65 再会と村の日常1
帝都に向けて移動を始めてからかれこれ2日が経過した。
川を渡る前の最後の村まで後少しといったところである。
ここで面倒そうな顔見知りに出会ってしまった。
「おやおやおやこれはこれはルイス様ではございませんか。
ご無沙汰しております。お元気ですかな?
ところで貨幣はまだ流されていないのですかな?
もし流される際は商売に一噛みさせてくださいな。」
久しぶりにであったヤミーはずっとこっちのターンと言わんばかりの話し方で一方的に押されていった。
ヤミーはバックパックに茶色い小瓶やら水筒代わりの瓢箪やら色々引っ掛けたような荷物を背負い、体は小さいながらもマッチョであることが窺えた
「ヤミーさんお久しぶりです。
ヤミーさんはとてもお元気そうですね。
まだ貨幣は流しませんし商売に関しては僕は関わるつもりはありませんのでルナさんかリラさんと直接交渉願います。」
このように返事をするとチッという舌打ちが聞こえた気がするが気にも止めずあることを聞いてみた。
「ひょっとしてルークリーの村から来られました?」
ルークリー、それは俺たちが向かっている地方の名前でその地を治める文官の名前でもある。
文官と一言で言っても階級的なもので別れておりルークリーは1番上の位に位置する方で俺やクロードなんかはルークリーさんの傘下みたいな位置づけなのだ。
会社の縮図でいえば俺は平社員、クロードさんは部長、ルークリーさんは課長といったところだろうか
ともかく偉い人直々に治めている村へ俺らは向かっているのだがその方向からなぜか海道を通ってヤミーとばったり出会ったら聞かずにはいられなかった。
「えぇえぇそうでございます。
先月、オスマン村での取り引き終えてその後荷造りと調達も兼ねて帝都へそして先週よりルークリーで取り引きし終えたところでっせ。
ついでに海道を視察しながら湿地の村へと向かおうかなと思っていたところでございます。
そちらの村にもお邪魔させていただいてもよろしいですかな?」
正直この人は胡散臭いのであまり好き勝手させたくないというのが本心なので適当な理由を言って断ることにする。
「いえ今村は貨幣流すための資金集めとして出荷したりで忙しいのでお引き取り願います。
ルナさんもリラさんも居ない中であなたがこられても交渉もできませんしね」
「おぉもうじき貨幣流される予定なのですな?
流された暁には是非お呼び下さい。
私であれば必ずやゼータ商会のような輩より活気付けられましょうぞ!
湿地の村を拠点にしてますので貨幣、流された際はこちらの家へ是非お越し下さいな!」
といわれ1枚の羊皮紙を渡された。
こうして嵐のような、いや嵐そのものであるヤミーは去っていった。
嵐が去れば訪れるのは静けさである
しかしこの静けさが纏う不安は災厄と共に国全土へと広がるのだった。
一方、アルテ・ミスタ開拓村ではマッチョ組が慌しく積荷作業を行なっていた。
「ジーグさんブリィーグさんこちら運んでいただけます?
あ、ウォンさんそちらは甲板の方ですわ。
ダンデンドンさん追加の滑車のセットを倉庫より取ってきていただけません?」
リラがあちらこちらへと指示を飛ばし仕切っていた。
そう、ついに予めルイス達が乗る予定だった船が到着した。
だが今回乗るのはリラだけで他は村から売り払われる物だけである。
これで得る資金は貨幣流す際に使われるためこれがいかに重要な任務であるかリラ自身、痛感していた。
(売る物も売り場すらも確保してもらっておんぶにだっこで稼げないとか商人の恥ですわ。
ゼータ商会きっての人脈フルに生かして絶対に良い値で売らさせていただきますわ。)
その瞳は自分と使える主の期待に応えるべく、また自分自身への挑戦だと言う熱意でメラメラ燃え盛るのだった。
「いやぁ1年でここまで売る物できたかえ?
壮観だえ...」
職人達が集まりだしてきた。
やることがない人が多く何せ一大イベント到来である。
人の習性としてつい集まる者がでてきたのだ。
「んだんだ。旦那喜ばせられるとええな。」
ガンツがソソギに同意の意を飛ばす。
「なんだかんだ1年か。早いな」
「えぇウッディさん」
ウッディとツミキは船作りで距離感というものが一気に近づいたらしく2人を後ろから見るとまるで恋人の図であった。
「あら職人方!おはようございます。
見学されていきますか?」
そんな集まっている職人達の元へ気がついたリラがやってきた。
「見てっていいかえ?面白そうだし見ていくえ」
するとリラの目が鋭くなり突き返す
「ソソギさん、貴方壁の方は順調ですの?
ルイス様が帰宅されるまでにできなければ職人失格ですわよ?」
鋭く突き返されたソソギは何も言わず顔色変えて作業場へと戻っていくのだった。
「おぉ嬢ちゃん怖いのぉ。ならわしも手伝いにいくかの。」
そういうとガンツはソソギを追ってにげるのだった。
「リラ、船を見学していいか?船作り楽しかったが課題も多くてな。
船作りをメインにするわけではないが勉強させて欲しい。」
ウッディの生真面目さが発揮しいてもたってもいられなくなる。
「お、船見学ですかな?お供致してよろしいですかなウッディ殿。」
エッフェルの到着である。
「御二方とも積荷の邪魔にならなければ船への出入りは自由と船長から予め伺ってますので是非見学行かれて下さい。」
リラはウッディ、エッフェルにそう促すと2人はそそくさと入っていった。
ただ1人ついていくと言えずおろおろする者を除いて...
......
これはルイスがまだ村にいた頃。
村の畑ではロビン兄弟と三頭の馬、ミリンが新たな作付準備を行なっていた。
「いつも悪いわね。今日から毎日畑仕事よろしくお願いします。
それじゃあ耕すぞ!おー!」
ミリンは労い、頭を深々下げ、掛け声を上げた。
「「 姉貴! 今年もお願いしやっす!」」
昨年と違うところは2人の筋肉従者がいてその2人ともミリンに惚れてしまったところだろう。
頭を下げた2人は互いを肘でど突きあっていた。
その後、速やかに移動した2人は耕しに入った。
土に空気を混ぜ込み柔らかくすると同時に土にいるありとあらゆる生物を活発にする大事な大事な環境作りである。
馬に道具をつけて馬を操りながら言い争う2人。
「クリス兄さんは歳が離れすぎなんだし無理があるよ。大体なんで同じ人なんだよ。」
「ぅるっさい!ファーおめぇには言われたくない!なんで好きなタイプまで真似しやがる!」
2人はこの喧嘩が地雷だということを知らない。
馬の上で喧嘩するのがいかに愚かなことか
馬は賢くとても感情豊かな生き物である。
相手によって舐めたり付き従ったり蹴っ飛ばしたり態度を変える生き物なのである。
彼らの乗っている馬、それはノワールとホープ。
ラッキーの両親でありこの二頭が生まれた時からミリンが親に頼み込んで世話を任された最初の二頭なのだ。
今まで彼らを乗せてきたのはそんなミリンに付き従う者だから仕方なくでありミリンを求めて喧嘩するのであれば容赦する気はなかった。
まるでミリンの保護者のように不届き者には出直して来いと言わんばかりに...
暴れだした。
「うおっ、ノワールどした?」
「うおっ、落ち着いてホープさん!」
2人が宥めるももはや馬には通じない。
2人は馬より落馬した後、後ろ足にて蹴っ飛ばされた。
「「すんません!」」
2人が息ぴったしの謝罪と共にそう、飛ばされたのだ。
飛ばされた先は馬の意思かどうかはさておき本人の元だった。
「2人ともどうしたの!?え?飛んできた!?」
ミリンが振り返るとそこは小麦畑を挟んで新たしく建てられた自分の家だった。
小麦の収穫後、ミリンが直々に依頼をしロビン兄弟の協力も経て建てられた建物であり、収穫時期には窓から1面金色の園が広がるそんな家に2人で住うのを憧れて建てられた家である。
そんな家の方から仕えている筋肉兄弟が吹っ飛んできたのだ。
驚くのも無理もない。
実際は一階建てのその家の屋根を越すように綺麗なアーチを描き飛ばされたのち転がった先にたまたまミリンがいたという結果なのだがそれがミリンの怒りを煽いだ。
「貴方達...ひょっとして...」
笑顔のまま近づくミリンに気がついた2人は怯え震えて叫ぶ。
「「姉貴!馬を怒らせてすみませんでした。」」
その後2人は饒舌に事の経緯を話した。
もちろん喧嘩の内容はすり替えられている。
ミリンを争う内容から好みのタイプの内容へと
そんな兄弟に丸一日お灸を据えたミリンにより一層惚れる2人が畑を自らの手で耕しているのだった。
それはまるで依存症のように、中毒性を彼らに与えて。
ルイス達が出発する2日前の出来事である




