんな。」
アドラーとケットシの主な違いは寿命と魔法である。
アドラーは長い寿命を持ちそれは例え混血となった後でも優先遺伝する性質が知れ渡っており過去にアドラーの血を求める愚か者によって戦乱が長引いたこともあったくらいである。
その戦乱を終わらせた者こそアウグストゥス家で皇帝もアドラーより選定されることになっている。
逆にケットシは寿命はかなり短い。
50生きられれば長寿と言われる種族である。
そのかわりに彼らに与えられたものが魔法と言われる類いのもので精霊を介さずに行使でき、また彼らの歴史は魔獣との共存の歴史でもあった。
今まで戦乱の巻き添えくらいながらも繁殖力と共存能力、そして魔法という名の電子操作能力にてこの種族は生きながらえてきたのだ
この相反する二種族は当然しがらみというのも多い。
ケットシ側からすれば何世代の恨みというのをアドラーの当の本人に八つ当たり気味に起こるわけだ。
その二種族と人間を挟んだ構図はルイン帝国、いやこの島国としての歴史的にも闇がとても深いのである。
「お主、親がアドラーかケットシかどちらか知っておるか?」
耳による疑問からかリーダー格の男は連れ去った少女に対して質問しだした。
「あ、アドラー??ケットシ??」
聞き覚えのない単語に少女は困惑する。
間違った返答イコール死と思っていたがため知らない言葉は聞き返してまでも情報を得ようとしてしまったのだ。
たった1つの返答で2人の思考は奥深くで合致する。
(こいつ、混血の割に詳しくないってことはアドラーではないな。
アドラーは長寿という性質上、血筋を大事にするはず...
アドラーの混血の噂はいくつかあるがこいつは違うな。)
(この人達私の親を知りたがっているの??
アドラー??ケットシ??混血??
......
わかんないけど知りたいなら不要に手は出されないわよね?)
あまり知らない両親のことを知れるかも知れない、それは孤児の彼女にとって魅惑の知識欲であった。
故に逃げる、助かるといった事から思考も遠ざかる。そして今が唯一の逃げるチャンスだったことを彼女は知らなかった。
今ここでマイクとルイスがゆっくり走る馬車を追い越したのだ。




