ジョーイ11、
クライドの鼻には、穴が開いていなかった。
その鼻から垂れてくる体液が、生まれたばかりの赤ん坊には大切なんだ。それを体内に取り込むことで、免疫力を高めるんだ。後で聞かれても面倒だから今言うけれど、穴は開いてなくとも鼻は効く。寧ろ開いていない男の子の方が信頼が出来る。
やたらと詳しいジョーイに、僕はどうしてっていう表情を向ける。
こいつらのことには詳しいんだよ。これから会いに行くアイツが、その理由だ。お前も知っているだろうな。イカしたロックスターだからな。
俺たちが断ったところで、あんたらは彼を探し出すんだろ? そうなるとグチグチ言われるのは俺たちだからな。
クライドがボニーにしかめっ面を向けてそう言った。
それじゃあ、俺たちの背中に乗りな。あんたらの足じゃあ、辿り着く頃には日が暮れちまう。
クライドがそう言うとすぐに、その背中にジョーイが飛びついた。
乗り心地は最高なんだけどな、なんだか気分のいい物じゃないよな。友達の背中に乗って移動するってのは。
その割には楽しそうじゃないかとカバンのサックの声が聞こえた。その通りだなと、僕は笑った。
ボニーが僕に背中を向けて、早く乗りなよと言った。僕はどうしたものかと悩み、迷っていた。仮にもボニーは女の子だ。その背中に乗るなんて、雌馬に跨るジョッキー以上にイヤらしいんじゃないかとの思いが頭をよぎった。別にジョッキーはイヤらしくなんかはないけれど、なんとなくそんなことを想像してしまった。
ボニーの背中は、柔らかかった。乗り心地は最高だけれど、立って乗らなければならないのが少し不安だった。落ちてしまうんじゃないかとの恐怖に襲われる。
ボニーが言うにはだけれど、どんな体勢でいても、絶対に落ちることはないらしい。背中を預けているジョーイの姿が横目に映る。
楽にしていないと身体が痛くなっちまうぞ。いくら乗り心地がいいとはいえ、このまま五時間は止まらないからな。
そんなに遠いの?
僕がそう言うと、ジョーイは首を振って笑った。
こいつらが休憩するのが五時間後ってことだよ。動き出すと五時間は止まらないんだよ。
ジョーイはそんなことを言いながら、どこで手に入れたのか、真っ赤な缶の炭酸飲料を口にしていた。