第一話 契約者
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ここはガガドラ。平民や冒険者が集う世界。怪物もうじゃうじゃといる。
この世にはジョブというものが存在する。一つ目が剣士。剣以外にも棍棒などで敵と戦う戦士だ。二つ目が魔法使い。主に魔法を駆使する戦士。武器の扱いはとことん苦手であるが、魔法使いの必需品である杖の扱いは中々のものだ。三つ目が弓使い。弓を使う遠距離型。剣などの近接武器、杖は使用出来ない。四つ目が魔女。杖さえ使えない魔法使い。空手で魔法を扱い敵と戦う。五つ目が槍使い。剣士が使用出来ない武器の中の一つの槍だが、槍を扱うことに特化したものを槍使いと呼ぶ。六つ目が格闘。手に鉄で出来た武器などを握り締め、殴ったり蹴ったりする超近接攻撃タイプ。七つ目が生物使い。生き物を手なずけて共に戦う。生物使いとは言っても武器は当然持たなければならない。大抵は魔法使い特化だが、希に近接攻撃を好む者も現れる。
ここまでが一般的なジョブだ。だが、この世にはユニークジョブというものが存在する。
一つ目が魔導剣士。魔法と剣を駆使する近遠距離型。このジョブになれるものはほんのひと握りである。二つ目が指示者。このジョブを手にするものは戦いには参加せず、チームを組んでリーダーとして仕切るもの。三つ目が魔人。魔法を極限まで極めた者がはれる最高位魔法使い。魔法を極限まで高める為には二十年の修行と様々な魔法を手に入れなければならない。そして最後に紹介するジョブは契約者。このジョブを手にしているものはまだ存在しない。今から五千年ほど前に書かれたとされる書に記されていたジョブだ。
【あらゆるジョブの頂点に君臨するジョブ。その名は契約者。伝説の龍と契約を交わす者が契約者だ。伝説の龍は七頭。奴等は言葉を発することが出来る。一同は声を揃えて言うのだ。″我々は七つの罪龍である″。ただそう言うだけ。その七頭は七人の契約者と契約した。その契約者達の名前が″カガラ・ドール、メグルィ・バララクタ、ケードル・モド・ゴードルン、アジカ・ルクラ・ナルタール、ライット・コゴール、セイタク・ケンソ、アルサー・ペンドラゴン″。この七名である。】
契約者のことは長々と書かれていた。この部分は説明文の一部である。何故一部だけなのか、それは解読者がここまでしか解読出来なかったからだ。
先程にも言った通り、このジョブを手にしているものは未だ存在しない。だが、このジョブを手にしようとするものがいる。
その者の名は
″デウス・ペンドラゴン″
という少年である。
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「やっべ!遅れちまう!」
彼の名前はデウス・ペンドラゴン。
初心者冒険者である。何故こんなに焦っているのか、それはギルドメンバーとの待ち合わせ時間に遅れてしまうからだ。
現時刻A.M.7:54。待ち合わせ時間はA.M.7:55。
彼の家から待ち合わせ場所まであと八百メートル程ある。
残り一分もない状況。等に間に合うはずもなく、一分遅れてしまった。
「すまん!遅れた!」
「一分遅刻だな。」
そう言ってくるのはコクド・クルルガ。デウスの親友だ。ジョブは槍使い。
「一分くらい別にいいと思うんだけど。」
少し引き気味で言う少女はニルノ・モードレット。ジョブは魔女。
「いや、時間は有限よ。」
大人ぽく言うのはデレーナ・ヒールイ。ニルノの親友。ジョブは弓使い。
遅れてきたデウスのジョブは剣士。
近中遠距離というバランスの良いギルドだ。ギルド名はソルオアルナ。
「よし、それじゃあクエスト行くか。」
デウス達はクエストに出かけた。
依頼は単純なものだ。洞窟にあるマカクリスタルを規定数集めて冒険者ギルドに提示するという依頼だ。
デウス達はマカクリスタルが手に入りやすい洞窟を選んで探索に入った。
分かれ道もちょくちょくあったがデウス達は気にせずに真っ直ぐ突き進んだ。
随分と奥に入り込んだデウス達。
そこでコクドが妙なことに気づく。
「洞窟なのにモンスターが全然居ない。」
デウスも薄くは感じていたらしいがあまり気にしていない。
ニルノがそこで微量な魔力を感じた。
「この奥に魔力を感じる。」
だが、ただの魔物じゃないらしく、かなり警戒している。
「この魔力は並の魔物の魔力じゃない。今まで感じたことのない魔力。」
魔法使いは敵の魔力を探知することが出来る。今回は並大抵の魔力じゃないらしい。
デウスが先頭に立ち、その後ろにニルノ、デレーナ、コクドという順番でどんどん進んでいく。
道中何個かマカクリスタルがあったが規定数には到底及ばない。
突如、デウスに異変が起きた。
「うわ!」
「どうした!」
コクドが心配して問いかけた。
デウスは物凄いスピードで姿を消した。消したと言うより、滑り落ちたが正解だ。
デウスはただただ足を滑らしただけだった。
コクドは笑おうとした。だが、床を見て笑うのをやめた。
「冷気を感じる。」
奥から吹いてくる風は冷たく、冬のようだった。床は氷で覆われている。当然滑る。
「コクド、さん。これ、ヤバい。」
ニルノが少し震えた声でコクドに話しかける。
「どうした?」
「この魔力……物凄く邪悪な感じがする。」
魔力が邪悪。この時点である可能性がコクドの頭に浮かんだ。
「まさか、龍族。」
コクドの父親が言っていた。
魔力に邪悪なオーラを感じたらそれは龍族の可能性が高い。そんな時は全速力で逃げるんだ。
だが、コクドはそんな父親の言葉を無視するように先に進んだ。
デウスを助けるために。
一方デウスの方だが、少し楽しんでいる様子だ。
「ふぃー!」
だが楽しみも束の間。デウスは勢いよく尻を床に叩きつけた。
「イッテ!」
デウスは痛みのあまり立ち上がることが出来ない。
何とか立ち上がるデウス。尻を抑えケツバットされたような感じで尻を引く。
「くそ。なんて災難だ。」
デウスは尻から手を退け、歩く。
そこでデウスは何かにぶつかった。
「うお!なんだ?」
デウスはぶつかったものに跳ね返される。何とか体勢を保ったデウスはぶつかったものを見る。
かなりの大きさの為何かわからない。
最初は岩だと思ったが即座に触り心地が違う為別のものだと悟った。
『ならなんだ?』
すると、黒い巨大な者が動いた。
「え?」
デウスは即座に距離を取る。
「誰だ。我の眠りを妨げたのは。」
低く何処と無くデウスの父親に似ている。
「お、お前こそ誰だ!」
「ん?」
大きな物体はデウスを睨みつけた。
大きな眼玉は綺麗な淡い黄色をしている。瞳孔の部分は猫のように細く、赤い。
「我か?我は七つの罪龍だ。」
そう言って声を荒らげた。
暗がりの中は罪龍の咆哮によって鉱石が反応し、明かりを帯びた。
デウスの目に入った罪龍とやらはとても大きく、赤黒い鱗に覆われていた。
デウスは口をポカリと開けて愕然としていた。
「なら我が問おう。お前は誰だ。」
デウスは我を取り戻し、慌てて回答する。
「ぼ、僕の名前はデウス・ペンドラゴンと申します。」
かなりの衝撃に敬語になるデウス。
罪龍は眼をさらに睨みつけるようにする。
「ペンドラゴン?」
「は、はい。」
お気に召さなかったと思ったのかデウスはさらに引き気味になった。
すると罪龍は笑いだした。
「奴の一族か!」
デウスには″奴″というのが誰だかわからなかった。
「すいません。奴とは誰のことですか?」
「知らないのか?奴の名はアルサー・ペンドラゴン。我の主だったものだ。」
デウスはその名前に聞き覚えがあった。とても。
アルサー・ペンドラゴンはデウスの先祖なのだ。
「アルサー爺のこと知ってるのか!?」
「知ってるとも。我の主だと言っただろ。」
デウスはアルサーの名前が出ただけで嬉しそうに笑う。
「お前はアルサーに似てるな。」
「え?」
デウスはその言葉に疑問を抱く。
「似てるって?」
「そのままの意味だ。もしかしたらお前はアルサーの生まれ変わりなのかもな。」
罪龍はそう言って笑う。
デウスが言葉を発そうと口を開けると、罪龍が白く尖った爪をデウスに向けてきた。
「我の爪を触れ。」
デウスは言われたまま罪龍の爪を触った。
すると、突然光が現れて視界が白くなった。
光が無くなっていく。罪龍の姿は未だ健在だが、あることに気づいたデウス。それは罪龍の爪を触れた右手の甲に紋章が刻まれた。
「これで契約成立だ。」
そう言って罪龍は自己紹介を始めた。
「我の名前はフローレ。憤怒の罪だ。これからよろしくな。我の主、デウスよ。」
デウスは状況整理が間に合わない。
「契約成立?どういう」
「デウスは契約者になったんだよ。人間界で言う所のジョブってやつが契約者になったってことだ。」
デウスは念願の契約者になれて嬉しくなり、飛び跳ねて喜んだ。
「いよっしゃー!」
そこにコクド達が降りてきた。
「おいどうしたデウス。そんなに喜ん、で、」
コクドはフローレを見て言葉を失う。
「コクド。紹介するよ。憤怒の罪龍のフローレ。」
ニルノが問いかけてきた。
「罪龍って、契約を交わせる龍族のこと?」
「そう。その龍と俺契約したんだ!」
デウスはまた嬉しそうに笑った。
契約者が目の前にいるという実感が湧かないコクド達だったが、フローレの言葉によって実感が湧いた。
「デウスの手の甲を見てみろ。紋章が入っているだろう。これが我らと契約したという証だ。」
コクドはデウスのことを凄いと尊敬した。他二人も尊敬の意を表した。
ここでコクドが思い出したように言い放った。
「マカクリスタル規定数集まってないけどどうする?」
他の皆もあ!と思い出したように口を揃えて言った。
「それなら我に任せろ。」
フローレが後ろを向き、何かを抱えてこちらを向いた。
フローレの腕の中には大量の輝く鉱石があった。それの大半がマカクリスタルだった。
「それどうしたの?」
「食料用に貯めておいた鉱石だ。」
ドスンと音を立てて地面に落ちた鉱石。
フローレが持っていたマカクリスタルの数は一目見ただけで分かる。規定数を遥かに上回っていると。
コクドは規定数ぴったり回収し、その他は全てその場に取り残された。
「ここから出るなら我が手伝おう。主に着くのが我の仕事だからな。」
そう言ってデウス達を背中に乗せるフローレ。
「それじゃあ行くぞ。しっかり捕まっとけよ。」
フローレは口から光線を出し、天井を貫く。フローレは翼を広げ、貫かれた天井に飛び立ち、ドンドン上へ登っていく。
デウス達は目を瞑り、フローレにがっしり捕まっていた。
デウス達が目を開けると、そこは蒼空が澄む外だった。
「風が心地いい。」
ニルノがそう言って髪をなびかせる。
外に出たが、街が見つからない。
降りると共に街から離れていたようだ。
「コクド。場所わかるか?」
コクドはコンパスを出し、方位を確認する。
「このまま真っ直ぐ進めばデルドラに着く。」
デルドラはデウス達がいた街の名前だ。
フローレは無言で真っ直ぐ進み始めた。
飛行は歩行よりもずっと移動速度が早い。そのため直ぐにデルドラが見えた。
デルドラの門の前に降り立ったデウス達はデルドラに入ろうとした。
そこで門番に止められてしまった。
「貴様ら!後ろの龍はなんだ!」
何故龍を見てそこまで冷静さを保てているのか分からないが門番に問い詰められた。
デウスは右手の甲を見せて
「契約者だ。」
そういう。
だが門番は紋章を見ても
「契約者は未だ誰一人として存在していない!」
そう言って拒む。
デウス達は困った表情をする。
信じてもらえないとなると街の長に直接言うしかないが、多分これだと長も呼んでくれなさそうだ。
そうなった時、フローレが門に歩みよった。
「そこの龍!止まれ!」
「我は本物の罪龍だ。」
フローレに門番は驚愕する。
そりゃそうだ。喋る龍なんて神話ぐらいでしか見たことがないだろう。
「君。とうしてあげなさい。」
門の方から一人の女性が歩いてきた。
「ヒルナ様!」
街の長であるヒルナが自ら出迎えてきたのだ。
「しかしヒルナ様。子奴らは」
「この少年は契約者よ。」
門番は通ってもいいと許可を出す。
だが、入る前にまた止められた。
「少し待って。そこの罪龍さん。どうにか小さくなれない?」
「そうだな。」
そう言ってフローレは魔法陣を展開し、小さくなった。
人の形に変化した。
「これならいいだろう。」
「えぇ。では通っていいわ。」
そこでやっとデウス達はデルドラに入ることが出来た。
入ってからも長に呼ばれた。
「あなたの名前は?」
「フローレだ。」
「デウスです。」
長は少し謎の間を置いて
「デウスくんとフローレさんね。じゃあデウスくんの冒険者カードを見せて。」
冒険者カードとは、冒険者のみに許されたカードだ。自らのステータスやスキルを強化できたり新たに解除したりできる。
長はデウスの冒険者カードに記載されていたジョブを剣士から契約者に変えた。
「これであなたは正式な契約者よ。」
デウス達はその場から立ち去り、依頼の報酬をもらいに行った。
その道中でもフローレからアルサーのことを聞いたデウス。アルサーが英雄ということも知った。
冒険者ギルドに着いたデウス達は報酬を貰うために中に入る。
色んな人がいて、酒を楽しむものもいれば話し合いを楽しんでいる者もいる。
デウス達は改札に向かった。
「すいません。」
「はい。依頼を受けに来ましたか?依頼をこなしてきましたか?」
コクドは慣れたように依頼をこなしてきたと回答する。
マカクリスタルを提示し、報酬をもらった。
この世界のお金は金貨、銀貨、銅貨で分けられている。
今回の報酬で手に入れたのは一人銀貨五枚だった。
銀貨五枚あれば弱い装備なら一通り揃えることが出来る。
今のところデウス以外は弱攻撃力の武器だ。デウスだけ中攻撃力の武器を背負っている。
大剣をモデルとした鉄加工武器だ。
一般的な武器だが攻撃力は中々のものだ。
並大抵の敵なら簡単に倒せるだろう。
例えばスライムやグリーンゴブリン。グリーンゴブリンはゴブリンの中でも一番弱いタイプだ。
「そうだ。フローレは何処で寝るんだ?」
「何処って、主の近くで寝るが。」
ということはデウスと同じベッドで寝るということだ。
「いやいやいやいや、近くじゃなくていいのに。」
「主に何かあったら困るからな。」
そう言ってほとんど強制で家に招くことになった。
父親も母親もフローレのことを大いに歓迎した。
流石は最高位龍族だ。
デウスは部屋に戻る。
デウスは疲れてベッドに飛び込んだ。一日に色々とあり過ぎたのだ。
「疲れたのか?」
「うん。まぁ。」
デウスは回答する気力も無くなってきた。
「俺は先に寝るからフローレは勝手に、寝とい、て。」
デウスは静かに眠りについた。
フローレは窓にもたれ掛かる。
「見てるかアルサー。お前の子孫が我と契約したぞ。お前がいなくなってから寂しかったがこれで寂しくなくなったよ。」
先程までの態度とは変わってとても悲しい笑みを浮かべて紅に染まる空を見上げていた。