第59話「本物とマガイモノ」
第59話「本物とマガイモノ」
【マジ区・サハエル大草原】
■クラリス視点
それは、にわかには信じられない光景だった。
ミーさんは、四方八方から襲い来る大型バジリスクの咢をかわしながら、両手にシミターを持つ二人組を相手にしている。
「ウソでしょ?」
ドリスが驚くのも無理はない。
さっきまで、見た感じ一番小さなレッサーバジリスクに追い掛け回されていたんだ、それよりも早く大きいバジリスク系の攻撃を避けながらの戦闘なんて、小説の中の話だと思っていたけど、今目の前で繰り広げられているのは、そんな次元を超えたモノだった。
「グギャァァァァァ!」
赤いローブを纏った襲撃者の一人が、ミーさんに右腕をもがれて獣のような悲鳴をあげる。
「すげぇ……人間の腕をあんなに易々と?」
力自慢のアンダーソンでさえ蒼くなる程だった。
ミーさんの華奢な体躯のどこにそんな力が? それに、息一つ乱していないどころかぞっとするような笑みさえ浮かべている。
「なんだい……イングラムを使う必要すらないのかい?」
「キヒィ……ヒィ……」
「殺す……絶対に殺す!」
大人と子供の差なんてものじゃない、狼が生まれたばかりのひよこをいたぶっている感じにしか見えない。
「アレヲツカウ……」
「アレは、まだ、早い、早い! ここで、使う、良くない」
「ああ、相談とか作戦会議なら早めにしてくれ給え。 弱い者いじめにもそろそろ飽きたんでね……」
襲撃者が何か言葉を交わしているのは良く聞き取れないが、ミーさんのセリフにドリスが心底悔しそうな顔をしている。
「ぐぐぐ、一度は言ってみたいセリフを、赤オンナーに言われるなんてぇ!!!」
「あはは、私たちには無理だよぉ……」
そうなのだ、ミーさんのセリフはさっき見せた小説の一文であり、ドリスのお気に入りでもあったからだ。
「「すげぇ……カッコいい!」」
アンダーソンとブルックも目をキラキラさせている。
かく言う私も胸が高鳴り、小説の一場面を見ているかのような気分になってくる。
それと同時に、伝説の魔女の存在を信じえずにはいられなかった。
おとぎ話の中でしか存在しなかった魔女たちの事を……。
………
……
…
■ミーシャ視点
期待外れもいいところだ。
近接戦闘技能の物理破壊術式を使うまでもなく、ただの身体強化でこの体たらくだ。 前にやり合ったのとは格段に性能が悪すぎる。
腕をもぎっても引く気がないのは、痛覚がないのか根性かはわからないが、褒めてやる気もない。
「人工の魔女」は、人間たちが魔女を裏切った象徴であり、魔女と人間の間に深い溝を作った、最大の要因の一つだ。
「恩を仇で返す……か」
命がけで脅威から救ってくれた恩人を切り刻んで作られた存在に、情けをかける必要はあるのかな? いや、ないね!
ベースとなったのは人間の少女だろうが、そんなことは関係ない。
魔女の力を使った時点で、その業を受け入れたのと同じことだ。
「ああ、本当にむかつくよ……こんな時は、皮肉だけど人間嫌いの”青の魔女”の気持ちがよくわかる」
「魔法を唱える感じじゃないけど、何かあるんだろ? 受けてあげるから早くし給え」
「グ……ギ? ジャラァァァァ!!」
「待て! 危険、危険! 近づくな!」
言語が乏しい方が挑発に乗って接近してくる。
容赦なく潰したい所ではあるが、こういう輩は徹底的に心を折ってから潰すのが私のポリシーだ。
「シ……ネ……」
「な?」
斬撃や打撃、魔法攻撃も私の結界を突き抜けるのは不可能だろう。
そう思ってマガイモノの出方を伺っていたのだが……。
ザン! ブシャァァァァァ!
マガイモノは私の眼前で胸を深々と斬り裂き、鮮血をまき散らした。
「ケヒャ! マー……キング!」
目つぶしのつもりか、鮮血を私に浴びせたマガイモノは膝を突く。
斬り裂いた胸から覗く心臓からとめどなく鮮血が溢れ、それが致命傷であることを物語っている。
「くっさいなぁ……む?」
ボゥン!
目元を防ぎ視界は失ってはいないが、その血はとても臭い刺激臭がした。
頭を吹っ飛ばしてやろうと拳を握った瞬間、マガイモノの返り血が発火した!
「うむ? 何かの術式か? ……にしてはしょぼすぎる」
「終わりだ、魔女、魔女、お前、もう逃げられない!」
ギシャァァァァァァァァァ!
もう一体が言うのと同時に、バジリスク共に異変があった。
目が真っ赤な光を放ち、体躯も膨れあがりさっきまで私を恐れていた反応すら打ち消されている。
「凶暴化? この血か?」
バジリスク系はもともと臆病な種類の魔物だ。
攻撃はしてくるが魔力を込めて睨むだけで超著していたから、扇動スキルでも使っていたんだろうと思ったが、凶暴化は制御しきれなければ扇動した者すら危険になる。
「マーキング? ああ、そうか、ポイズンバジリスクの真似ってことか?」
「そうだ、ここで使う、早い、だが、魔女、死ぬ! 死ぬ!」
バジリスク系でも最も臆病なポイズンバジリスクは、魔物の誘因効果の高い毒液を吐きかけ獲物を弱らせたり、他の魔物に攻撃させた後におこぼれをもらうとかそんな感じだった。
つまりこれは猛毒で、かつ魔物を凶暴化させる効果もあるわけか……実にこすい。
「やれやれ、これはまいったね……」
「馬鹿め! 油断した! 油断した! 199の犠牲、無駄にならない!」
ボヒュ! ボヒュヒュ!
ため息をつく私を見て、もう一匹がけたたましく叫び、炎の矢を放ってきた。
………
……
…
■ドリス視点
やべぇ、なんだよあの赤オンナー、ガチで強いじゃないのさ!
本気を出した私でも……いや、正直言って話にならない。 そんな次元だ!
おまけに私が気に入っていた、生涯で一度は言ってみたいセリフをパクりやがってぇ!(パクったわけではない)
レッサーじゃない方のバジリスク共に囲まれて尚、妖しい二人組に舐めプだとぉ?
正直うらやましい! あんな戦い方してみたい! 私の理想じゃないのさ!
魔術っぽいモノは使うまでもないのか、もしかして使えない……いや、それはないか。
未だにひりひりする私の股間が、それを否定している。
アンダーソンもブルックもクラリスも、だらしなく口を開けてぽかんとしている。
それは痛いほどわかる。 私だって目が離せない!
「マジで魔女なの?」
魔女って言ったら、昔はいたらしいけど今はそんな職業聞いた事ない。
おとぎ話の隅っこに時折出てくる空想上の存在とも言われ、性格が悪く我がままで、悪い子を頭から酢味噌着けてバリバリ食うとか幼い頃にはやってたっけ……。
私の実家っていうか、ひいお婆ちゃんはその存在を信じてて、おばあちゃん子だった私も、魔女の活躍する話に憧れ、魔法にもすごく惹かれた。
ひいお婆ちゃんが亡くなった後は、魔女など既に滅びたという現実を叩きつけられて失望すらしていた。
「ひいお婆ちゃん……魔女は滅びてなんかなかったよ」
赤オンナーの姿に、幼い頃の記憶がフラッシュバックして思わず涙が出てきた。
「赤オンナー!」
襲撃者の一人が赤オンナー襲い掛かり、血を噴いて燃え上がった?
つい声を出してしまったが、無事の様だ……うえぇ? もう一人が炎の矢を複数放った!
「うぉ?」
側にいたバジリスクたちが一斉に咆哮をあげる!
地響きに近い衝撃は、両耳を抑えていないと即座に鼓膜が破れるであろう。
「い、一体何が!」
真っ赤な目に鋭い牙をむき出しにし、涎をまき散らすバジリスクたち。
周囲がどす黒い殺意に包まれた……そんな感覚がする。
「ひぃぃぃ!」
「か、母さん!」
「やだぁ、死にたくないよぉ!」
私たちは、凶暴化したバジリスクの身体がパラソルに当たる度、結界が破れるんじゃないかとビビりながらみんなと抱き合って、ち縮こまっていることしかできなかった。
「死ぬもんか、せっかく理想の存在を見つけたってのに、死んでたまるかこん畜生!」
カッ!!!!!
「うぉ? 眩しっ!」
それは一瞬、周囲が閃光に包まれ何も見えなくなった。
「な、何が……」
目が慣れてくると、ぼんやりしていた視界がクリアーになる。
「あれ? もう夜のはずだよね? なんでこんなに明る……」
「「「ええええええ?」」」
私たちのいるパラソルより外は、業火の海だった。
辺りを埋め尽くしていたバジリスクたちは消し炭となり、骨すらも炭化して崩れていく。
「俺たち……死んだのか?」
「いでででで! 自分のでやれよ!」
アンダーソンがブルックの頬をつねって夢でないことを確認しているようだ。
「ドリス……何が起こったの?」
クラリスが話しかけるが、私は空を見上げたまま答える事が出来ない。
「すげぇ、これが本物の魔女……」
はるか上空で血のように紅い杖を構え、その背中には炎の羽根を拡げた赤オンナーの姿。
まるで絵物語の主人公……幼い頃、一度だけ見た曾祖母の絵本の通りだ。
そして、杖から一筋の光が地上に向かって放たれた……。
光の矢に撃ち抜かれたソレは爆炎に包まれ、一瞬のうちに燃え尽き、崩れ落ちた。
………
……
…
『続く』
えらく間が開いてしまった。
別ジャンルで手一杯でしたが、こちらの方もようやく更新できました。




