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異世界ロック  作者: 林 広正
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エイミー9、

 僕とエイミーは、その広い空間を散歩した。そこには音楽以外の楽しみが全て詰め込まれていた。完全なる音楽のない映画は、その内容が直接脳に叩き込まれていく。伴奏は時に物語を豊かにするけれど、観る側の思考を奪い、見せる側のエゴを投げつける。

 ただ歩くだけで楽しい空間だった。

 エイミーは、僕が飲み干すタイミングでビールを手渡す。どこから手に入れているのか、いつもその手に二本の瓶をぶら下げている。

 歩きながら飲むビールは最高に美味しい。夜風に当たりながらだとお腹が痛くなることもあるけれど、ここではその心配がない。僕は辺りを見回しながらビール瓶に口をつけ、時折エイミーと言葉を交わす。

 今すれ違ったのがジャニスよ。なんて彼女の言葉に振り向くと、確かに後ろ姿だけでもそれと分かるジャニスがいた。その他にも多くのロックスターとすれ違ったり遠くに見かけたりしたけれど、ジョンとは出会えなかった。

 この世界では、外からの見た目になんて意味がない。僕たちが楽しんだこの建物を外から見ると、とてもじゃないけれど同じ空間に存在しているとは思えなかった。その大きさだけでなく、外と中とでは、見える景色までまるで違う。

 ただ歩いているだけでも楽しいと感じるのは、初めての体験だった。公園を散歩していると、気持ちが良くなることがある。身体の奥から自然と溢れ出てくるメロディーと言葉。僕って天才なんじゃないかと感じる。けれどそれは、大間違いだったと知る。溢れ出てくるメロディーは、そこで耳にする音楽からの影響を受けている。その言葉もまた、自然と目や耳に入ってくるなにかからの影響を受けている。

 けれどここには、音楽がなかった。自然の音はあっても、作られた音楽は存在しない。その代わりに、多くの言葉が入り込む。ここを歩くだけで、僕にはいくつもの物語が書けるんだと感じていた。

 私もね、以前は沢山の曲を書いていたのよ。向こうの世界で煮詰まると、ここに来ては曲のアイディアを得ていたの。ここに来るとね、その世界じゃ得られない音を見つけられるのよ。あなたも今、そんな気分になっているんじゃないかしら? さっきから素敵なメロディーが漏れているわよ。

 確かに僕はいい気分で、新しいメロディーを口ずさみながら、そこに合う言葉たちを探していた。同時刻に起きていた出来事なんて知りもしないで。

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