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異世界ロック  作者: 林 広正
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ジョーイ8、

 そいつは随分とお喋りなようだが、少し気をつけた方がいいぞ。

 ジャングルの中でほんの少し見える空を見上げながら、ジョーイがそう言った。

 サックは悪い奴じゃないだろ? なにに気をつけろって言うんだ?

 僕は少し不機嫌にそんな言葉を投げ捨てた。

 そいつはサックって言うのか? まんまの名前だな。まぁ、そんなことはどうでもいいんだがな、そいつが本来はお喋りだってことも俺は納得している。けれどな、よく考えるんだ。常識的には、カバンは喋らない。違うか?

 ジョーイがなにを言いたいのか、理解に苦しんだ。常識なんて後から当てはめるものだって、俺は教えられてきた。学校や家庭ではなく、ロックを通して知ったことだ。

 いやに不満そうな顔を見せるんだな。

 常識なんて糞食らえだよ。僕ではなく、カバンのサックがそう叫んだ。その通りだねと、僕が後に続く。

 なにがその通りかは大概は想定内だ。けれどな、そんなのはどうでもいいんだよ。残念なことに、そいつの声は、俺には聞こえないんだ。というか、お前にしか聞こえていない。

 はぁ? 僕はそんな想いを表情にモロ出しした。

 カバンは喋らない。それはこの世界でも共通の認識なんだよ。お前はさっきからずっと、独り言を喋っているだけだ。

 はぁ? この声が聞こえていない!

 そう言ったのはカバンのサックだった。僕が驚くほどの強くて嫌悪感混じりの声だった。

 本当に聞こえていない? ジョーイの表情からそれを理解した。

 そんなことよりお前は今、この状況を理解する必要がある。そいつとのお喋りに夢中でここまでの道程なんて覚えていないんだろ?

 ジョーイはサングラス越しにカバンのサックを睨みつけている。

 そいつは確かに役に立つ。けれどまぁ、扱いには注意するんだな。俺はこいつと喋ることが出来るんだが、まぁ苦労することもあるよ。

 そう言いながらジョーイはサングラスを指差した。まぁ、こいつには何度も助けられてもいる。時にこいつはなんでも見透してくれるし、見たモノの情報も教えてくれる。その感情も透けて見えるんだ。ただ、機嫌を損ねると真っ暗になることが困りものだけどな。

 この世界で生まれたモノなら喋るのは当然なだよ。カバンのサックがそう言った。そのジャケットだって、今は黙ってるけれど、喋れるはずなんだよ。

 そうなの? 僕はまた独り言を言う。

 その癖は直した方がいい。この世界では、っていうかそいつ等はな、俺たちの声を自由に聞くことが出来る。心の声までお見通しなんだ。

 だったら悪口なんて言えないってことか? まぁ、悪口なんて言うつもりもないけれどな。僕はカバンのサックを気に入っているんだ。不満なんてきっと、出てくるはずもない。

 そろそろ車から降りた方がいい。奴らはせっかちだからな。我慢の限界ってところだ。

 カバンのサックがそう言った。

 そろそろ出て行かないと、ヤバイようだな。

 運転席のジョーイがそう言った。

 僕はカバンのサックを肩にかけ、カナブンから降りた。ヤバイ雰囲気は大いに感じられたけれど、どう対処していいのか分からない。僕はただ、その場に立っていることしか出来なかった。

 僕の目の前には、ミドリの肌をした大きな人型の生き物が立ち塞がっていた。二体も。

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