マーク5、
ここでは誰もが子供の姿に戻るんだよ。ただそれだけのことだ。
マークはそう言うと、本棚から一冊の本を取り出し、空いているテーブルの席に腰を降ろした。
君もゆっくりするといいよ。
僕はそんなマークに笑顔を残して本棚に向かった。
そこには見たことのない本がズラリと並んでいた。外国の本? そうではないことはその文字を見なくても理解出来た。どんなに形が奇抜でも、本は本だった。それは明らかなんだ。突飛な仕掛け本でも、見れば分かるんだ。本型の貯金箱だって、その違いは明らかなんだ。ただ、本物をくり抜いた本だと、出来の良し悪しで気がつけないこともあるんだけれどね。
その本は、まるで料理のようだった。見た目には普通の本に見えなくもないけれど、とても食欲をそそる雰囲気を持っていた。僕は思わず、手に取った瞬間にヨダレを垂らしてしまったほどだ。
その本を手に、マークの向かいの席に腰を降ろした。するとマークが、君はやっぱりいいセンスをしているねと言った。
意味が分からない僕は、ちょっとだけはにかみ、本に顔を向けて開き始めた。
不思議な感覚だった。文字はまるで読めないのに、意味が分かる。というか、読めてはいないけれど、中身が頭に絵として浮かんでくるんだ。
その本の内容は、魔法使いによって命を与えられた死人が別世界で活躍する物語だった。主人公は元料理人で、魔法使いとの契約で一度死んでしまった身体に命を吹き込まれる。それと同時に、特殊な能力が芽生えてしまう。それは、他人の心が見えること。なにを考えているのか、どんな過去を生きてきたのかを見ることが出来る。遠くからでも、その掌を相手の脳に向けることで。
ひょっとしてこれって? 僕がそう思っていると、マークが口を開いた。
そろそろ来るはずだから、一旦その本を片付けないとね。
そう言ったマークは、自らが読んでいた本を閉じ、棚に向かって歩いて行く。僕も続けて本を片付けに向かった。
不思議なことだけれど、頭の片隅では、その物語が続いていた。捲ってもいないページの先まで話は続いていった。
そして僕がテーブルに戻ると、そこにはすでにマークも戻っていて、何故だか食事が用意されていた。マークはその食事を美味しそうに食べていた。
君も食べなよ。君はやっぱりいい趣味をしているね。僕が座っていた席の前に置かれていた料理を顎で指し、マークはそう言った。