第25話「聖騎士と陰謀とスタンピード」その9
第25話「聖騎士と陰謀とスタンピード」その9
【魔女の森】
「ちくしょう! ちくっしょう!……ぐす……」
私は走った、振り向かずに走った!何度か魔物に出くわすも、直ぐに興味を失ったように爺ちゃんが消えた方向に向かって行く。
「はぁっ、はぁっ……」
あの時と同じだ、あたしの村が壊滅した時も、魔物はただ真っすぐに村に向かってきた。
みんなの悲鳴、両親の絶叫、弟の鳴き声、みんなみんな飲み込まれ、食い散らかされた!
”スタンピード”はあたしの大事なものをすべて奪いつくして行った。
「許さない!許さない!絶対に!」
”スタンピード”を起こした奴だけは、絶対に!楽には殺さない!絶対にだ!
復讐心だけが、あたしの足を前へ、前へ、と進めていた。
………
……
…
魔女もどきの”マーキング”からは逃れることが出来たが、あたしにはさらなる絶望が迫っている。
「はぁ、はぁ、み、水……」
”飢え”と”渇き”だ……水筒の水は、魔女もどきの血を洗い流そうとして空になっていたし、食料も失った、仕留めた魔物にも食える類はあるだろうが、火を起こす余裕などなかった。生で食おうものなら腹を下し、余計な水分と体力を失うだろう。
「爺ちゃん、せっかく護って貰ったのに、もうダメかも……」
”マーキング”から逃れるため、魔女もどきの血が付着した装備や服は捨ててきた。改めて見ると酷い格好だ。
「はは、【魔女の森】を、まっぱだかでうろつくなんて、あたしぐらいだろうね」
唯一無事だった下着も、枝に引っ掛けたり、紐が千切れてしまった為、今のあたしはブーツと鞄だけの格好だ。
愛用の短剣も折れてしまい、鞄の中に念の為と忍ばせておいた予備の短剣だけが最後の武器だ。
「自決用でもあるんだけどね、そんなことしたら爺ちゃんに怒られちまうな……」
”ドサ!”
木の根に足を取られ、その場に倒れた。もうこのまま眼を閉じたら楽になれるかな?
ゴロンと仰向けになり、樹々の隙間から見える、空を眺める。
「みんなの仇、取りたかったなぁ……。 あ、結局あの子にシャツ返せなかったな」
また会いたいなぁ、買い出しとかで、ここを通ったら、あたしの亡骸を見つけちゃうかな?
「せめて、ぴっちぴっちの内に見つけてほしいけど、魔物のご飯になってるかもだなぁ」
魔物の血は、汗でほとんど流れてしまった、途中からは魔物の糞を見つけては身体に塗りたくった。
「ああ、どっちにしろこんな姿見せたくないなぁ」
鞄からあの子のシャツが入った包みを出す。
「ここに置いておけば、きっと……」
あの子のシャツを、出来るだけ離れたとこに置いて、あたしは目を閉じた。
「みんな、英雄女傑様、そして、爺ちゃんゴメン!ゴメンよぉ……」
全てを諦め、体の力を抜いた時、何かが聞こえた?人の声?
「行くよ!コルベット!」
「行くってどこにどうやってです?」
「方角は分かった、あとは……何とかなる!」
「おいで白露露姫」
女の子の声?まさか、幻聴?
『はぁい!アイリス、ひっさしぶりぃ元気してた?』
あ、何か軽い感じの声が加わった。
「うん、ちょっと貴方の力が必要な予感がする、力を貸して」
『おっけぇ、まっかせなさーい!』
え?何?何なの?ここ、【魔女の森】だよね?なんで女子トークが始まってんの?
「コルベット、早く乗る」
「は、はい!」
乗る?馬か何か?よく分からないけど助けを求めれば……。
「うん、その表情……いいネ!」
「ちょ!急に飛び上がらないでぇぇ!!」
え?飛び上がる?何の事?
「超特急、発射!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!!」
助けを求め、最後の気力で這いずって行くと、視界の先に杖の様なものに立つ白い少女としがみ付いている珍しい肌の色の少女が、空へと舞い上がり飛び去って行くのが見えた。
「え?何なの?夢じゃ、ないよね?それに……」
樹に寄りかかりながら立ち上がった、あたしの目の前にはとても大きくて太い樹があり、よく見ると家になっている様だ。
「民家?助かった……」
鞄とシャツを回収し、ふらふらとする足取りで、木の家の扉の前まで来る。
”ドン!ドン!ドン!”
「誰か!誰かいませんか!助けてください!」
”キィィィィ……”
扉が開いた!今度こそ助かった!……あれ?
「誰もいない?」
家の中に入り、扉を開けた人にお礼を言おうと思ったのに誰もいなかった……。
”助かった”と嬉しさのあまり注意力が散漫していた様だ、【魔女の森】の中に民家があるなんて、あり得ない事だと……。
「まさか、魔女の住処?」
あたしは、よりにもよって、森より危険な場所に、すっ裸で侵入していた。
「ひう!」
何か大勢の何かに見られている気がして鳥肌が立った!
「なに? 誰かいるの?」
きょろきょろと見渡すが誰もいない、なのに沢山の気配を感じる。
”バタム!”
扉がひとりでに閉まった?やはり、何かいる……。あたしは鞄から短剣を抜いておいた。
「どうしよう、もしかして、”本物の魔女”がいるのかもしれない」
心臓の鼓動が早くなる、疲労困憊で動けなかった体に緊張が走る。
「こんな格好で、交渉も何もあったもんじゃないよね?」
”……”
”……”
”……”
”……!”
「な、何の声?何処から?」
まるで大勢の人が、ひそひそ話をしてるかのような声が、確かに聞こえた?
樹の中とは思えない広い居間、誰もいないはずなのに気配だけはする。
「だ、誰かいるの?いるなら姿を見せてくれないかしら?」
”……!”
”……”
”……”
”……?”
「勝手に、こんな格好で上がり込んだのは謝ります!でも、助けてほしいんです!」
敵意が無いことを示すため、短剣と鞄を床に置き、両手を上げた……。
”……!”
”……?”
”……!”
”……?”
何かじろじろと見られてるようだ、前を隠したいところだが、恥辱に耐えて手を上げ続けた。
”……!”
”……!”
”……!”
”……!”
あたしはそっと腕を下げ、その場で土下座をしていた。今はただ、助かりたかったからだ。
「お願い、助けてください!」
その時、何かが一斉に動いたような気がした……。
ぎゃう!時間が足りぬ!腕も足りぬ!次回こそは!




