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「父上、僕に婚約者がいるとどうして言ってくれなかったんですか?」
騎士団の総司令官であるルーベルト公爵。騎士を輩出しているルーベルト公爵家は国王からの信頼も厚く数代前には王女が降嫁している程だ。
「私はちゃんとティナに伝えていたよ。覚えてないのだろう。まぁ、私としてもあの婚約者とは何れにしても解消するつもりだったから良いのだが。婚約破棄としてあんな大勢の前でするとはあの子息には痛い目にあってもらわねばいけないね。」
「どうせ婚約破棄をされて傷物にならなかったとしても僕を欲しがる人なんていないですよ。」
眉を下げてクリスティーナは苦笑いをする。
「何を馬鹿な事を言っているのよ。ティナはとっても魅力的な女性なのよ。...此方がヒヤヒヤするくらいに」
最後の方はレオーナがもごもご言うので聞き取れなかったが最初は聞き取れたので訂正する。
「レオーナ、君みたいな可愛らしい王女様に言われても僕は騙されないよ。」
クリスティーナより少しだけ低いレオーナの頭をポンポンと撫でる。
「も、もう!子ども扱いは良して。わたくしは貴女と同い年なのよ。それにもう少ししたらティナを抜いてみせるわ。」
レオーナはクリスティーナより身長が低いのをとても気にしているが『身長が低い方が可愛いから良いのに』と心の中でクリスティーナは思うが、それを口にすればまたレオーナに怒られるので黙っておく。
「こほん、話を戻すよ。婚約破棄の件は私が処理するからティナは気にする事無いよ。」
「ありがとう、父上。僕は父上みたいな立派な騎士になって王族であるレオーナを護りたいと思っているので結婚とかはまだ考えられません。」
クリスティーナは自分と同じ薄いグレーの瞳を真っ直ぐに見て言う。
「...そうか。ティナの意見を尊重するが、レオーナ様の側近になれるかは難しいと思うけれどティナが私を尊敬してくれるのはとても嬉しいね。」
騎士団では普段は笑顔を見せることは無いのだが訓練となるとニコリと微笑みながら部下達を容赦なく倒していくので騎士達の間ではとても恐れられている。
しかし、家に帰ると愛する妻と娘のクリスティーナを溺愛しており息子でありクリスティーナの兄と一緒に甘やかしている。
そんな息子も第一騎士団の副隊長をしており王太子の側近でもある。彼は普段も訓練でも一切笑顔を見せないが妹のクリスティーナの前だけでは始終顔が緩みっぱなしなのである。
「婚約破棄の件を兄上に知られたら厄介だなぁ。まぁ仕方ないよね。いずれバレてしまう訳だし。」
「...あぁ、あのシスコンの雪豹ね。」
「へ?何それ」
「あら、知らないの?貴女のお兄様、騎士団の中でそう呼ばれているのよ。ルーベルト公爵も氷花とか何とか呼ばれているわ。」
「雪豹や氷花ってどういう事?父上や兄上に似ても似つかないよ。」
「ははは、王女様も冗談がキツいではないですか。あ!もう外も暗いですからそろそろお城へお帰りになられた方が良いのでは?さぁ帰りましょうか。馬車も用意しております。さぁ帰りましょう。」
レオーナが説明しようと口を開けかけた時には部屋の扉へと連れていかれてあっという間に馬車に乗せられてしまった。
「ちょっ!ティ、ティナ!」
反抗も虚しくお城へとドナドナされていくレオーナだった。
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