56 化学反応はイオンの足し算引き算
さて名前通りの特徴を持つ灰重石を最強金属タングステンへと変える長い精錬。
まずは粉々にしてもらった灰重石をカザリさんお手製の石臼で引いていく。
この石臼は、初めての収穫の際、毎日のパン用とは別に作ってもらって置いたものでずっと倉庫に眠っていたものである。
ザラザラする鉱石粉末をゴリゴリと細かくサラサラの砂へと変えていく。
これはより溶けるために行う作業で鉱石中のタングステンをより溶け出しやすくする。
砂糖も角砂糖より粉の砂糖の方が溶けやすいのと少し違うが大まかには同じ理由である。
「へぇこれが金属になるんか?なんやイメージわかへぇんなぁ。」
ロディが見学にしに来ていた。
バツが悪そうに立ち去ろうとする
「暇そうなら手伝って下さい。」
ロディの裾を笑顔で掴み止める。
「いや待った待った運搬があるんや!」
どうやら職人の誰かしらから仕事を依頼されてたらしい。
ついでに運搬してもらうことにした。
「ならついでに貯めてた尿の壺を持ってきてください!ついでにルナさんも呼んできて欲しいです。」
「なんやそんなことなら早く言いや。荷車使うしついでばかり運んでやるわ。」
快諾してくれた。
さてアンモニアを使う前にやることは純度を高める作業である。
これよりひたすら混ぜるだけの精錬が始まる
まずは抽出、鉱石の砂の中にあるタングステンをタングステン酸、つまりイオンの状態で抽出するのだ。
イオンは皆が名前だけは知っているだろう。
マイナスイオンとかいうあれである。
イオンになれば後は簡単な足し算引き算なのだ。
炭酸ナトリウムの飽和水溶液(限界まで水で溶かした液体)を用意しそれに砂を入れる
しっかりかき混ぜてタングステンをタングステン酸ナトリウムという形で取り出すのだ。
泡が少しだけだがぶくぶくと出てきた。これは二酸化炭素のはずである。
さてこの間に既に足し算が行われている
タングステン:WO4Ca
溶けている時はHがプラスの陽イオン、残りのWとO(酸素)は結合状態で陰イオンとなる。
Hイオンはイオン1つにつき電子1つ分陽側のイオンなので残ったWO4は電子2つ分の陰イオンとなるのだ。
そこに炭酸ナトリウム(Na2CO3)が加わると炭酸ナトリウム、タングステン酸それぞれの陽と陰同士がくっつき合う。
つまり二個のナトリウム陽イオンがタングステン酸と
残りものが炭酸カルシウムの溶液として完成した。
これにて抜け殻とも言える砂が残ったのでそれを濾過等で取り除く。
これに以前、作った塩化カルシウムを混ぜる。
タングステン酸と塩化カルシウムの陽と陰同士がまた交換される
タングステン酸の陽は2Na+、塩化カルシウムの陰は2Cl-、できるのはNaCl(塩化ナトリウム)つまるところ塩である。
この塩を取り除いたら純度の高まったWO4 Caが出来上がった
この流れを繰り返し更に更に純度を高めた溶液を作り出すのだ。
そうこうしているとロディが戻ってきた。
「待たせたな。呼んできたで!よっと
ここに置いとくし」
「ロディ君ありがとうございます!ルナさん前回みたいに少しお手伝いよろしいですか?」
ロディ君に感謝を伝えルナさんに依頼する。
「......」
こくりとうなずき無い胸元から宝石を取り出し握り締めた。
さてこの大量の液体をこれ用で作った土器に移し替える。
流石に普段使いするやつでやる気は起きないので壁の型作成中のソソギに無理を言って加熱用の土器を焼いてもらったのだ。
今日の昼までに貯まった約45Lを土鍋で煮る。
ルナさんが魔法を発動させる。
「シルフ、前集めたのと同じやつをあのガラスの中へ」
アンモニア保存用に用意した複数の水入り瓶に入れてもらう。
産毛が逆立ち魔法の発動が行われたことを体感する。
(うぅゾワゾワする...毎回身の毛がよ立つのは理由あるっぽいですねぇ。相方聞いたらわかるかなぁ)
そうこう考えている間に大量のアンモニアが完成した。
「ルナさん危険な魔法発動なのにありがとうございます。」
「礼ならシルフに...」
無表情でそう返された。
ルナさんが握り締めた宝石を無い胸元へとしまいこちらを向きにっこり可愛らしい笑顔を見せ去っていった。
(笑顔!?あのルナさんが!?)
違和感に気づくも答えには当然至らず致し方なく作業へと戻った。
タングステン酸カルシウムを純粋なタングステン酸へと変えるため塩酸を投入する
これにて再度塩化カルシウムができる当然取り除く。
ここで疑問に思う人もいるだろう。
なぜ塩化カルシウムを入れて置いてここで回収するのか。
それはここまでの工程中に取り除いたものは全て加えたものでできたものなのだがその中に幾つかの不純物が混じっているのだ
当然今取り除く塩化カルシウムにも他の不純物が混じっている。
塩化カルシウムを取り除いたらタングステン酸の完成である。
これにアンモニアを加える事でパラタングステン酸アンモニウムという塩ができる。
というわけで加え混ぜる。
変化はわからないものの分量的に問題ないはずなので作業を続行する
これでおそらくパラタングステン酸アンモニウムが溶けた水溶液となったはずである。
なので水分を飛ばしつつ結晶化させる必要がある。
温度を上げすぎると脱水が起こる
ここでいう脱水はパラタングステン酸アンモニウムの結合そのものから水が抜け別の物へと変わってしまうのだ。
それはまずいのだが実はそれは500度まで熱さないと起こり得ない。
理論値?が170度と相方は言っていたはずなので普通にぐつぐつ煮て水分飛ばすだけでも問題ないと判断しガラス鍋に移して煮る。
かれこれ2時間ほど煮ると白い結晶が山のように手に入った。
鉱石2籠で鍋一杯の結晶を手に入れたのだった。




