第四話 分かろうとする心
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オーラ。人の感情や人柄を読むことも出来る。その者の戦闘能力や経験なども分かる。
そのオーラが強ければ強いほど物凄いという証拠である。
デウスやフローレからはそのオーラが人以上に現れている。
「戦う?俺と君が?」
「そうよ。」
デウスは疑問を抱いていた。それと同時に気づいたことがあった。
『この女の人。あのテレビに出てた不敗の少女だ。でもなんで俺なんだ?もっと他にいるだろうに。』
「俺で良ければ。」
デウスは了承してしまった。
その瞬間、周りの人が拍手をし、歓声を上げた。
「あの不敗に挑まれて了承した男が現れたぞ!」
「マジか!どこでやるんだ?俺絶対見に行く!」
「私も!」
周囲からの注目度今現時点ではデウスが一番だろう。
「じゃあ私に着いてきて。場所はエレメスタルでやるわ。」
エレメスタル。一番過激な激戦を行う会場。死者も出るほどの過激な交戦をする場所だ。
デウスは少女に着いていく。
少女は腰に武器を掛けている。
形状は刀。見た目は軟弱そうな武器だがその武器で何人もの人を真正面から断ち切ってきた。
怪物的少女だ。
歩くこと約二分。エレメスタルに着いた。
「先に入っておいて。私は武器を研いでから行くから。」
「そ、そうか。」
デウスは数ヶ月ぶりに研ぐという言葉を聞いた。デウスは長い事武器を研いでいない。
でも新しい武器に変わったから研ぐ必要は無い。
デウスは先にエレメスタルに入った。
フローレは着くことが出来ないため観客席の方へ行った。
エレメスタルの中は広く、戦いやすいように地面はアスファルトと静砂で出来ている。
砂の上で暴れたとしても音がほとんど立たない。
デウスは周りを見渡す。
戦い場には何個もの入口が設置されている。
観客席には数々の観客者がいる。
『まるでコロシアムみたいだな。』
「待たせたわね。」
後ろの方から声が聞こえた。
「早速始めましょうか。」
そう言って少女は一礼する。
デウスも一礼をする。
「誰かコールをおねがい!」
少女が言うと、フローレが立ち上がった。
「準備はいいか?それじゃあ、バトルスタート!」
そのコールに合わせて少女が鞘から刀を引き抜く。
デウスは背から大剣を出し、両手で持つ。
「先手は貰うわ。」
そう言って少女は刀を構える。
随分と腰を落とし、手に刀を翳すようにする。
重心はど真ん中だが体の向きはデウスから見て左に向いている。そして右足を前に出している。
『少し様子を見よう。』
デウスは構えを通常大剣剣術の構えにした。
そこで少女は即座に悟った。
『様子見?私も舐められたものね。』
直後、デウスの前から少女は姿を消した。
デウスは驚き周囲を見渡す。
すると、デウスの振り向いた先に剣先があった。
物凄い至近距離だ。
デウスは慌てて大剣で防ごうとする。
だが、少女の刀の剣先は姿を消し、同時に少女も姿を消した。
『早すぎだろおい。』
「さぁ、本気を出して。私に手加減はまだあなたには早すぎるわ。」
デウスの右手に浅く切目が入る。
「いっ。」
デウスはそこでやっと確信した。
手加減など最初から自分にないのだと。そして、今自分の敵側にいるのはPvP最強の少女だと。
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デウスの体は無数の切り傷に覆われていた。
「まだ手加減するのね。ならこっちはもっと本気を出すわ。」
少女が付ける傷口は更に増えるばかり。
「あの男何してんだ?」
「手加減だとか言ってるけど。」
「手加減?あんな怪物前にして何してんだよ。」
デウスはその場から距離を取った。
だが、傷口はまだ着く。
「そんなにお望みなら少し本気を出すよ。」
デウスの力に剣が反応し、火を纏い始める。
「行くぜ。」
デウスは目を瞑り、敵の居場所を確認する。
周囲をグルグル回っているようだ。
なら、
「こうする!」
デウスは円を描くように大剣を振る。
炎が伸びて少女の服を燃やす。
「熱い!」
少女はなんとか火を消す。
「凄いわね。でも次は当たらないわ。」
又もや姿が見えなくなる。
今度は円を描いても当たらない。
確実に命中させなければならない。
そこでフローレが声をかけてきた。
「主よ。我の力を使え。」
デウスはどうしたら使えるか分からなかったが神経を自らの奥深くに向けると小さなエネルギーを感じた。
『これか。』
それに手を伸ばすように神経を触れさせると、一気に頭の中に何かが入り込んできた。
「これが、フローレの力。」
心の奥深くから湧き出るエネルギーが体を揺らがす。
「その力を駆使してみろ。」
フローレの言う通りに駆使しようとする。だが、エネルギーがデウスのことを拒む。
『ただ単に使おうとしても無理か。』
デウスはまた目を瞑る。
「またあの技をするのね。でももう通用しないわ。」
デウスに話しかける少女だが、その声はデウスには届いていなかった。
『フローレの力。俺に力を貸して欲しい。俺に、勝利の一筋を!』
突如、フローレのエネルギーが爆破したように膨大化し、人の目に見えるほどになった。
『やっぱり主はアルサーに似てる。』
少し笑うフローレ。
その目の先では大剣を握るデウス。
「天に掲げるは我が咆哮。地に掲げるは我が命。引き叫べ!『阿刕禍愀琥』!」
大剣が切り裂いたのは少女の体だった。
大きな亀裂が入り、血をダラダラと出す。
「物凄い、力ね。」
少女は地面に倒れ込んだ。
「そこまで!勝者!デウス・ペンドラゴン!」
一気に歓声が上がる。
デウスは大剣を直し、少女を抱える。
「フローレ!俺はこの子を病院に運ぶからこの場なんとかしといて!」
「え!?」
「じゃ!」
デウスはその場から少女を抱えて退出した。
歓声は三分も鳴り止まなかったそうだ。
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少女を抱えたデウスは病院に向かった。
少女はすぐに入院した。
デウスは一応看病することにした。
少女が横になっているベッドの横に座るデウスは少女を見つめる。
「俺は本当にこれで良かったのか?」
デウスは少女を傷つけたことに対してかなりしょげている。
仕方ないとはいえ女性を傷つけたのは事実だ。
デウスは悪いと思っている。
「起きたら謝っておこう。」
そう心に刻むデウス。
傷口に巻かれている包帯はほとんど真っ赤だ。
『そろそろ変えるか。』
そうして少女の包帯を取り替えようとした時、少女が目を覚ました。
「ここは……」
「目が覚めたのか?」
少女はこちらを見る。
「ここは病院だ。」
「え!?なんで!?」
「いや、なんでって俺があんたのこと斬ったからに決まってんだろ。」
「そういうこと言ってんじゃないわ!なんであんたがここに居るのかって聞いてるの!」
「だって包帯の付け替えとかしなきゃだし。」
「え?包帯?」
少女は自分の体を見た。
少女の頬は赤く染まる。
「あ、あんた!私の、は、裸を、」
「あ、」
デウスは気づいていなかったらしく、頬を赤く染める。
「も、もういいわ。早く包帯変えて。」
「あ、あぁ。」
なんだか湿った空気になる。
デウスは包帯を付け替えた。
「これでいいだろ。」
「ねぇ。」
少女がデウスに話しかけてきた。
「なんだ?」
「あんた、名前は?」
「…俺の名前はデウス・ペンドラゴン。あのアルサー・ペンドラゴンの家系のものだ。」
「へー。あのアルサーの……て、えぇ!?」
「うるさいよ。」
「だ、だって!あのアルサーの!?」
「そうだけど少しボリュームを抑えて。」
「あぁ。ごめん。」
声のボリュームを小さくする少女。
「なら君は?」
「私の名前はデア・ルナティックよ。」
ルナティック。デルドラでもかなり有名な名前だ。剣技や能力に関しては随一の強さを誇る。
「ルナティックの家系か。」
「えぇ。でも、私は家が嫌いだわ。」
その言葉にデウスは疑問を問いかける。
「どういうこと?」
「私はルナティックという苗字なだけで良いふうにされていたわ。それに少しでも剣技などのミスがあったらすぐに説教だった。もううんざりだったの。だからPvPを始めたのよ。PvPでなら自分の力を証明できるって。でも今日は君に負けちゃったことで力の証明は出来なくなったけどね。」
デアは笑みを浮かべるが、その笑みには本当の気持ちが篭っていた。
デウスはその顔を知っている。初めてフローレと出会った夕方に窓に肘をかけて夕焼けを見ていたフローレの顔と一緒だった。
何処か悲しげで切ない。
「デアにはその顔は似合わないよ。」
「それってどういうことなの?」
「デアがしていた笑みは″笑み″とは言えない。そんな悲しげな顔をした不敗の少女なんて誰も望んでないよ。」
「不敗はやめて。私は今日あなたに負けたわ。もう不敗なんかじゃない。今はただの敗北者よ。」
「違うさ。」
「え?」
デウスは少し笑みを零した。
「君は単なる敗北者じゃない。一回負けただけがなんだ。一回負けたから力の証明が出来ない?そんことで怠れていたら力の証明をしようとしていた人じゃない。ただの一般人だ。」
「私はただの一般人よ。」
「そうかもしれないな。でも今まで君がやってきたことは一般人がしようとして成し得ることじゃない。だから簡単に諦めちゃ駄目だ。」
デアの包帯が血に染まっていくのを見てデウスは包帯を取り替えた。
「あなたに、私の何がわかるって言うの?」
諦めるのは簡単だと言われているような気がして剣幕が悪くなるデア
「そうだな。俺は何も知らない。お前のことはなんにも知らない。」
「だったら、」
「でもな!分かろうとすることは出来る。分かりたいと思うことはできる。」
その言葉を聞いてデアの顔が上がる。
「もう一人で包帯の付け替えは出来るな。」
「えぇ。」
「なら俺はもう行く。」
部屋を出ようとしたデウスをデアが止める。
「ちょっと待って!」
「なんだ?」
「私の全てを話すわ。」
「……良いのか?」
「いいのよ。私を知ろうとしてくれた人はあなたが初めてだわ。」
「…なら、聞くよ。」
デウスは再び椅子に座り、デアの話を聞くことにした。