第八話 災禍
✣ ✣ ✣
デウス達は体を動かすために冒険者ギルドに向かった。後コクド達とも会うため。
いつも通り冒険者ギルドは賑やかである。
うるさいくらいに。
「ここが冒険者ギルドかー。千年でかなり変わったなー。」
アルサーは千年後の冒険者ギルドを見るのは初めてらしく、とても興味を示している、ようにも見えない。
「アルサーは武器要らないのか?」
アルサーの格好に気づきデウスが言った。
「そうだな〜。武器か。フローレ達と別れた後は持ったことないな〜。」
「仮でこれでも使ってろ。」
フローレが何かを作り始める。
手から溢れる大量の業火は形を変化させる。
最終的にデウスの持っている武器ぐらいの片手剣が出来た。
「お前が″終焉叛逆″を作るなんて珍しいな。」
「珍しいなって千年前まで使ってただろ。」
紅く燃えるような輝きを放つ刃爪と逆だった鱗のような模様。いかにも悪役が使いそうな武器だ。
「取り敢えずコクド?って子達を待とうか。」
アルサーはそう言って武器を肩にかけた。
刃のついていない所を肩につける。
「やっと起きたのか。」
急に声が聞こえて驚くデウス。
声のした方向にいたのはコクドだった。
「悪かった。」
「まぁいい。それよりそちらの人は?」
コクドはアルサーのことを見て誰だと問いた。
「俺はアルサー・ペンドラゴン。デウスの先祖って言っておくよ。宜しく。」
左の手をポケットに入れ、右の手は武器を握り締めている。
「デウス。この人アルサー・ペンドラゴンって本当か?」
「酷いな〜。俺は紛れもなく本物だ。」
「なんで生きてるんですか?」
「え?俺って生きちゃダメなのか?」
少し寂しそうに言ったアルサー。
そりゃそうだ。千年前の人が目の前に居るなんて普通なら考えられない。
「まぁいいや。取り敢えずクエストにでも行こうか。」
「そうだな。」
コクド達は別にいいよという反応をした。
デウスがクエストを受注した。
クエスト内容はグレブラナルガの討伐。
強敵と言えば強敵だ。
それに対してアルサーは
「楽勝だな。」
そう言ってクエストに出発した。
✣ ✣ ✣
劔核の亜獣とも言われるグレブラナルガ。
並大抵の冒険者なら一撃で殺られてしまう。
主な移動場は刔鼠山。比較的温度が高い山だが、夜になると急な氷点下を誇る。
その温度一番低くてマイナス五十七度。
昼間は大体三十度を上回る程だ。
今は昼前なので比較的暖かい。
「やっぱり標高高いな〜。」
紅く燃えるような輝きを放つ剣を右手に歩くアルサー。
刔鼠山に来るのはこれで百回以上らしい。
「?」
デウスが周りを見渡す。
「デウス?」
「……小型モンスターか?」
デウスは大剣に手を添える。
「シュルアァァァァ。」
人の三倍の巨体を持つメジャーな蛇モンスター。タクマスタだ。
「タクマスタか。」
アルサーは軽く武器を振る。
「身体を温めるために殺るか。」
アルサーはタクマスタに近づく。
「ブルシュゥゥゥ。」
何かを吐き出したタクマスタ。
並大抵の毒だ。人は特に異常を起こさないが服や装備が溶ける。
アルサーは難なく躱し、近づく。
「取り敢えず俺の肩慣らしになってくれ。」
アルサーはそう言って武器を強く握った。
突如、タクマスタの首がはね飛んだ。
「え?」
コクドが驚いた表情でアルサーのことを見た。
「やっぱり腕少し落ちたかな。」
「アルサー。お前何年間武器振るってねぇんだ?」
「フローレ達と別れた後からずっとだ。」
コクドやニルノ、デレーナは何が起こったか分からずにいた。
だが、フローレとイリビードとデウスとデアは分かった。
『マジかよ。あんな速度で武器振るえるやついんのかよ。』
デウスの目にはハッキリと映っていた。
アルサーの剣技が。
あの一瞬でアルサーはタクマスタの首を斬り裂いて跳ね飛ばしたのだ。
身体能力は多分人間界トップクラスだろう。
「凄い。」
デアが感心したような表情で軽く拍手する。
イリビードはいつも通りみたいな顔で見ていた。
「そりゃあ長い間武器を振ってなかったら腕も落ちる。」
大抵の人には見えない速度をフローレやアルサーは腕落ちと言っている。
ここまで来ると怪物並である。
「ま、いいか。まだまだ進むぞ。」
そう言ってアルサーは先頭を切る。
未だにグレブラナルガの姿は見えない。
まだまだのようだ。
「ァァァァァァ」
「なんの雄叫びだ?」
コクドが警戒する。
「お?そろそろかな?」
アルサーは警戒心零で突き進む。
アルサーの後ろを追うデウス達。
草木を掻き分けて突き進み、着いた場所は雪が少し積もった平地だ。
「いたぞ。あいつがグレブラナルガだ。」
アルサーは指をさした。
デウス達は指を指す先を確認した。
そこには白き鱗に身を纏い、赤黒い眼をこちらに向け、鋭い牙を向ける。
背を低く保ち、二対の足で歩くグレブラナルガ。
「あいつは俺が殺ってもつまらないから他のやつに任せるよ。君達の強さも知りたいしね。」
アルサーは地面に座り込んだ。
「えー?」
「えーとはなんだ。」
「戦ってくれねぇの?」
「弱すぎる。つまらん。」
デウスの言葉にアルサーは少しきつく当たる。
「まぁいいじゃない。行こ。」
「そうだな。」
デアに誘われるがままデウスは武器を手に取った。
「デウスは正面から突き砕いて。」
「了解。」
デウスは地面を勢い良く蹴飛ばし、走り出した。
デアは先回りし、グレブラナルガを攻撃した。
「グルアァァァアァァァ!」
暴れ、デアを噛み裂こうとする。
デアはそれを躱して多数の切り傷をつける。
「グギャアァァァァ!」
殺しにかかってきているように感じる。
デアは飛んで逃げた。
デアのどいた後ろには突進してくるデウスがいた。
グレブラナルガは噛み付こうとした。
デウスは跳び、眉間らしき所に刃を突き刺した。
「グガガァァァァァ!」
グレブラナルガは呆気なく鎮火した。
デウスはグレブラナルガから大剣を引き抜き、背に収めた。
「へぇ。意外とやるんだね。」
「思ってたより弱かった。」
デウスは立ち尽くして言う。
「君達息ピッタリだね。良いペアになりそうだ。」
アルサーは立ち上がりながら言った。
デアは礼をし、デウスは頭を掻く。
「そろそろ帰ろうか。」
デウス達は冒険者ギルドに戻った。
今回コクドとニルノとデレーナは役に立たなかった。
ずっと見ていただけである。
報酬は銀貨三枚。そこまで強くないモンスターだ。報酬もちっぽけだ。
「取り敢えず帰るか。アルサーはどうするんだ?」
「俺は冒険者ギルドの宿を借りるよ。」
「そう。」
デウスは皆とその場で別れた。
アルサーはデアと一緒に冒険者ギルドに入った。
「君はレギトに似ているね。」
レギトはアルサーの少年時代に親友としていた人だ。訳あって五年程署事刑所にいたが釈放された。
冒険者になり、モンスターをバンバン倒していた。ジョブは魔人。ほとんどの魔法は取得していた。
だが、″あるもの″に殺されてしまった。
「レギト?」
「気にしないでいい。それより、良く眠るといい。」
そう言ってデアと別れたアルサー。
デアは部屋に戻りベッドに座り込んだ。
『デウスの過去。なんでだろう。私とほとんど同じくらいなのに何故か物凄く酷く感じたな。』
そんなことを思いながらベッドに体を預けた。
デウスの方はいつも通りだ。
ベッドにデウスとイリビードが飛び込んで眠り、フローレが窓辺にいる。
だが、フローレの顔は晴れ晴れとしていて、悩みが消し飛んだようだった。
デウスは起きていた。フローレのことを見て少し笑みを漏らした。
『いつもよりいい顔してるな。』
デウスは目を瞑り、眠りにつこうとした。
そこで悲劇が起きた。
大きな地響きのような音が聞こえ、デウスは飛び起きた。
「なんだ!?」
「!!!」
フローレは窓の外を見て絶望の色を顔に見せた。
「フローレ!どうなってる!」
デウスの問いかけにフローレは応答せずにずっと窓の外を見ている。
デウスは窓まで行き、外を見た。
そこでデウスは目を見開き、思考を止めた。
外には大きな影があった。
その影のしたには火が回っており、住民の悲鳴が聞こえる。
「なんで、あいつが、ここに居るんだよ。」
たどたどしい言葉で驚愕していたフローレ。
デウスは何かわからなかったが火が回っていることに驚いていた。
「フローレ。あれ何?」
「あいつは、闇を統べるもの。魔神の長。デスペランドーマだ。」
それは絶望を意味する。
✣ ✣ ✣
大きな影をもたらすデスペランドーマは悪魔の姿をしており、それでいて吸血鬼のような姿をしていた。
「我の声が聞こえるか!我は闇を統べるもの!デスペランドーマだ!今からこの街に絶望をくれてやる!」
そう言って火を吹き始めた。
街は火の海になり、あらゆる場所から悲鳴が飛び交った。
デウスは武器を取ろうとした。しかし、それはフローレによって止められた。
「行かせてくれ!」
「駄目だ!」
フローレは全力でデウスを止める。
「どうして!」
「今の主じゃ直ぐに殺される!やめろ!」
フローレの意見は最もだった。デスペランドーマはアルサーが全く歯の立たなかった相手だ。アルサーの身体能力すら得ていないデウスじゃ抵抗虚しく死ぬだけだ。
「じゃあどうすりゃいいんだよ!」
「奴があの言葉を口にしたら最後。絶望を知るまで終わらない。」
フローレは悲しげにそう告げた。
「くそ!どうしてだよ。俺は、誰も救えねぇってのかよ。」
膝をつき、床に手をついたデウスが哀しそうに言った。
「フローレ。行かしてあげて。」
イリビードがフローレに頼み込んだ。
「どうしてだ?」
「この子には可能性があるわ。救えるかどうかは分からない。でも、抵抗は出来るはずよ。」
「駄目だ。主が死ねば我々も死ぬんだぞ?」
「分かってるわ。でも、行かしてあげて。この子はやってくれるわ。」
イリビードはデウスの武器を取り、デウスに渡した。
「行ってきて。そして、街の人を救ってあげて!」
デウスは立ち上がり、武器を取る。
「どうなったっていい。何人か救えばそれでいい。俺は行く。」
「うん。」
デウスは窓から飛び降り、デスペランドーマへの抵抗を開始した。
「……良かったのか?」
「えぇ。あれでいいのよ。」
フローレとイリビードはただただ見守るのみだった。