マーク1、
君が例のボーカリストか? なるほどね、確かに素質だけは感じられる。
マークは僕に顔を向けてそう言った。
それは当然だろ! こいつはな、あのエンケンが認めた男だからな。ジョーイがそう言った。
本当に? 彼が認めるってことは、世界が変わるってことだ。
マークがそのつぶらな瞳を大きくさせながらそう言った。
まぁ、どうでもいいんだけどね。続けてそう言ったマークに、ジョーイが笑った。
確かにそうだけどな。俺たちにとっては世界なんてどうでもいい。
ジョーイのその言葉に、マークだけでなくクライドとボニーも頷いた。
僕には意味が分からなかったけれど、どうでもいいっていう気持ちは分かる。世界が変わるとか変えるとかなんとかなんかよりも、今は大事なことがある。僕が変わらなくてはならない。
それだけなのかい? と、カバンのサックがそう言った。みんなに聞こえるような声で。
こいつは驚いたよ。早速馴染んでいるのか? 才能は本物だな!
マークはじっとサックを見つめてそう言った。決して睨んでいるわけではない、優しい眼差しだった。
君は本当に特別なのかも知れない。もしもこの世界に来るのが本当に初めてだとしたら。前世にも来た印はないからね。
マークのその言葉は意味が分からなかったけれど、そっと歩みを近づけて僕の頭に手を乗せた時は、とても嬉しく感じた。
こいつは嘘なんてつけないよ。
ジョーイのその言葉にマークは頷く。
分かっているよ。わざわざ連れて来てくれてありがとう。君に感謝をするのはこれが初めてだね。
本当にそう思うなら、俺を家に送ってくれないか? またあいつらの背中に乗って帰るのは時間の無駄なんでね。
ジョーイの言葉を聞いたクライドとボニーが、俺たちだって面倒だね! 二人揃ってそう言った。
それじゃあ早速、サヨナラだね。
マークはそう言いながら、ジョーイに向けて右の掌を向けた。大きな動作で腕を伸ばしてから。
また会おうなとジョーイが言った。
シーユーバイバイ! マークがそう言うと、掌からモヤのようなものが発せられたかに見えた。そしてそのモヤのようなものに包まれたジョーイは、その場でふわっと消えてしまった。