表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/65

第5.5話「少年と学校と三女の冒険」

寝落ちしかけて一度仮眠を取ったらもうお昼?

軽い気持ちで逆視点で書いてみようと思ったら、こんなことに……

第5.5話「少年と学校と三女の冒険」





【マジレース学園へ続く街道】


ガタゴトガタゴト馬車が行く、


ガタゴトガタゴト私を乗せて、


ガタゴトガタ……


「お嬢様、ご機嫌ですね。」


「あーもう、今せっかくいい感じだったのにぃ

最高の詩が、今、降ってきてたの!」


馬車の中、外の景色を眺めながら詩を口ずさんでいたら、

侍女のニナが御者台から声をかけてきた、私は頬を膨らませて文句を言う。


「ふふ、それは失礼しました、

未来の女流大詩人の名作が、一つ消えてしまいました。」


ニナが微笑みながら謝罪する、いつものやり取りだ。


「そんなの、またすぐに降ってくるから気にしないのですわ。

それよりまだなんですの?マジレース学院は……」


「あと、1時間位といったところでしょうか……」


ニナが懐中時計を確認しながら言った、まだかかるようだ。


お嬢様、やはり姉上様たちと一緒に行かれた方が良かったのでは?


「う、ダ……ダメよ、転校初日に保護者同伴みたいな、

私はお姉様たちの飾りじゃないの!私一人で、最初の一歩を踏み出したいですの!」


「まぁ、確かに姉上様たちは、学院ではカリスマ的存在ですし……、

小さなお嬢様が一緒に行かれても、可愛らしいマスコットにしか……」


「ちょ!ニナ酷い!私だってもう11歳になったのですよ?

もう立派なレディなの!大人なのよ!一人で何でも出来るんですから!」


からかうように微笑む二ナに、私は胸を張って答える。

物心つく前から知られているせいか、二ナには全て見抜かれている気がする。


「それが、この護衛一人、御者兼メイドの私、夢見る幼き未来の大詩人の

かなーり無理のあるパーティ構成の理由ですか?」


「う、そ……それは……」


「はぁ、やっぱりですか。

小型の軽量馬車と御者”だけ”手配して、お一人で向かいたかったと。

それも、お姉様方はともかく、この私にも内緒でこっそりと?

権力を振り回して事を成そうとしていたわけですか……?」


ぴぃ!?バレてる、全部バレてる?

御者がニナだと気づいたのは、既に出発した後だった……

頼んでもいない若い護衛の存在を、御者に尋ねるまで全然気づかなかった。

フードを捲ってニッコリと微笑むニナを見た時は、

正直漏らしかけた……かけただけですからね!


「ニナ……怒ってる?」


ニナはいつも笑顔で優しいが、曲がった事に対しては凄く厳しい。

以前、お父様の大事な花瓶を割って、それを若いメイドの所為にした事がある。

メイドは私に逆らうことが出来ないから、

”自分がやった”と自白させ安心したがそれでは終わらなかった……。


………


……


3年ほど前だった。

当時メイド長だったニナは、

屋敷内の広間で私の家族や使用人たち大勢の目の前で、

メイドの頬を何度も叩いた……。

メイドが嘘の自白をする度に、何度も何度も……。

私はメイドが悲鳴をあげる度、胸が締め付けられるような気分になった。

メイドは崩れる様に膝をつき、弱々しくこちらを見た。

ニナはそれを確認すると……。


『私の知る限り、割れた花瓶の部屋に彼女がいることはあり得ないのですが……

お嬢様、目撃されていたのですよね?他に何かご存じありませんか?』


ニナはまっすぐ私の眼を見た、私は只怖くて、

”その子しかいなかった”と首を横に振った……


『そうですか……、貴方お嬢様の方を見ましたね?

お嬢様がやったという事ですか?それとも罪をお嬢様に被せて逃れようと?』


どこに持っていたのか、ニナが短剣をメイドの前に置いた。


『自害なさい』


え?何を言ってるの?たかが花瓶じゃない!そんなことで……

私は、自分の身可愛さに放った小さな嘘が、

一人の人間の命を奪うことになるなんて、そんなことって。

”痛い”……心がとても、軋む様に。


『貴方がやったというのなら、

疑いをかけられた、今のお嬢様の気持ちを考えてみなさい』


”痛い、痛い痛い痛い!!”


『自分の所為で相手が苦しんで、それで心が楽になれますか?』


”違う、違う違う違う!!”


メイドが震える手で短剣を掴んだ!周りに緊張が走るのが分かる。

何で?そんなことで死のうとするの?


『やめてぇぇぇーー!!』


私は無我夢中でメイドに飛びつき、短剣を奪っていた。


『私が!私がやったの!この子は私に命令されただけなの!悪くないの!

私が悪いの!だから、だから死ななくていいの!』


私は、私の中で暴れていた想いを、全て解き放った。


『お嬢様、やっと本当のことを言ってくれましたね』


ニナは私の手から、短剣を優しく取り上げる。


『ごめんなさい、ひっく、ごめんなさ……』


『お嬢様、謝る相手が違いますよ?』


ニナは、私の背をメイドに向かってそっと押した。

眼の前には頬を腫らしたメイドがへたり込んだままだった。


『あ、あの…ひっく、嘘つかせて、ごめ……なさ……』


『いいんですよ、お嬢様。

私も子供の頃、同じ様にしたことがありますから。』


メイドは優しく微笑んであんな酷い事をした私を許してくれた。

私はメイドの首に抱き着きわんわん泣いてしまった。

メイドは遠慮がちに私の背中をさすってくれていた。


『さて、事件の真相もわかったところで、二人には罰を受けてもらいます!』


『『え…?』』


突然の展開に、メイドと声がハモった……


”ぱぁぁん!……ぱぁぁん!”


『痛いぃ、痛いよぉ、ぴゃぁ!うえぇ……』


『もう少しの辛抱、いっ!……ですお嬢様!』


大勢の見守る中、私たちはおしりを剥き出しにされ罰を受けている。


『……100!はい、”尻たたきの刑”終了です』


私とメイドは二人揃って罰を受けた、メイドは被害者だと思ったけど、

ニナが”二人とも自分に嘘を言ったのでその罰”だと言ったからだ。


『頑張りましたね……立派でしたよ、お嬢様』


おしりを叩かれてる間、ずっと私の手を握っていてくれたメイドが微笑む。


『う、うん……痛くない痛くない、うぅ~』


私も、涙をこらえて返事をする。


『二人とも、反省しましたか?』


『『はい、ご迷惑をおかけしました……』』


広間の大勢に見守られ、頭を下げる私とメイド……

おしりは真っ赤に腫れ上がり、まだジンジンするけど、

同じ思いを共有するメイドの笑顔に、自然と笑顔で返せた。


『いいですかお嬢様、言葉一つで人の人生を狂わすのは簡単です。

ランセル家のご令嬢ともなれば、どんな酷い事も……わかりますか?』


私はニナの言葉に、隣に立つメイドをちらりと見て、頷いた。

視界の隅でお父様が落ち着かない様子だった、

お姉様方も何故か落ち着かないような感じだった。


『そして、貴方もです。』


ニナに睨まれたメイドが背筋を正す。


『お嬢様の命令とはいえ、何でも許されるわけではありません。

時には反対することも大事です。わかりますか?』


『そ、それは……』


メイドがエプロン部分を握りしめ俯いた。


『家族のために身一つで働きに来ている者には酷な話ですが、

仕える主人が間違った事をしているのに容認し、

取り返しのつかない事になったら?それが神に背く行為でも?

他の何をも犠牲にしても、主人と滅ぶ覚悟があるならいいでしょう。』


メイドがふるふると震えている、やめて!これ以上虐めないであげてほしい。


『そのような時の為に、メイド長たる私がいるのです。

どんな事でも、相談してほしかったですね……』


『メイド長……すみません、すみません……家族の事を思うと、

ここを追い出されたら……私、私!』


メイド長の言葉に涙をぽろぽろと流すメイド……

改めて私のしたことを思い返し、胸がチクリと痛む。


『ほんとにおバカさんですね……。

旦那様の大事な花瓶を割ったと嘘の自白したところで、

貴方の立場が悪くなるだけでしょう?』


心が痛い……痛いよぉ……


『もういいんですよ、貴方はよく頑張りました』


ニナがメイドを抱き寄せる。


『メイド長と言えばメイドたちは我が子同然、

我が子が道を踏み外そうとすれば、叱るのもまた当然、

ただ、家族や失った妹の事を想い、

お嬢様を庇った姿はご奉仕するもの(メイド)としては立派ですが、

お嬢様がこのまま、我がままで平気で領民を虐げる大人に成長した場合、

それを容認した貴方を私は軽蔑するでしょう』


『メイド長……死んだ妹のことまで?』


『ふふ、我が子の事は何でも知ってないと、メイド長は務まりませんよ?』


ニナはそっとメイドを放し、控えているメイド全員を見る様に言った。


『いいですか……どんな結果になろうとも、

それが胸を張って誇れるならば、それは貴方が選んだ道です、

誰に何と言われようと後悔しない様になさい……』


『メイド長……』


思う所があるのか顔を覆って嗚咽するメイド迄いる……

”下々の者”と、使用人たちを思っていた自分がなんだか恥ずかしくなってきた。


『それが、メイド長として貴方たちに教えられる最後の言葉です』


『『『『『『えええええええええええ!!!!!』』』』』


周りが一斉にどよめいた、ニナはお父様の前で恭しく礼をして……


『旦那様、この度の騒ぎは管理が行き届かなかった私の責任です。

いくら旦那様のお許しがあったとはいえ、

ランセル家のご令嬢に手をあげた私が、

メイド長として、ここに居る訳には参りません。

手討ちも覚悟の上です、私に”お暇”を頂きたく……』


メイドに向かって言ったことを実践するニナ。

皆の視線がお父様に注がれる、お姉様方も、私もみんなの視線が。

お父様は今までにない位、困った顔をしていた。


『はぁ……あいつがお前をメイド長に雇用した理由が、今わかったよ……』


お父様が、広間の奥に飾られたお母様の肖像画を見る。

お母様の肖像画は、よくある煌びやかなドレス姿ではない。

白銀の甲冑を纏った、聖騎士のような姿だった。


『奥様との約束ですので……』


ニナも優しい視線で肖像画のお母様を見つめる。

お母様は私が生まれた直ぐ後、

領民を魔獣から護り命を落としたとと聞いている。


『……わかった、お前に罰を与える!』


お父様の言葉に皆が静まり返った、

あまり酷い事にならないでほしいと、

以前の私なら、考えもしないことを祈った。


『ただ今を持って、お前のメイド長としての職務を剥奪し……』


ニナはただ目を閉じ、お父様の言葉を拝聴している。


『罰として、我がランセル家三女、

ミーナ・ランセルの専属メイドとして仕え、

長女ヒトミ・ランセル、二女ジーナ・ランセルが道を踏み外さぬよう、

指導する役目を……3人が成人するまで勤め上げるよう申し付ける!』


周りから歓声が上がる、ニナがどれだけ慕われていたのかが分かった。

メイドたち使用人に囲まれながら、ニナは微笑んでいる。

私もこんな風になれたらいいなぁと思った。


『お父様、その程度の罰では生ぬるいですわ!』


突然の凛とした声に周りが静まり返る……

声を発したのはヒトミお姉様だ、なんで?


『ヒトミ、何が不満だというのかね?』


『私もお姉に同意見』


『ジーナ、お前まで』


お姉様方がニナを睨み言った……


『ニナ、貴方……厨房の味付けも管理していらしたわよね?』


『左様です、ヒトミお嬢様』


『えーと、あれだ、お母様の大好きだった、その、

あれも、ニナしか作れないんだろ?昔お母様に聞いたぞ!』


『野苺のプディングでございますね?ジーナお嬢様』


『という事ですお父様!』

『という事だよ、おや……父様!』


お姉様方の勢いに、

ぽかんとするお父様と使用人たち……え?どういうことですの?


『あ、あのー旦那様、発言をお許しください』


あのメイドが、恐る恐る手をあげ、お父様が頷く。


『お恥ずかしながら申し上げます、

我々使用人は、まだまだメイド長の足元にも及ばない為、

今メイド長に抜けられますと……』


『ニナが抜けると……どうなるのかね?』


お父様が先を促すと


『毎日お出しするお食事やスィーツのレベルが格段に落ちます!

それと、旦那様の御贔屓にしている酒造への交渉も出来なくなる為、

旦那様やお客様に出せるワインも格段にランクが落ちます!

それから……』


『わかった!もういい!……そうだったぁ……』


よく分からないけど、お酒の辺りでお父様のお顔が真っ青に……。

そういえば来賓の方々は、お食事やお酒を褒めてるのをよく聞きます。

全部ニナが関わっていたんですのね?


『あー、ニナへは追加の罰を与える!』


じっと見守る使用人とお姉様方。

ニナはぽかんとしていた。


『先程の罰に加え、当家の様々な問題を解決して貰うべく、

メイド長の抜けた穴を補い、後進の育成を命じる!

……これでいいか?』


『ふふ、欲張りですねぇ、ほんとに奥様みたいに……』


ニナは笑いながら肖像画を見ていた。

お母様も笑っているように見える。


『謹んでお受けいたします、我が敬愛するランセル家の為に』


恭しく礼をするニナ。

使用人からは大歓声があがり、お姉様方もどことなく嬉しそうだ。


『メイド長!これからもご指導ご鞭撻、宜しくお願いします!』


あのメイドが、泣きながらニナに話しかけていた。


『ふふ、メイド長は解雇されたのですよ?』


『あ、えーと、宜しくお願いしますメイド長代理!』


『まさか、貴方に救われるとは、思いもよりませんでした。

私はまた、あの味を作ることが出来るのですね……』


『ふふ、これが私の”選んだ道”です、

いつかメイド長……代理の味も盗んで見せます!』


ニナが一瞬ぽかんとした表情をしたが直ぐに素に戻り、

メイドのおしりをペちんと叩いた。


『くぉぉぉぉぉ……』


メイドが壁に手を突き、片手でおしりを押さえている。

私もつられておしりを押さえる。


『おやおや、胸を張って誇るにはまだ早いようですね?』


『が、がんばりますぅぅぅぅ』


が、がんばって!っと心の中で蹲るメイドを応援していた。

ふふ、貴族の私が平民である彼女らを応援するなんて。

今ではそれが尊いものと感じ始めていた。


貴族も平民も同じ感情を持つ人間だ。

それを理解した、運命的な日だった。


あの後、使用人の人たちとは対等なお付き合いをしている。

特にあのメイド、リタという名前で私より3つ上だった。

あれから仲良くやっているし、色々私の知らないことを教えてくれる。

まるで、姉が一人増えたみたいだ。

本を読むのが苦手だった私に、街で流行ってるという、

”La・ノーベ”という創作の物語を纏めた本を見せてくれた。

私は本を読むのが好きになり、文字も意欲的に覚えていけた。

今では詩なんかを嗜むようになっていた。


昔は”領民の為に命を投げ出すなんてバカみたい”と思っていた、

そんなお母様が何故、英雄と呼ばれ平民にも崇められていたのか、

今なら少しわかる気がする。


因みにお姉様方もあの日以来、領民に対しての接し方が変わった。

声をかけられれば、笑顔で耳を傾けたり、

助けを求められれば、それに応えた。

今までになかった成長にお父様は複雑な表情だ。


ニナの指導のおかげか、

お姉様方は文武両道で学園でも人気者だとか、

ジーナお姉様なんか、ニナから1本取ることが目標だとか言ってました。

味にうるさいヒトミお姉様も、ニナの作る料理には文句を言わない。

むしろ他のメイドが作るとダメ出しの連発だ。

私は、私にはお姉様方の様に秀でたモノがない。


それでも、ニナは私を見捨てたりしなかった。

お母様とそっくりだと、お母様も末っ子で、

私くらいの年には得意なものはなかったらしい。


ニナは見た目若いのにお母様の親友だったらしく、

お母様の話をいっぱいしてくれる。

ジーナお姉様が、やきもちを焼くくらいだ。


そんな時は、ニナが野苺のプディングを用意してくれて、

ジーナお姉様とケンカしてても、みんな笑顔になる。

たまにヒトミお姉様が混ざってるのはなんでだったんだろう?


そんな私も、今日お姉様と同じ学院に転校することになったのです。

魔法を専攻している”マジレース学院”かつてお母様も通っていたらしい。

きっとそこなら私にも、何か誇れるものが出来るんじゃ?って思いました。


”転校初日は舐められたらイケナイ”と、

リタの”La・ノーベ”コレクションに書いてあったし。

お姉様と一緒の馬車には乗らずに一人で”カチコミ”とやらを実践しようと、

ニナにも内緒で小型の馬車を手配したんですが……はい、ばれてました。


………


……



「妄想タイムは終了しましたか?」


「え?ひゃぃ!」


ちょっと昔の事を思い出していたみたいだ。

ニナがジト目でこちらを見ている……怒ってるよねぇ?


「まったく、こそこそと何を企んでるのかと思えば、

護衛なしでこの街道を通るとか、無計画にも程があります。

慌ててギルドに要請をしましたが、若い護衛が一人だけ

これじゃぁ怒るよりも呆れてしまいます。」


「東の街道の近くで魔物が出たとかで人出が少ないんですよ」


若い護衛の人がそう言った、魔物が出るのかぁ見てみたいなぁ。

実物はみた事ないけど、本の中でしか魔物なんて…。


「お嬢様、見てみたいなんて思ってませんよね?」


ぶんぶんと首を振る、魔物よりも怒ったニナの方が怖い。


「はは、僕もまだ見たくないですねぇ、まだEランクですし」


「Eランクというと、中距離の危険度最低の護衛任務を

ギリギリ受けられる辺りですか。」


ニナは詳しいなぁ、なんでそんなことまで知ってるんだろう?


「護衛の方、魔物が出ても直ぐに目的地へ行って応援を呼んで頂けますか?」


護衛の人にそう伝えるニナ、それは護衛なのかな?

少しむっとした顔をする護衛さん。


「行きます!!!」


”パッシィィィン!!”


「ええ?わっ、きゃぁ!」


ニナが手綱で馬を叩き、馬車が急発進する!


「何?何なの……」


「お嬢様!出来るだけ身を低くして何かに掴まっていてください!」


ニナが真剣な顔で告げる、私は素直に従った。


「護衛の方!打合せ通りに!早く!」


「は、はいぃぃ!!」


護衛の人が離れて行ったようだ……という事は魔物!?


”バキィィィ!!”


馬車の後ろの壁が砕けた!

そこから見えるのは……大きな、とても大きなトカゲ?

この馬車より大きい、ぎょろぎょろした目に長い舌。

これが魔物?それが、2匹も?


小型の馬車を馬一頭とは言え、魔物は引き離せない。

どんどん距離を詰めてくる。


”バキィィ!ベキベキ!”


時折長い舌が馬車の外装を削っていく。

これじゃ、長くは持たない。


「やだ、やだ、こんなとこで死にたくない!ひぃ!」


御者台のニナが、私を掴んで抱き寄せる。

御者台が狭い一人用なので、ニナは私を抱き右手で手綱を操る。


「お嬢様、今から行くことをよく聞いてください!」


激しく揺れる中、しっかりとした口調でニナは言った。


「あと少しで緩やかな道になります、そこに着いたらこのナイフで

馬車を繋いでる縄を切って、馬だけでお逃げください!」


ニナは私を抱いたまま、左手でナイフを渡す。


「でも、止まってる暇なんか!」


ニナはふと優しい笑顔になる。


「私が囮になります、上手くいけば護衛さんが応援を呼んできて、

合流できるでしょう。」


「やだ、やだよ、ニナも一緒に!」


「いいですかお嬢様、時間がありませんよく聞いてください。」


「え?」


「学院に行ったら、お友達はいっぱい作りなさい、

信用できる親友ができればそれはお嬢様の宝になるはず……。

惜しむらくは殿方に免疫がない事ですが、

いずれ運命の人に出会うこともあるでしょう。」


「何?今、何でそんなことを?それじゃぁ、まるで……」


リタの本の中にあった英雄物でよくある

”犠牲になって道を開く”みたいな言い方……

私はぎゅっとニナを抱きしめる腕に力を込める。


「なんちゃって♪」


「ほへ?」


ギャップの差に私が固まる


「私はまだまだ死ぬ気はありませんよ?

だって、お嬢様方が成人するまで贖罪は終わりませんしー

メイドたちもヒトミお嬢様の舌を満足させるレベルには達してませんしー

ジーナお嬢様に、最新作プディングも披露してませんから♪」


「ばかぁ…ばかばかばか!」


強張ってニナを抱きしめていた手が緩む。

もう、驚かせて……その瞬間、私は御者台に取り残された。

手には手綱とナイフが残されている?


「お嬢様、入学祝はお母様が大好きだったとっておきを用意しますよ。

だから先に行って待っていてください」


半壊した馬車の上からニナの声が聞こえる。

私は慌てて手綱を握る。


「運命の出会いが、愛しい貴方に微笑まん事を!」


ニナの声が遠くなった、魔物に飛び掛かったのだろう。


「絶対だからね!楽しみにしてるんだからね!」


私はナイフの鞘部分を口に咥え、両手で手綱をしっかりと握る!

少しでも早く応援を、大丈夫、ニナは強い!

何と言ってもニナは、ニナは絶対嘘は言わない!!


……



暫くして道が落ち着いてきた!

後ろを振り返っても魔物はいない、ニナが頑張っているんだ。


「今なら、馬を外して……え?」


手綱を引き減速を始めた瞬間、馬の体に魔物が食いついた。

バランスを崩した馬車は倒れ、私は外に放り出された。


「あう!うぁ!……」


暫く転がってようやく止まった、


「だめ、足を止めちゃ……早く応援を……」


ふらふらと立ち上がるが、脚に焼けつくような痛みが走り、

空中へ放り出される感覚と、地面に激突する衝撃。


「あ、ぐぅ……」


身を起こして足を見ると、両太ももののストッキングが裂けており、

無数の傷から血がじくじくと溢れ出している。


「噛まれた?痛い!痛い!……え?」


脚から正面そして上方向に視線を移すと、絶望が口を開けていた。


”ビッシャァァ!!”


目の前の魔物に、紫色の臭い液体を吐きかけられた。


そのまま動きを止める魔物、

馬を食べたからお腹がいっぱいなのかもしれない。


ふらふらと立ち上がり、私は足を引きずり逃げるが、

魔物は一定の間隔をあけて着いてくる。


「弄んでいる?」


本で読んだことがある、

獲物を食べる前にいたぶる習性を持つ、魔物もいるって……。


「はは、せっかくニナが時間を稼いでくれたのに……

もう一匹いるなんて……。」


ニナが追い付いてくる様子も、応援が来る様子もない、

広い大草原に街道のみの場所だ、誰かが来ればすぐわかるし、

見えたとしても、私が食べられるのが先だろう……。

遠くに見えるのは鳥位だ、私は死を覚悟した。


「でも、誇りあるランセル家の三女として、

英雄女傑と呼ばれたお母様の娘として!

ただ無様に食べられるわけにはいきません!」


ニナに渡されたナイフを構える。

縄を切るための道具だ、魔物に通じるわけがない。

でも、少しでも抵抗した、

勇敢にも立ち向かった、その証を残したかった。


足を止めた魔物が動き出した、遊びは終わりらしい。


”ぱしぃぃん!”


「え?……」


私の手からナイフが消えていた、魔物の舌に絡め取られたのだ。


”ゴリ、ボリ……ベッ!”


私の足元にぐにゃぐにゃに変形したナイフが吐き出される。


「ひぃ?」


”ぴちゃ……”


我が身に起きる未来を見せられた、誇りすらも示せない絶望と恐怖。

私は無様にも失禁し、尿と土で汚れたその場にへたり込んだ。


「あはは、やっぱり駄目なんだ……」


”ズシン……”


「お母様、お父様、お姉様方、リタ……」


”ズシン……”


「ニナぁ……私は立派な大人になって……」


”グパァァ……”


「みんなに、認めてほしかったよぉ……」


涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして私は目を閉じた……

もういい……もうなにも……ん?


「……間にあぇぇぇぇぇぇ!!!」


誰かの声が聞こえて次の瞬間、凄い衝撃が私を襲う。

誰かに抱きしめられながら地面を転がる感覚……。

まさか、ニナ!ニナが助けに?けど……


「あいたた…、骨よし!筋よし!人間は……まずいかも」


男の子?の声?

胸が苦しい……今の衝撃?手足も痺れてきた……


「魔獣じゃなくて、魔物なのが不幸中の幸いかな?」

「ポイズンバジリスク……こんなとこにまで出るなんて」


魔物の名前?リタの本にあった、毒を獲物にかけるんだっけ?

この不調は毒のせい?


「まいった、基本の魔法だけで倒せるかな?」

「師匠すみません、言いつけを破ります……」


ぐったりしながらも、私の眼は助けてくれたのが私と同じ位の男の子で、

その男の子が右手から、魔法の火を出現させているところだった。


私でもマッチの火位なら出せるけど……なにあれ?

少年の火の玉はどんどん膨れ上がった上、槍のような形になった!?

魔法の形状変化?ヒトミお姉様のより速い。


「これなら倒せないまでも、ダメージに怯んで逃げるはず!てい!」


”パジュン!”


え?何が起こったの?少年が火の槍を魔物にはなった直後、

魔物の体が半分無くなっていた。


「あれ?えええ?」

「よ、弱すぎる!どうゆう事?」


私は夢でも見ているの?それとも毒による幻覚?

私は多分、みっともなく彼をガン見しているだろう……。

何か落ち込んでいるような彼と目が合った。


「とりあえず治療を……大丈夫ですか?」


彼は私を抱き起し声をかけてきた。

私と同じ位かな?こんな幼い彼があんな魔法を?


「……あの……ないところを……」


だめだ、舌も痺れてお礼もまともに言えない。

彼は荷物から何かを取り出し、あれ?杖が空中に浮いて?


「まずは傷口を洗って」


彼は私のストッキングをずり下ろした!

ちょ、やだ!私は必死に暴れたが、力が抜けて行った。


「ヒール!からの……キュア!」


あ、温かいそれに体の痛みと痺れが抜けていく。

あれ?足の傷が何もない元通りだ?一体何が?

彼の顔を驚きの表情で見つめた。


「これで毒は消えたはずだけど、どう?」


彼は自分のおでこと私のおでこをくっつけた。

なななななな!?私は顔を真っ赤にして、彼を突き飛ばそうとする。

とにかく距離を距離を取らせてぇぇぇ!!


彼は左手だけで私の両手首をがっちり掴み、

右手では、薬草?木の実?それらをいきなり食べ始めた?

暫く、くちゃくちゃと咀嚼していたが、水筒の水をあおった。


ぽかんとその様子を見ていたが、彼がこちらを見る、

隙をつかれて、それぞれの手首を掴まれ押し倒される!?

何を?と口を開いた瞬間彼は私の唇を奪った!!


「!!!!~!!!」


いきなりの乙女の純潔を奪う行為に、私は必死の力で抵抗した。

抵抗した、抵抗……あああああ……。

口内に何か流し込まれて、そのまま飲み込んでしまった……。

ファーストキッスはレモンの味ってリタは言ってたけど、

とても苦かった、お薬みたいだった、

ぐすん……、リタの嘘つき!

私はファーストキッスを奪われて、放心状態でぐったりしていた。


乙女の純潔を奪った彼は、私を見て何かを考えている。


「このマーキングを何とかしないと……」

「これって、乾燥したら毒気を含んだ臭気を発散し、

仲間をおびき寄せるんだよなぁ……仕方ない、ここでするか!」


ここでするって何を?

彼はいきなり上着を脱ぎだし、裸になった1?


「!?……!!!!」


あまりの事に真っ赤になって彼の奇麗な裸から目を逸らす。

始めて見ちゃった……男の子の裸!

彼が裸のまま私に手をかける!


「……ちょ、……いや!……いやぁぁ!!」


身の危険を感じ悲鳴をあげるが……


「ちょっと乱暴にするけど我慢してね!」


え?乱暴に?する?これって?

勝手に見たリタの本で見た展開?詳細は真っ赤な顔をしたリタに、

”大人になったらわかる危険な行為です”

”続きは大人になってから、でないと凄く痛い目にあいます!”

と言われたのを思い出した……。


彼は私を押さえつけて、服を脱がしていく!?

やだぁ!やめてぇ!恐怖で声は出ない、ただ無茶苦茶に抵抗した!

だめ!パンツは汚れてるからダメーーー!!

抵抗虚しく、パンツを剥ぎ取られた……。


「失禁してる……体が弛緩してきているのか?」


「!!……~~!!」


いやぁぁぁぁぁぁ!!!生まれたままの姿にされた私は、

屈辱と恥辱に丸くなってすすり泣いた。

もうお終いです、きっとこの後どこかに売られてしまうんです。


彼が空中から水の入ったタライを出しました、

凄く大きいです、どこから出したのでしょうか?

彼は凄くちっちゃな火の玉を出しそっと水の中へ……。


「外だから、これで我慢してね」


私はまた夢を見ているのでしょうか?

タライから湯気が立ち昇っています、

一瞬で水が?お湯に?薪もないのに?

私はただ、目をぱちくりとして、

不思議な光景に呆然としていた、体を隠すことも忘れて。


気が付けば温かいお湯に座らせられて、体を洗われていた。

彼の手が泡立っている、石鹸?でもこんなに泡が、

それにいい匂い、髪も丁寧に洗われていく。


「……あはは……もう…お嫁に…にいけない……」


貴族だった私が大きな夢を見て、罰が当たったんです。

見知らぬ少年に身体中蹂躙されて……。

これから奴隷として生きていくのでしょうか?


それにしても暖かくて気持ちいい、

湯浴みの時のメイドたちより髪洗うの上手。


ふかふかのタオルで体を拭かれていく。

もう諦めの極致というか、

裸を見られても構わないと感じていた。

どうせ私の人生は終わったと……。


また不思議な現象です、彼が手に持った不思議な道具から

勢いよく風が出てます!しかも暖かい風です!

抵抗はしませんでした、もう、楽しい事を考えましょう。

私はもう死んでいて、それを不憫に思った神様が夢を見せているんです!

彼はそう、天使様なんです!天使ならば裸を見られたって……。


凄いです!髪がさらさらに乾いています!

いや、天使様何を?やだそんなとこ嗅いじゃ、いやぁぁ!

全身をくまなく、くんくんしてるぅ!これは恥ずかしいよぉぉ!


神様……いくら何でも私には刺激が強いです!

殿方とお付き合いどころか、手も握った事ない私にこんな……。


天使様が何かをするようだ、

私は空中に浮かぶ不思議な杖の上に座らせられている。

生まれたままの姿で大自然の中、風に吹かれる……。

ものすごい開放感!これが冥途の土産なのですね神様!


神様は死ぬ前の私の心臓を、握り潰すおつもりなのでしょうか?

天使様の目の前には水の塊が浮いています、大きいです!

その塊にまた小さな火を入れて、お湯の塊にしました。

更に先ほどの”神の石鹸”を細かく砕いて入れていきます。

最後に私の汚れた服と、天使様の上着を入れました。


……回転です!私たちの服がものすごい勢いて

お湯の塊の中を回っています!どうなっているのでしょう?


天使様はお湯の塊の横に、もう一つ水の塊を作り出しました!

お湯の塊が崩れて、中の服が水の塊に飛び込みます!

さっきと同様に激しく中で回転です!

一体何をしているのでしょうか?理解が追い付きません!


水の塊も崩れて地面に落ちていきます。

今度は透明?水も何もなく、ただ丸い空間らしきものが出来ています。

そこに私たちの服が置かれすごい勢いて転がされています。


ほええ、こんなの初めて見ました……。

天使様が水筒から何かを注いで、渡してくれました。

さっきの苦いものを思い出し、顔をしかめますが、

もう何も怖いものはありません、一気に飲み干します!


「嘘?冷たくておいしい……レモンの香り?」


ゆっくり味わえばよかったと後悔していたら、

天使様が水筒ごと渡してくれました。

疑ったりしてごめんなさい神様、

反省してあの世に行きますから、勘弁してください。

とか思っていたら……。


「はい、これでマーキングは取れてると思うよ、安心して」


へ?マーキングって……確か魔物の……え?

急に恥ずかしくなってきた。


「あり…がとう…ございます……」


奇麗に畳まれた学院の制服とその上にちょこんと乗せられた、

汚れひとつなく、新品のような私のパンツ……。


あの神の奇跡の数々は、お洗濯だったんですかぁぁ!!!!


天使様がいい笑顔で笑う。


「どうしよう…使っちゃいけない魔法、

彼女の前で使いまくっちゃったよ……」


渡された服に着替えようとしたら、天使様が突然悩みだした。

え、魔法?奇跡じゃなくて魔法……なの?


そして、こちらをじっと見つめている。

そんなに見られると……恥ずかしい。


「あの……そんなに。見られると着替えられ……

はい、着ます……うう」


服を着て一息つくと頭が覚めてきて……。

え?天使様じゃない?夢でもない?


「あ、あのー、ここで見たことは……」


天使様じゃない少年が話しかけてきた、

急に今まで行われた、あんなことやこんなことが思い出されていく。

現実に戻った私は、顔から火を噴く勢いで真っ赤になった。


「い、言いません!言えません、あんな……恥ずか…うえぇぇぇぇ」


「魔物に襲われて、助けられて、純潔も奪われて、

マジレース学院にも、転校初日に遅刻して……

お姉様たちに、なんて言えばいいんですかー!うわぁぁぁん!!」


「君も、マジレース学院に?」


私は泣きながら頷いた。


「今頃、逃げた護衛によって、

私が魔物に殺されたと伝えられているころでしょう、

そして、ここに応援がやってきた時、

無事な私を見て、皆が私を笑い者にするのですわ……うぅ」


魔物に抵抗も出来ず、あんな辱めを受けた上、

乙女の純潔も失った私に何の価値があるのだろうか?

笑われて当然です、お姉様たちもきっと軽蔑するでしょう。

ニナにも何て言えば、ここで死んでいた方が良かった……。


「じゃぁ、今すぐ行こうよ!」


彼は何を言っているのでしょう?

ここからどれだけかかると……。


「ここからだと、徒歩では数時間かかりますわ

馬車も使えませんし、とても明るいうちに……ひゃぁ!」


彼は、いきなり私をお姫様抱っこして、

不思議な杖に飛び乗った……。


ここここれが、リタの言っていた伝説の、

”女性の憧れの扱われ方”の上位に入るという、

お姫様抱っこ……されてみるとこんなに恥ずかしいなんてぇぇ!?


「僕はディアシー、君は?」


動揺する私に彼は名乗った、

貴族の娘として返さねばなりません!


「ミ、ミーナ……ミーナ・ランセル、ランセル家の三女です」


「じゃぁ、ミーナ、舌噛まないようにね?」


いきなり呼び捨てにされて、また顔が真っ赤になる。

え?舌?


「え?ええ?」


「行くよ!クラッシュ3号!学院迄”全力落下”だ!」

『レディ、オーバーブーストの使用、及びシールドを展開します、

目標到達までおよそ5分、カウントスタート!5・4・3……』


足元から彼ではない誰かの声が聞こえた?


「何?誰の声?何が始まるの?」


『2……1……』

「学園迄、落っこちるだけだよ?」


「落っこちるって……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」


景色が猛スピードで横へ流れていく!


「いや!何?どうなってるの?落ちる!落ちたら死んじゃう!」


まるで横に向かって落ちている感覚……、

意識が飛びかけたが、何とか持ち直す。

危なかった……何がって?魔物に襲われた時、

もし、あそこでお漏らししていなかったら、

今、彼にお姫様抱っこされたまま、

彼の腕の中で、……お願い分かって……。


あっという間に街が見えてきた、

なんだかすごい大冒険をした気分、ニナに話したらどう思うかな?

彼、ディアシー……様?があんなに簡単に倒せたんだもの、

ニナなら今頃、歩いてこっちに向かってるよね、

学園に着いたら、早く応援を頼まなくっちゃ!

ふと彼を見ると……奇麗な銀髪、それに……


「宝石の様な奇麗な瞳……」


「ん?へへ、師匠と同じこと言うんだね、

ミーナだって髪の毛サラサラですっごく奇麗だよ?」


「はうぅ!(ズキューン!)」


天使様じゃないけど、なんて眩しい笑顔!

何か胸がドキドキする?リタが言ってた……まさか、

でも、そんな……今度リタに聞いてみよう。


『目的地に到着します、減速効果発動、

残り100メートル・50・30・20・10……』


ものすごい勢いで飛んできたのに、

学園らしき正門前でピタッと停止する。


『マジレース学院、正門前ー正門前ー、

オーバーブースト使用により魔力炉が異常加熱、

急速冷却を行います』


”ブッシュゥゥゥゥ……”


彼の魔法の杖から勢いよく煙が噴き出した、


「きゃぁ!な、何?この杖が喋ってたの?」


私は、捲れそうなスカートを押さえながら訪ねる。


「うん、師匠からの入学祝、

クラッシュ3号っていうんだ。」


彼は玩具を自慢する子供の様に笑った……

なんだかほっとする……


”ざわ……ざわ……”


「あ……」


のほほんとした空気を、周りの痛い視線が突き崩す……。

私たちは大勢の人たちに見られていた。


「ミーナひょっとして、僕たち目立ってる?」


彼がばつが悪そうに尋ねてきた。


「それは、いきなり空から降ってくれば……」


私も答えた……はい、冷静になれば警備兵呼ばれる案件かと。


「まさか、ミーナ?ミーナなのか!」


人ごみの中から凛とした声が通る!

この声は、もう何年も会ってなかったかのような、

そんな懐かしささえ、感じさせる声。


「ヒトミお姉様ぁ……」


人ごみをかき分けて姿を現したのは、

完全武装したヒトミお姉様だった。

私は、無我夢中でお姉様の胸に飛び込んだ。


「ヒトミお姉様!ヒトミお姉様!怖かった!辛かったよぉ!」


安心できる存在に私は子供の様に泣きじゃくった。

衛兵に取り囲まれる、彼に気付くことなく……


そして、ヒトミお姉様が私を優しく抱きとめながら、

殺気を込めた目で彼を見ていることにも……。












ちょっとミーナ譲視点で書こうと思ったら、なんだか楽しくなってきたー♪という結果です。

長くなってしまいました、でも楽しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ