第三話 オリジナル生産武器
✣ ✣ ✣
小鳥の鳴く声がデウスの部屋に響き渡る。
窓からは少し暖かい風が吹く。
その風に撫でられデウスは目を覚ます。
部屋にはデウスとイリビードしかいなかった。
『フローレは何処だ?』
デウスはベッドから体を起こし、周囲を見渡す。
だがフローレの気配は感じないし部屋にはいない。
デウスは木の板に足を乗せ、立ち上がる。
そのままドアへ行こうとした。
すると、イリビードが目覚めた。
「おはよう。主くん。フローレは?」
「さぁ?分からない。」
デウスはドアを開けて部屋を出た。
デウスが部屋を出た直後、玄関のドアの開く音が聞こえた。
デウスは玄関に駆け寄ると、フローレが何かを肩にかけて入ってきた。
「主起きたのか。」
「フローレ。その、肩にかけてるもの何?」
「これか?これはエルグボゴブリンだ。」
「なんでモンスター持って帰って来てんの?」
「我も家にいさせてもらってるんだ。何か御礼をするくらい当たり前だろ?」
デウスは少し表情を鈍らせる。
「そのゴブリン何に使うの?」
「食材だ。」
「…え?」
その言葉にデウスは反応に困った。
ゴブリンを食材と。デウスは初めてだ。
「それ食材?」
「あぁ。そうだ。エルグボゴブリンは高級食材の一種なんだよ。喰える部分が多い割に味が物凄くいい。それにそこら辺にうじゃうじゃいるし、大体の食べ物にはエルグボゴブリンが使われていると思うが。」
デウスはフローレから距離を取る。
「そんな警戒しなくても。嘘はついてないぞ?」
そこでイリビードが場に来た。
「フローレそれエルグボゴブリン?」
「あぁ。」
「それは今日の朝食?」
「そうだ。」
イリビードはふーんと言ってリビングに言った。
フローレはその後に続いた。
デウスも一応あとを着いていくことにした。
「フローレさん取ってきてくれた?」
「エルグボゴブリンだろ?取ってきたぞ。」
デウスの母親がフローレに依頼をしたらしい。
デウスは眉を寄せるが気にせずに椅子に腰を降ろすことにした。
「主くんはエルグボゴブリン食べたことはないの?」
「多分ないと思う。」
デウスはキッチンを見やった。
フローレも調理に参加している。
『フローレって料理出来るんだ。』
新たな情報が手に入った。
机には一枚の新聞が折りたたんで置かれていた。
そこで面白そうなものを見つけた。
内容は人間対人間、PvPに出てくる少女は不敗で物凄く強いらしい。不敗の少女という別名も持っているようだ。
『こんな人もいるんだな。』
歳は十七歳だそうだ。
デウスと同じ歳だ。
「料理出来たぞ。」
フローレが皿に乗った美しく魅せる食べ物がこちらに持ってこられた。
見た目は豚肉のような見た目だ。
香りもかなりのものだ。
デウスは高級食材と言われるエルグボゴブリンを食した。
そこでデウスは驚いた。
今まで食べた中で多分絶頂の絶品料理だ。
大抵の高級食材を扱う店は量が少ないが、今デウスの目の前にある高級食材は量もしっかりしている。
「沢山食えよ。エルグボゴブリンの肉は高級食材なだけでなく健康栄養食にも使われてる。プロテインも入っているから冒険者達からしたら貴重な一品だ。」
フローレが説明している間にデウスは高級食材を平らげた。
「ご馳走様でした。」
「お粗末さん。」
そう言ってフローレはデウスが使っていた皿とフォークをキッチンに持っていった。
「フローレは食べないの?」
「大丈夫だ。狩りする時に一体食してきたからな。」
何故か自慢げにそう言い張るフローレ。
普通に考えたらかなりグロい。
デウスも少し表情を濁らせる。
「なんだその異常者を見る目は。」
「そうだよその目だよ。」
「良いだろ別に。こんな見た目だが歴とした龍だぞ?我々の世界ではごく普通のこと。我々からすれば今こうして食べ物を調理して食している人間が意味不明なんだ。」
「そ、そうか。」
デウスは少し返事に困る。
「フローレ。主くんを困られちゃダメだよ。」
「別に困らせてるって訳じゃない。ありのままをさらけ出しただけだ。」
フローレのありのままは怖いから言葉には気をつけようと思うデウスであった。
デウスは時間を見た。
現時刻はA.M.7:29。
「そろそろ行かないと。」
そう言ってデウスは自分の部屋に戻った。
部屋で着替えを済まし、武器を手に取る。
武器を背にかけ、フローレとイリビードの元に戻った。
「それじゃあ行こうか。」
フローレが手をポケットに入れて言った。
「そうだね。」
デウスが準備をしている間に料理を食べ終わったイリビードが立ち上がる。
「行ってらっしゃい。」
デウスの母親が手を振って見送ってくれた。
デウスとフローレとイリビードは冒険者ギルドに向かった。
✣ ✣ ✣
冒険者ギルド前に着いたデウス達だがコクド達はまだ来ていないようだ。
デウスは武器を手に取り眺めた。
「そろそろ変えた方がいいか。でも金が」
その言葉にフローレが鼻を鳴らして受け答えする。
「どうした?」
「二人が寝た後ギルド登録して何個かクエストに行ってきてな。金がかなり貯まった。」
そう言ってフローレが異空間を作り出し、そこから小さな袋を出した。
だがおかしい。貯めたと言った割には袋が小さい。
「これの何処が貯まってるんだ?」
「中見りゃわかる。」
そう言ってフローレが袋の中を見せてきた。
そこでデウスは衝撃を受けた。
「き、金貨と銀貨がこんなに。」
どうやらフローレは袋に幻覚を掛けていたらしく、周りの人からは至って薬草などが入ってそうな小さな小袋にしか見えない。
だが、中を覗くと金貨と銀貨がたんまり。
「す、すげぇ。」
デウスが感心する。その後、イリビードが問いかけた。
「え?レベルは?」
冒険者カードにはLvという項目がある。
そこには元々の自分のLvが刻まれ、クエストをクリアすることやモンスターを討伐することによって経験値を得てLvが上がるという仕組みになっている。
「元々が534レベルで現在は552。」
「おいおい嘘だろ。」
デウスのLvは元々50あった。これは平均冒険者原レベルを少し上回るくらいだ。
Lvは最大なんてない。突き進めば突き進むほど高難易度なクエストを受注出来る。
それを元々530とは桁が違う。
流石は龍。
「ま、まぁいいや。」
「おーい!」
遠くの方から声が聞こえた。
そこそこ人が多い場所だがデウスに話しかける人と言ったらコクド達しかいない。
「やっと来たか。」
「お前今日は早いんだな。」
コクドの次にニルノ、デレーナと合流した。
「良し、我の金を貸すから装備揃えるぞ。」
「え?いいのか?」
「別に使い道ないし貯めようと思ったらすぐ溜まるし。」
『これが強者の余裕。』
デウスは少し憧れのようなものを抱いた。
そこにコクドが口を挟んだ。
「ほんとにそんな金持ってんのか?」
「袋の中身見てみるといいさ。」
コクドが袋の中身を見た瞬間に言葉を失った。
そのコクドを見てニルノとデレーナも袋の中身を見た。
やはり言葉を失った。
「おい、三人。行くぞ。」
フローレが先頭で歩く。
「我も一応武器を持とうと思って立ち寄った店がいい所でな。そこに行こう。」
冒険者ギルドから少し離れた道の外れにある細い路地。
そこを通ってすぐにある店の前に止まった。
「ここだ。」
店の名前は武器生産商売所。
なんてネーミングセンスのない店だと思うデウス。
その店をみてコクドが少し表情を鈍らせる。
「ここ?」
「ここ。」
「なんか薄気味悪いな。」
「見た目はな。ここの店長は色々武器をオリジナルで作ってくれるんだ。そこがいいと思ってな。」
オリジナルを作ってくれる店は珍しい。
大体の店は冒険者ギルドが配布するメーキングプリントを見て武器を作り、その武器のみを売っている。
「オリジナルか。いいね。」
デウスの言葉にフローレは笑みを浮かべてドアを開ける。
チャラチャラと鈴の音が響く。
「来たぞー。」
「おぉ。憤怒の兄ちゃん。来たのか。」
「だから兄ちゃんはやめろって。我もかなりの歳だ。」
「なぁに。見た目は若いし龍からすれば二十代みたいなもんなんだろ?一緒さ。」
店長が武器の整備をしながら会話する。
フローレの目を見て。
「お?今日は色欲の姉ちゃんまで来てんのか?」
「お久しぶり。何年ぶり?」
「そうだな。ざっと言うと千年以上前じゃなかったか?」
何故このおじさんがイリビードのことを知っていて何故イリビードがこのおじさんを知っているのか知らない。それに千年以上前に会っているとは意味がわからない。
「おじさん千年以上も生きてるの?」
「ワシはな自分の記憶を歴代に受け継ぐことが出来るんだ。だから今喋ってるのは千年以上前の記憶さ。」
なんだか意味がわからないデウス達。
だがニルノには分かった。
魔法に超高等魔法という部類が存在する。その中の一つに記憶移しという魔法があるらしい。話の内容からするとその魔法をこのおじさんが使えるということになる。
となると冒険者になれば即魔人として有名人になる。
「そんなことより、今日の用事はなんだ?」
「実はな。ここにいる我とイリビード以外全員の武器を作ってくれんか?」
「そうだなー。まずこの中の契約者は誰だ?」
デウスはすっと手を上げる。
「君か。その他は?」
他全員は手を挙げない。
「よし。わかった。なら付けたい属性を言ってくれ。」
デウスから発言した。
デウスは火属性。コクドは毒属性。ニルノは光属性。デレーナは水属性。
「次は形だ。どのような形状がいい?」
デウスは両手持ちの大剣で火属性とわかりやすいもの。コクドは両手で持つ槍で少し振り回しやすいもの。ニルノは武器を持てないが魔女用の武器があるらしい。そちらを渡される。デレーナは一回で五本ほど矢を撃てる弓。
「よし。なら最後に装飾品だ。」
デウスはフローレの紋章。コクドは持ち手に何かを掘る。何かは店長に決めてもらう。ニルノは可愛くして欲しいと。デレーナは何でも大丈夫と。
「最後に依頼だ。デウスくんは火属性のモンスターの素材を取ってきてくれ。出来るだけ強い敵の素材だ。コクドくんはヤンガラヘビの劇毒袋と毒歯牙を取ってきてくれ。ニルノくんはメメルルの小棉を取ってきてくれ。デレーナくんは皆の帰りを待っているといい。」
みんなバラバラに散らばった。
デウスは轟赫火山に出かけ、コクドは怨綉技に出かけ、ニルノは参岩礁に出かけて行った。
デレーナは先に弓を作ってもらうことにした。
デレーナの弓は鉱石のように輝き、物凄く頑丈だ。
「お代は憤怒の兄ちゃんが持ってんだろ?ここで待ってるといい。」
デレーナはおじさんと皆を待つことになった。
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デウスの行っている轟赫火山はとても暑い。
冒険者ギルドから配布される飲み物を飲めば暑さは無くなる。
「あちぃ。」
「我慢しろ。狩猟したらすぐに帰れる。」
イリビードは暑いところが大の苦手ということでニルノに着いている。
「そんなこと言っても何倒せばいいんだよ。」
「多分あいつの事だ。検討はついてるさ。」
そう言って龍の姿をするフローレに着いていくデウス。
少し歩いた先に巣があった。
かなり大きい。
「気をつけろよ主。やつは縄張りに入ってくる者を誰これ構わず子供の餌にする。」
デウスは青ざめた顔をする。
「ガァァァァァァ!!!」
「来たぞ。」
何かが地面に突撃し、煙が立つ。
「ごほごほ。なんだ!」
何かがデウスを凪飛ばした。
「大丈夫か主!」
「がはっ!」
デウスは地面を擦る。
フローレがその場から距離を取った。
「なんだよ、今のは。」
「やつの尻尾だろう。」
煙の中から姿を見せつけるのは赤と青をベースに気味の悪い双眸。いかにも敵を逃がさなさそうな牙。大きな角と羽。
龍だ。
「ギュウアァァァァ!」
その龍はこちらを向いて物凄い咆哮をする。
デウスは立ち上がり、武器を手に取る。
「来るぞ!」
フローレの叫びにデウスは冷静に構える。
両手で持つはずの大剣を右手のみで持ち、刀刃に左手を翳して腰を少し落とし、目を閉じる。
フローレはこの構えを知っている。
「グギアアアァァァァァァ!」
こちらに突進を仕掛ける。
距離が2メートルになった瞬間、デウスは目を見開いた。
「仅眼第一義斬撃。『殺等洋』!」
敵の死中を突き、動きを止めた。
一瞬で敵の目は白目になり、口を開けたままドタンと音を立てて倒れた。
「ふぅ。なんとか討伐出来た。」
「なら剥ぎ取るか。」
デウスは皮やら牙やら爪やらを剥ぎ取って帰った。
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コクドは毒と死骸の異臭が凄い怨綉技に来ていた。
「臭いな。」
鼻を抑えるコクド。
歩いて歩いて奥に突き進んでいく。
コクドの靴に何かが付着した。
コクドはその付着したものを確認する。付着物の正体は毒だった。
「シャアァァァァァァ」
蛇のような喉声を出す生き物。
コクドの目の前に姿を現した。
「見つけたぜ。ヤンガラヘビ。」
そう言って武器を構える。
ヘビは一直線にコクドの方へ向かう。
コクドは槍を振り回す。
何度かヘビに当たるが全く通用していない。
「あれ使うか。」
コクドはカバンからひとつの瓶を取る。
栓を外し、瓶の中にある液を槍の先端にかけた。
「行くぜ!」
コクドは刃が着いていない方を地面に叩きつけ、飛び上がる。
そのまま槍を突き刺すように持ち、ヘビ目掛けて飛んだ。
「はあぁぁぁぁ!」
グサリと一刺ししたコクドはさらに槍を差し込んだ。
「シュアァァァァァァ!」
鈍い荒ぎ声を上げてヘビが痺れた。
先程コクドがつけた液は痺れ塗りといって刃に付けて敵を刺したり斬ったりすると敵が痺れるというものだ。
そのままコクドはヘビの首を跳ね飛ばした。
痺れが解けた頃にはヘビの首はなく、緑色の血を出していた。
べちゃりと倒れたヘビ。
「早く帰ろう。まじでくせぇ。」
コクドはヘビの牙と袋を回収して帰った。
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ニルノはイリビードと一緒に参岩礁に来ていた。
かなり綺麗な場所だ。
「イリビードさんは好きな人っているんですか?」
「どうしたの?突然。」
「いえ、気になって。」
「そうね。やっぱりフローレかしら。フローレはいつも私を守ってくれたわ。ある意味守護者的存在。」
「そうなんですね。」
「逆にニルノちゃんの好きな人はいるの?」
「わ、私?私は、」
「もしかしてデウスくん?」
「違います。コクドさんが好きです。」
「あの子ね。」
そんな話をしていたら目の前にモンスターが現れた。
「キューゥ。」
小さく愛らしい見た目をしたモンスターだ。
「可愛い。」
ニルノがモンスターに触れようとした時、イリビードが止めた。
「駄目よ。触っちゃ。こいつはメメルル。見た目はとっても愛らしいけど触れると痺れに襲われて最終的には痺れのあまり心臓と脳の機能が失われて死んでしまうわ。」
「え…」
ニルノはゆっくり距離を取った。
「だから、こうするのよ。」
そう言ってイリビードが親指と人差し指で輪を作り、息を吹きかける。
何か粉のようなものが飛び、メメルルに付着した。
突如、メメルルが痺れ、地面に倒れ込んだ。
「イリビードさん。今のは?」
「電上石を粉状にしたものよ。電気を跳ね返す性質があるの。だからメメルルは自分の電気にやられたの。」
「もう触っても大丈夫ですか?」
「もう大丈夫よ。早く綿を取って帰りましょ。」
ニルノは綿を取って帰った。
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「みんな揃ったな。まずはデウスの武器から作ってやる。」
そうして皆の武器が作られた。
見た目も性能も抜群だ。
「お代は金貨四枚ね。」
「はい。」
フローレが金貨四枚を支払った。
「それじゃ、頑張ってきな。」
そうして店から追い出されるように出てきたデウス達は冒険者ギルドに向かった。
道中色々なことを話しながら歩いていた。
すると、横に物凄いオーラを放つ女性が通った。
そこで女性が声をかけてきた。
「ねぇ。そこの人。」
「我か?」
フローレが返事をする。
「貴方もそうだけどその隣の少年よ。」
「俺か。」
デウスの事だった。
「貴方凄い魔力量とオーラね。私と一戦交えてみない?」
「え?」
デウスは少女から果たし状を言い放たれた。