第35話「母の温もりと消えた剣」その8
第35話「母の温もりと消えた剣」その8
【マジ区・イロの村】
<命名ミッション4日目>
「それでは、1本目……始め!」
「たぁぁぁぁ!!!」
メイド長の開始の合図と同時に、私は地を蹴り、マリスとの距離を詰め剣を振り被った!
ブォン!
ズザザ……!
私の大上段からの一撃を、マリスは横っ飛びで躱し、距離をとる。
「うひゃー、今、完っ全に殺す気でしたよね? 容赦ないなぁ」
「当たり前だ! 死にたくなかったら真面目にやれ!」
「そうですね、それでわ……」
ザン!……ギィン!
マリスの身体が沈んだと思った瞬間、マリスが一足飛びで間合いを詰め斬りかかってきた。
「くっ! はぁ!」
ギィン! シュカ! ザシュ!、シュカカ!
マリスの右の一撃を剣で下に受け流すが、マリスはそのまま身体を回転させ、左の一撃を私の左肩に振り下ろす、私は半歩下がって盾で受けた。
「をー、やりますねー! これに反応するなんて」
最後の一撃を、盾で防いだ私に感心するマリス。
「ふん、レンジャー程度に後れを取るわけにはいかんから……な!」
ヒュン!
スタン! タン! タァン!
「ちぃ、すばしっこい奴め!」
マリスの脇腹目がけて剣を突き出したが、マリスは身を捩って躱し、曲芸の様にバク転をしながら距離をとる。
「んー、貴族、貴族って言う割には、優雅さも礼節もないですねぇ?」
やれやれといったポーズをしながらマリスが言った。
「き、貴様! 私を愚弄する気か!」
「なぁ、ジギー、”ゆーがさ”とか”れーせつ”ってなんだ?」
「んー、まぁ、俺には全く無いモンなんだが、そうだなぁ……この場合は”貴族っぽくない”って事だな」
「そんな事ないぞ! お姉は凄い貴族なんだぞ!」
背後でジーナたちの会話が聞こえるが、ジギーの言ったことは間違っていない、マリスは私を侮辱したのだ。
「平民の、冒険者風情が……」
「……(むか)」
ザン!……ギィン!
「くっ! このぉ!」
先程とはうって変わってマリスは積極的に打ち込んできた、だが、軽い!
「はぁぁ!」
ガギィィィン!!
ヒュンヒュンヒュン……ザザン!
「参った」
私の放ったアッパースイングで、武器を弾き飛ばされたマリスが両手を上げる。
「1本、そこまでです!」
メイド長の声とともに剣を下げる、剣のバランスは悪いとはいえ、あんな奴に私が負けるわけがない。
「はぁ、はぁ、どうだ!」
「お見事、流石は貴族様、奇麗な太刀筋ですね」
弾き飛ばされたショートダガーを回収し、開始位置に戻るマリス。
「ふ、ふふ、お前の攻撃は、軽すぎて私には効かないが、私の攻撃は、一度でも喰らえば終わりだな」
呼吸を整えながら、私は勝利を確信していた。何度かマリスの攻撃を受けたが、鎧に全て弾かれ、表面を削っただけだ。
「そうですね、純戦闘職でないレンジャー風情ですから、真っ向勝負で打ち倒すのは困難ですね」
「ふん、土下座して謝るなら、許してやらんこともないぞ?」
どうせ、次で終わりになるだろうと、私は貴族の余裕を見せつけてやった。
「んー、お心遣いは大変有り難いのですが、私は”受けた依頼は何があっても最後までやり通す”主義ですので……」
「あえて恥をかくか、良いだろう、今度はすぐに終わらせてやる!」
「どうせなら、一つ賭けをしませんか?」
「賭けだと?」
一体、マリスは何を言っているんだ?
「ええ、残り2本、私が勝ったら、今後、私の事を”お姉ちゃん”と呼んで貰います」
「はぁ?」
「おや? 自信がありませんか?」
「くっ、良いだろう、私が勝ったら……冒険者を辞めてもらおうか?」
ふん、どうだ! これなら泣いて謝るだろう、墓穴を掘ったな!
「構いませんよ? それじゃ交渉成立という事で……」
あっさりと受諾し、メイド長に視線を送るマリス。
「ランセル家、メイド長の名に懸けて、正式な交渉と認めます」
「おい、お前! 冒険者を辞める事になるんだぞ? 何考えてるんだ!」
「大丈夫ですよ? 負けなければ良いだけの話ですから、さぁ、始めましょうか」
「こ、後悔するなよ……」
何だ? 何故そんな条件で勝負を受けられる? 私は動揺する心を落ち着けながら開始位置に立つ。
「それでは、2本目……始め!」
「む?」
シュバ!……ダン!
「え?」
メイド長の合図と同時にマリスの手元が光り、視界からマリスが消え、喉元に冷たい感触があった。
「1本、そこまでです!」
「な……?」
何があった? 私は負けたのか? 喉元に押し当てられたショートダガーが離れると同時にどっと汗が噴き出す。
「ヒトミ”ちゃん”大丈夫? びびって漏らしてない?」
「ばっ! 馬鹿にするな! 貴様! 今何をした!」
「別に何も、 偶然、陽の光が武器に反射しただけじゃないかな?」
「反射……だと? メイド長! 今のは無効だ!」
「いいえ、有効です。 それとも、ヒトミお嬢様は”相手の武器に陽の光が反射し、目が眩んで負けたら全て無効”と仰られるおつもりですか?」
「そんなことが、”ランセル家の家訓”だって言うのなら、今のを無効にしてあげたっていいんだけど? どうする?」
「ぐぅ、私の……負けでいい!」
「ひきょうだぞ! 絶対わざとだろ! お姉に……もがもが!」
「ジーナ落ち着け、これが実戦や魔物相手だったら、言い訳すらできないで死んじまうんだぞ?」
「くそう……お姉が……お姉が負けるなんて……」
納得の行かないジーナが暴れて、ジギーに取り押さえられる。ジーナが私の代わりに憤慨し、悔し涙を流してくれたおかげで、私の頭も冷えた。
「次だ! 次は油断などしない!」
私は気を取り直し、開始位置に戻る。
「ふふーん、少しはマシな顔つきになったね、ヒトミちゃん!」
今まで猫を被っていたのか、からかう様に話しかけ、開始位置に戻るマリス。
「……今までのは、私を油断させるための演技だったワケか?」
腰の低い態度や言動は、全て演技だったのなら合点がいく。
「まぁ、そうだね、ヒトミちゃんは騙すまでもなく、頭に血が上りやすかったし、変なプライドがあって隙だらけだったから、隙を見て、ちょいとお灸を据えてやろうと思ってたんだけど……」
マリスがチラリとメイド長に視線を送ると、メイド長は静かに頷いた。
「そういうことか……」
「流石、ニナさんは良く分かってるよ、我侭なヒトミちゃんに言う事をきかすなら、この方法が一番だってね」
私は深呼吸をしてから、剣を構える。
「ふん、油断さえしなければ、そんな貧相な武器など恐れる事はない!」
「……貧相ね、ちょっと今のは、カチンと来ちゃったな……」
マリスの目つきが替わった、そんなボロボロの装備をけなされた位で怒ったのか?
「お姉ぇー! クシカツ―! まけんなー!」
ジーナが声を張り上げている、まったくクシカツではないと……だが、長女として妹の期待には応えてやらないとな。
「それでは、3本目……始め!」
私は先制をとられぬ様、肩幅に足を開き、盾を前にしながら、油断なく構える。
「来い!」
マリスとの最後の勝負が始まった。
おかしい、予定だともっと短くするつもりだったのに……。長くなっちゃってます、主人公も暫く出てきていません、他のキャラが文句を言っている……等々、書くスピードが落ちている気もするorz




