第六話 デウスとデアの共闘
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デウスは疲れた体を無理やり動かし、病院に入った。
フローレはデウスを支えるようにして歩いた。
デウスがデアの部屋の前にたった時、ドアがガラリと開いた。
「だ、大丈夫!?」
ドアを開けて出てきたのはデアだった。
デウスの汗だらけの顔と今にも倒れそうな体を見て言った。
デウスは手をデアの前に突き出す。
「大丈夫。」
今にも死にそうである。息も荒く、立つのが精一杯。
「ほ、本当に大丈夫?」
「あ、あぁ。だ、大丈夫だ。」
先ほどよりもたどたどしい。
その後デアもデウスを支える。
冒険者ギルドの前に着く頃はもうすっかりデウスは元気になっていた。
「よし。疲れも取れた。」
「ねぇ。」
デアがデウスに問いかける。
「どうした?」
「あの病院の前にいた龍は何だったの?」
「あいつか。」
デウスの声が少しどんよりしたような気がしたデア。
「あいつはな。七つの罪龍の一体。傲慢の罪のスペルビアだ。」
「七つの、罪龍。」
「フローレとイリビードも罪龍だが、どうやら傲慢は比べ物にならないくらい強いらしい。」
デウスは壁にもたれ掛かる。
「それって、どれくらい?」
「七つの罪龍の残り六体を一体で相手できるくらいだ。」
フローレが応対する。
「そ、そんなに?」
「あぁ。偽りひとつ無い。」
フローレは顔色一つ変えずに言った。
一体で六体を相手。人間で例えると一人の善人が六人の悪人を相手にするレベルだ。
普通に考えれば六体の勝利だが、傲慢は違う。
「スペルビアは元は善龍だったんだ。でも、あの日が原因でスペルビアは善龍から悪龍に変わった。」
デウスとデアはフローレの言った″あの日″という意味が分からなかった。
「あの日?」
「あぁ。あの日は少し鳥達が騒いでいた。契約者と契約してから十年ほどが経過していた。そこにある一通の手紙がよこされた。手紙の内容はこうだった。【契約者、バクトク・バーミリアンとケイトル・モードレットが戦争によって命を絶った。契約していた虚飾の罪、ソルディブスルクトーリスと憂鬱の罪、イラデゥエトスが共に戦死した。】そう書かれていた。なんとも最悪な日だったろうか。我は怒りに満ち、山をひとつ破壊した。イリビードはショックに泣き崩れた。他のものも何かに染まり崩れた。だが、スペルビアは表に悲しみを出さず、いつしか人間を拒絶するようになった。そこからというもの。スペルビアは何処かに消えていった。今日会うのは約九百年ほど前だ。」
かなりの年月スペルビアと会っていなかったフローレだが、今日のスペルビアを見てフローレはショックを受けていた。
「あんなスペルビアを見たのは生まれて初めてだ。」
「え?待って。その話からすると七つの罪龍は元々九つの罪龍だったってこと?」
「そうだ。この世界にある古書は虚偽が記されてる。多分二人は死んだから入れる訳にはいかないと思ったんだろう。」
その話を聞いてデウスは悲しい思いになった。
「そんな過去があったのか。」
デアの時と一字一句間違いなく同じ言葉を言った。
フローレは軽く頷き、手をポケットに突っ込んだ。
「早いなデウス。」
後ろから声が聞こえた。デウスは振り返る。
その声の主はコクドだ。
「コクドか。」
「私達もいるよ。」
さらに後ろからデレーナとニルノが歩いてきた。
「デウス。その女性は?」
「初めまして。私はデア・ルナティックです。元々はPvPで戦ってましたが今回からこのギルドに入ることになりました。よろしくお願いします。」
きちんと一礼をするデア。
礼儀のなっているデアは歓迎された。
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デアが初めての依頼クエストということで少し弱めのにしようとしたコクドをデウスが止め、いつものレベルにしてもらった。
デアは冒険者カードを作りに行った。
クエストを受注した後、デウス達は椅子に腰を下ろして待っていた。
「お待たせ。」
デアは冒険者カードを持って戻ってきた。
「どうだった?」
「えーっとね。ジョブは魔導剣士。Lv九十七だった。」
「すげぇ。」
「だから言っただろ?いつものクエストで良いって。」
「そうだな。それじゃあ行くか。」
デウス達はクエストに出発した。
場所は禁戒氷界。とても寒く、敵の発生源が一番少ない場所だ。
デウスは武器のため暖かく、フローレは炎龍のため寒くない。他のものはとても寒そうだ。
「くそ。ドリンク飲んだのに寒い。」
「さ、寒い。」
「デアさんは大丈夫なの?」
「私は日頃から鍛えてるからこれくらいなら余裕よ。」
普通に歩くデアにデレーナが問う。
それに対して的確に回答するデア。
デアは足を止めた。
「どうしたんだ?」
「何か気配を感じる。」
魔力ではなく気配。流石不敗の少女と言ったところだろう。
「ただの気配じゃないわ。もっと莫大な、凶悪な。」
その瞬間、地響きを感じた。
「な、なんだ!?」
コクドがテンパる。
大きな影がこちらに向かってくるのが見えた。
「おい、デア、あれ。」
「えぇ。分かってるわ。あれは、」
「「氷河ノ王 テンペスタスリビス」」
氷河を司る魔物。テンペスタスリビア。
氷を操り、本気を出せば一帯を消し去ることも容易だ。
コクドやニルノはとても太刀打ち出来ない相手だが、デアとデウスは違う。
「こいつは腕がなるな。」
「ま、このくらいなら五分で十分だわ。」
デウスとデアは共に武器を取り出す。
コクド達は少し後ずさっていた。
「コクド達は援護してくれ。」
デウスの命令にコクド達は武器を取る。
「ガガガガガガガァァァァァァ!」
暴爆な咆哮は雪を震わし、雲を集め、吹雪を現した。
「行くぜデア。」
「いいわよ。」
デウスが地面を蹴飛ばした。
テンペスタスリビアは狼のような形相にマンモスのような巨体をしている。
テンペスタスリビアは足を使い、デウスを踏み潰す。
デウスはその攻撃を交わし、足を斬る。
テンペスタスリビアの足からは大量の血が吹き出る。
「ウガァァァ!」
一気に体勢を崩したテンペスタスリビアに追い討ちをかけるようにデレーナの弓が眼球に直撃する。
「ギギャァァァァ!」
デアが刀を五連撃で振り回し、腹を切り裂く。
血は止まらず、出続ける。
「デア!トドメを刺す!援護頼む!」
「分かったわ!」
コクドとニルノが攻撃している中、デウスとデアは顔へと走っていた。
デウスの大剣がテンペスタスリビアを突き、デアが口を裂き開く。
「ァ、ァァ。」
「じゃあな!」
デウスは大剣を引き抜き、飛び上がる。
テンペスタスリビアの首元に着き、大剣を巨大化させる。
「おりゃぁぁぁぁ!」
デウスの大剣はテンペスタスリビアの首を切り、骨を絶った。
「ーーーーー」
テンペスタスリビアは口を開き、眼を閉じて息を引き取った。
デウスは大剣を元の大きさに戻し、背に収めた。
「終わったな。」
「そうね。」
デウスとデアは互いに勝利を誇ったが、コクド達は驚いていた。
「どうした?」
「お前ら、息ピッタリだな。」
「「ん?そう?」」
とてもぴったり息があっている。
「取り敢えずクエストクリアだな。戻るか。」
デウスとデアが戻る姿を見ながらコクド達は呆気にとられながらも着いて行った。
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デウス達はギルドにクエストクリアを伝え、報酬を貰った。
今回は強敵なだけあるため、金貨二枚を貰った。
フローレからしたらちっぽけな額だ。
「帰ってきのね。」
イリビードが冒険者ギルド入口で待っていた。
「あ!イリビード!」
「あ!じゃないわよ。私の事置いていって。大変だったのよ?変態に声掛けられるし。」
「それはお前の格好がわりぃよ。」
イリビードの格好は最初と何ら変わりない。
その格好がいけない。
「もう少しちゃんとした服をだな〜。」
デウスはイリビードに指摘する。
「まぁいいじゃない。」
「あのな?この先俺がお前を置いていくことはあるかもしれない。だからまた変態に襲われないようにちゃんとした格好をする。それが一番いいんだよ。」
「別にいいわ。変態を相手にするのも面白いもの。」
イリビードが左の方を指さす。
デウス達はイリビードの指した方向を見た。
大勢の男性が山住になっていた。
皆頬に赤みがあり、鼻血を垂らしていた。
「おい、お前、何した?」
「ちょっとね♪」
そう言って衿つけ止まりを引っ張る。
「やめろ。見せんな。」
イリビードは胸を見せ付けるように衿を引っ張る。
「こうやってこの変態共をこうしたのよ。」
「もう少しやり方を考えろ。」
「だって反応が面白かったんだもん。」
駄々を捏ねる子供のように言ってきた。
デウスはため息をつく。
「まぁいい。でも服はちゃんとしたのを着ろよ。」
「は〜い。」
分かっているのかは曖昧だがそこには触れないようにするデウス。
イマイチ話についていけていない皆は苦笑いをする。
「取り敢えず私とはここで別れるわね。」
デアがそう言って刀に手を乗せる。
「そうだな。じゃあな。また明日だ。」
「うん。また明日。」
少々頬を赤めて嬉しそうに明日と言ったデアにデウスは軽く手を振った。
デウス達はそれぞれ家に戻った。
そこでデウスはイリビードに問い詰められた。
「ねぇ。あの子誰?」
「PvPで不敗の少女って言われてた人。」
「へぇー。あの子が。可愛い子ね。彼女?」
そこ言葉にデウスは分からないくらいの赤みを頬に染めた。
「ち、違ぇよ。」
「えぇ?ホントにぃ?」
「本当だよ。」
そんなことを言ってイリビードはベッドに座る。
「俺は久しぶりに風呂に入る。」
「そう。私は寝てるわ。」
デウスは一週間ぶりの風呂に入る。
『久しぶりだな。』
ゆっくりくつろいでいた。
そこでイリビードの言葉を思い出した。
『″彼女″か〜。』
少し頬を赤める。
『俺はデアのことは何とも思ってないけどデアの方などうなんだろう。』
デウスは何故こんなに興味を示すのか分からなくなった。
風呂を上がり、ベッドに向かう。
ベッドの上には小さく呼吸して眠っているイリビードがいた。
『フローレは今日も夜の狩りか。』
デウスはベッドに腰を下ろした。
その瞬間、イリビードに引き寄せられた。
「うわっ!」
デウスを抱きしめるイリビード。
「おい、イリビード。」
小声で言ったが、どうやらイリビードは眠っているようだ。
『寝相?』
抱きしめられているデウスはいつの間にか眠りについていた。
何かにスッキリしたような顔をしながら。