57 圧力革命1 温度は圧力で上げられる
次の日、朝起きて相方からの書き置きのメモを見て現状把握する。
家の机の真ん中に置かれた鍋を見てほくそ笑む...
(上手くいくか...次の工程で分かる状態じゃねぇかwこれは楽しみだな...)
メモの通りにまずはガンツの元へ向かう。
「ガンツさんおはようございます。頼んでいたやつできましたか?」
ガンツが頼んでいたやつを持ちながら工房から出てきた。
鉄で作られたフラスコ型のものである。
といっても上だけでなく横に2本通路を開口させるための枝分かれがある。
「これじゃな...後もう一つのやつ見に来てくれや...」
「えぇそれが1番大事ですからね...」
ガンツについていき工房内に入る
頼んだのは2つの枝分かれした入り口を塞ぐバルブである。
開けて入れたら閉めて圧力をかける
これでタングステンを完成させるのだ。
バルブの部品チェックを行った。
「基本構造自体は大丈夫そうですね。後はこちらでやります。」
「いや製図通りだと微妙に空気が漏れるんじゃどうするか聞こう思ってな...」
そう渡された製図通りならそうなるはずなのだ。
バルブはボディ、弁座、弁棒、弁押さえ、後はパッキンとその抑え、いわば密閉用のゴムや革などがいるのだ。
しかしこの世界にはゴムはない。いや海外にはあるやもしれんのだがここは温帯
熱帯地域ではないためゴムの木はないと思われる。
化学も発展してないため化学ゴムも今はまだ作れない。
そのため今回は猪の腸を加工したものを使うことにしたのだ。
腸に空気を入れたら縛って風船状にし干して乾燥させる。
カチカチになったら一度水に浸してから鞣す。
その後ほどよく水分を飛ばして完成である。
これをムラができぬよう巻きつけてパッキンとして利用しよういう算段である。
「なんとかなりそうです。」
「あ、言い忘れておったわい。その本体と弁棒?とやらはカザリに仕上げを頼んでくれぃ」
言われて見てみるとネジ穴とネジ自体はあるのだがどうやら滑らかではないみたいである。
微妙な削りするほど細かい作業は難しいとのことだった。
「かしこまりました。作成ありがとうございます。それでは失礼します。」
その後ウッディの元へ向かおうとしていたカザリにばったり会えたので依頼してツミキの元へと向かった。
ツミキにはパッキン用の革作成と圧力をかける側の作成を依頼していた。
「ツミキさんおはようございます。頼んでいたやつはどんな感じですか?」
見てみると何かを塗っている途中だった。
「椅子に腰掛けて少し待ってて下さいね。」
凄い集中しているのがわかり黙り込む。
そっと椅子に腰掛けさせてもらった。
白っぽい何かを塗っているのが見える。
どうやらパッキンを貼り付けてる最中のようである。
かれこれ10分待ったら「できた!」の声と共にツミキが立ち上がった。
途端にいつも通りの雰囲気に戻る。
「あ、あのえ、えぇとそ、そのこ、これです。」
何がなんだかさっぱりだが手渡されたものを受け取る。
「ではこれの外側にギア等を取り付ければ回すだけですかね?」
「えぇとそ、そのことな、なんですけど。こちらにギア等作らせていただきました。」
驚いた。ツミキは元々彫りに関する職人の弟子として入門していたらしいが破門となって以降新たな技術開発に勤しみさまざまな接着剤や加工法の道を開拓してきた職人なのだ。
そのツミキが嫌な記憶の職人技を使い尚且つ頼んでいないことまで作るとは思いにもよらなかったのだ。
「え、えぇこちらの技術はどうされたんですか!?」
ふと疑問に思い聞いてみた。
「え、あ、そ、それはですね、じ、実はう、ウッディさんって私が破門となったところのしゅ、出身だったらしく...その、船作りの際ご縁があったこともあり、お、教えていただいたのです。」
どもりが悪化しながらも教えてくれた。
ついでにバルブの方もパッキンをつけてもらいたいと思い依頼したら快く引き受けてくれた。
手短に終わらせてくれた。
この開拓村の人達はなぜここまで快く引き受けてくれるのか不思議に思いつつも先を急ぐことにした。
「手間が省けました。ありがとうございます。では失礼します。」
「1時間は安静にさせて下さい。」
後ろから聞こえた忠告に手を上げ答え急いで作業場へと向かう。
今カザリに仕上げを頼んでいるバルブ以外を組み立てていくことにした。
水から水素と酸素を分け酸素は加熱室の炉へ水素はガラス製加熱室へ送るようにガラスの配管をしていく。
加熱した水素はガラス管と先ほどガンツから受け取った物とを繋ぐバルブを通りそこで加圧して還元用のガラスへと送るのだ。
加熱に加圧までされて水素を高温にして還元(金属に付いた酸素を取り除く)するのだ。
とあらかたの形に組み立て終えた頃にカザリがやってきた。
「ん」
そういい渡されたものをひとまず確認する。
「流石!完璧です!ありがとうございます。」
顔を隠すように彼はそそくさと去っていった。
バルブを加熱と加圧の間と加圧と還元するガラス室との間を繋ぐように配管し弁の調整と確認を行なっていよいよ完成した。
加圧用の鉄フラスコは180度上下を回転できるようになっている。
バルブの加熱側のガラス間との固定部を小さめのネジで自由に緩めることで回転させるのだ。
還元させる部屋自体は普通のフラスコなのでフラスコごと回転させて問題ない。
というわけで早速やってみることにする。
まずは還元前の物質作りだ。
昨日、相方に作ってもらった結晶にはアンモニアと塩化水素という不純物が混じっている。
これらは加熱することで気体として結晶から抜けきるはずなのだ。
さて!化学の面白い反応が起こるか試す時がきた。
結晶を入れるのに使ってある鉄鍋ごと加熱する。
「あれ?まだ何かやってるの?」
リオンが工房から出てきた。
ガラス管に何かあった時に頼れるようにリオン工房の隣で作業していたからだ。
物音がすれば見にくるのは当然だろう。
「みていきますか?」
なんとなくリオンを誘ってみた。
火がいい感じになったのを確認し窯へと鉄鍋を設置した。
高温でかき混ぜながらムラなく加熱していく。
「え、おぉえ!?青くなった!?」
リオンが驚き、内心でガッツポーズを握る。
(ルイスの野郎やるじゃねぇか2時間の短時間で詰め込んだことを成し遂げるとは...)
真っ白だったはずの結晶はあっという間に真っ青に変貌していた。
これは酸化タングステン特有の色合いで精錬成功の何よりの証拠であった。
心なしか少し減ったのはアンモニアと塩化水素が抜けきったからだろう。
実際目にするのは初めてだが見ていてニヤケが止められない。
ただの加熱でここまで目に見える変化はやはり面白いものである。
できた青い粉を還元用フラスコへと入れる。
加圧用鉄フラスコを逆さに向けたらいよいよ仕上げの還元工程の始まりだ。
水素、それは最も軽い気体であり最も軽い元素である。
1番軽いということは周りのどんな液体、気体よりも浮くということである。
大まかな還元工程の流れは
1.還元用の水素を水を電気分解にて溜める
2.溜めたらこの時点で完全密閉し全体の水素が暖めるまで加熱する。
3.暖め終わったら加熱室と還元室との空気口を塞ぎ加圧する。
4.青い粉の入った還元室のバルブを開き爆発的温度と勢いの水素を直接投入。
これを青い粉がなくなるまで繰り返すのだ。
加熱には水の電気分解で水素と反対の電極で出る酸素を燃料として使う。
電気は人力ならいつでも得られるので実質減るものは水のみである。
ついでに電極を挿す水瓶にはガラス瓶の仕切りを設けておく。
「青い粉が完成ではないのね...もう終わったものだと思ったやw」
水素溜め始めるところまで作業を進めたところでリオンが口を挟んできた。
「これで最後ですので。まぁできるのは粉末なので使用する形へと溶かす必要こそありますがね」
正直添加剤をここで加えてから還元すると還元後整形済みの物ができる。
できはするのだが加えるものを集める手間があまりにも面倒なので頑張って溶かすことにしたのだ。
さてそうこうしているうちにどうやら溜まりきったようである。
確認として試験管を口が下に向いたフラスコに添わせる形で漏れ出る気体を集めていく。
親指で蓋をしたら試験管の口を上へと戻し先程鉄鍋を乗せてた窯より木の枝で火をもらう。
親指を離すと同時に近づける。
ボンっ!と一瞬爆発し試験管内には雫が少しできていた。
水素が溜まった証拠である。
加圧用鉄フラスコに圧縮用の部品を組み立てたのち上下を180度回転して元に戻す。
圧縮用のパッキンで空気漏れも無さそうである。
パッキンの接着剤にムラがあると空気漏れや圧力が掛からなくなったりする
今朝、ツミキが集中して時間をかけて貼っていたのもこのためである。
流石の出来であった。
さて空気漏れの確認も終わったので加熱を始める。
加熱室のフラスコだけを窯の上に乗せる。
これだけで加圧用のフラスコ内にある水素も循環して勝手に温まってくれる。
温まったかの確認は鉄フラスコの温度で確認できるが高温にすると必然的に確認は火傷を伴ってしまうので生の葉っぱを用意した。
定期的にフラスコに乗せていく。
焼かれて枯れるのを目安としそれまで水素を加熱していく。
これでもせいぜい数百度くらいしか上がらない。
頑張って空気を送り火の火力を増しても限界があるのだ。
そのための加圧用鉄フラスコである
ギアで繋がれたハンドルを回すとスピーディにピストンがフラスコ奥へと押し込まれ圧力がかかる。
温度とは元素の振動である。
激しければ激しいほど熱を持ち振動が抑えられると温度も下がる。
限界まで入り切った容器が小さくなると飛び回る水素元素の振動が早くなり温度も一気に跳ね上がる。
回しきるとちょうど球体の中へと押し込まれる。
後はこの状態でフラスコへのバルブ を開けるだけである。
バフンッ!
中を確認する。
フラスコ内に貯まる水滴、中の青い粉末は色が変わり黒へと変色していたのを見てガッツポーズを握った。
「できたの!?」
リオンが食いついてきた。
「えぇできました。この黒い粉です!後は鉄のように適当に溶かして使いたい形へと変えればいいですね。」
その後何度も青い粉末を還元させていきタングステン粉末を手に入れることができた
開拓一団はタングステンを手に入れた




