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魔獣に育てられた俺と龍に育てられたアイツ  作者: タチウオ
七年後、テルキア王国、冒険者の町
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七年後、再会


 「ハッハッハ!! 今日のは大物だったな!!」

 「明日のオオナメクジ狩り、前衛をもう何人か、誰か行く奴いねぇか!!?」

 「だからな、レングストンとフーリルはデキてんだよ」

 「承りました、ご武運を」



 ある春の日の夕刻、街の中に喧噪を響かせる建物があった。屈強な男女が絶えず出入りし、酒の匂いと心底楽し気な空気は尽きることが無い。そこは、明日をも知れぬ日々を生きる冒険者共の巣窟、ギルドであった。


 そんな猥雑な空間の中で、黒髪紅目で背の高い青年が一人、肉に齧り付いていた。最低限の布のみを見に纏った男の肌にはいくつもの古傷が存在し、腰には鋭い獣の爪を加工したと思われる短剣が二振り刺さっていた。


 「おい、ガルム!!」


 野卑な野太い声に肉を齧る男は耳聡く反応し、盃を掲げる巨漢の集団の元に肉を咥えたまま近づいた。 

 「ふぁんふぁよ」


 「肉放せよ。……こないだ狩った獣の素材の換金が終わったからな、山分けだ。勿論いらねぇなら別に構わねぇが」


 「ふぁふぉふふぁせ………阿保抜かせ」


 「だよな、ほれ」


 リーダー格と思しき巨漢に放り投げられた革袋を男は指一本で器用に引っ掛け、腰にぶら下げた。


 「今日明日は外に出る予定はない。したがって俺たちゃこれから朝まで呑みだが、どうする?」


 「勿論参加だ、何故か丁度金もあるしな」


 「そうこなくちゃな!!」


 男の返事に巨漢がその凶相をニヤリと歪め、程なくしてギルドを巻き込んだ酒盛りが始まった。




 酒―――かつての俺はその存在すらロクに知らなかったものだが―――を浴びるようにかっくらいながら、俺は享楽に身を委ねた。口角は一つも上がらないのだが、楽しいものは楽しい。


 「ほれ、ガルム」


 「あんがとさん」


 腰に剣を差した赤ら顔の男に差し出された酒をグビリグビリと一息に飲み干す。すると周りから雨の様に喝采が鳴り響いた。


 「いよっ、良い飲みっぷりだぁ!!」

 「さすがに若者は違うねぇ!!」

 「とても野生児とは思えないぜ!!」


 野生児は関係あるのだろうか。


 夜も深まり、宴の勢いは止まる所を知らない。このままいけば、間違いなく明日の朝までこのどんちゃん騒ぎは続くだろう。夜勤の受付嬢が少し困ったような顔をした。最終的にこの呑兵衛どもの世話をするのは彼女なのだから。



 しかし、唐突にバンッと音を鳴らしながら戸が開け放たれた。そして、酒に酔った野郎共は皆一斉に声を失った、無論、俺も。


 来訪者は女だった。蝋燭の明かりで長い銀髪を煌めかせ、碧眼は水晶の様に透き通っているようだった。そしてその顔は、というより天辺からつま先まで、一挙手一投足、腰に差した一振りの剣までも、あらゆる全てがどうしようもなく美しかった。


 女は酔いどれ冒険者たちに目もくれず、まっすぐに受付嬢の元へ向かった。その間も誰一人として声を上げなかった。何人かは酒で夢を見たのではないかとでも思っているかもしれない。少なくとも俺はそう思いたかった。その思いとは裏腹に、急速に背筋が冷え、心地の良い酔いが抜けていくのを感じた。


 「人を探しているのですが」


 「………えっ、あっは、はい!!?」


 酔っていない受付嬢も意識を奪われていたと見え、女の言葉に素っ頓狂な声で返した。


 「ここがギルドでしょう? 小僧、を探しています。ここに居るはずです」


 「……え、えっと、小僧、ですか? それは名前………じゃないですよね?」


 「さあ? 私が聞いた時はそう名のりましたが、名前じゃないかもしれませんね」


 俺に酒を差し出した男―――俺を森から連れ出した男がこちらを向いた。その目は疑惑に彩られていた。


 「えっと………ほ、他に何か特徴はありませんか?」


 「そうですね、もし生きていれば私と同じくらいの歳で……ああ、近くの森で育ったはずです」


 話し合う女二人を除いたギルド内の全員がこっちを向いた。かなり異様な光景である。


 「でしたら……恐らくガルムさんではないでしょうか、あちらにおられますが」


 受付嬢が俺の方に手を向け、女がこちらを振り向いた。宝石のような目と視線が衝突する。暫く固まっていた俺達だが、女がカツ、カツとこちらに歩を進めてきた。処刑直前の死刑囚のような気分になった。


 女が剣の間合いで足を止めた。その目は俺を隅々まで観察しているようだったが、一瞬だけ腰の短剣で目を止めたのを見逃さなかった。しかし、彼女は俺と目を合わせ、問いかけた。


 「私が分かりますか?」


 「さぁ、分からないな」


 惚けた。女は身じろぎ一つしなかった。



 唐突に俺は転ばされた。酒や食事が飛び散り、観客から少しどよめきの声が上がった。尻餅をつく俺を見下しながら、鞘付きの剣を片手に持った女は眉一つ動かさずにまた口を開いた。


 「私が分かりますか?」


 「だから、分からねぇって。誰だよアンタ」


 嘘だ、一目見た瞬間に気付いていた。しかし、それを認めることは間違いなく面倒ごとに繋がるとも確信していた。


 俺の返事に対し、女は黙って腰の革袋から木の皮を取り出して俺の眼前に突き付けた。手紙のようだが、その差出人を見たとたんに胃を掴まれた様な錯覚をした。


 (小僧へ、グルシェンガルムより)


 見事な達筆でそう書かれていた。ただの文字なのに、何故か目を離せない、殺気すら感じる。


 「私が代筆しました……彼の血で」


 あっけなくその理由が判明した。それは恐ろしい筈である。見れば、周りの人間も顔を青くしている者がちらほらいる。


 「私が分かりますか?」


 三度目、グルの手紙(?)まである以上これ以上しらばっくれては恐らく命が危ないだろう。俺は渋々認めた。


 「………………ミロ、さん」


 「はい、そうです。分かってるじゃないですか」


 手間を取らせるな、そう言いたそうに見えた。表情と呼べるものは殆ど無いのだが。


 「…………場所を変えよう、受付さん、部屋を貸してくれ!!」


 「………は、はいっ!」


 だいぶ狼藉を働いたミロさんに気圧されたか、受付さんは震える手で鍵を取り出し、早く連れて行けとこちらに目で合図した。俺は速やかに立ち上がると、呆然とする酔客どもを無視してミロさんと共にギルドの奥に足を進めた。



 椅子が一つしかないのもあり、お互いに立ったままで対談が始まった。


 「……さて、まずは手紙を見せてくれ」


 無言で彼女は木の皮を差し出してきた。やはり、何度見てもグルシェンガルムより、と書いてある。


 内容はいたって簡潔だった。ミロさんの頼みを聞け、逆らったら殺す。以上である。


 「……俺に何をさせたいんだよ、いや、そもそも何であんたがここに居るんだよ」


 多少汚くなった俺の言葉を気にも掛けず、彼女は話し始めた。


 「私がアルドバラムの元で修業を積んでいるのはご存知だと思いますが、この度新しいお題を言い渡されまして。人間の町で暫く生活して、あの山奥で生きていくか、人間の世界で生きていくかを決めろと言われたんです。邪魔になったんですかね?」


 「……はぁ、選択肢があるだけマシじゃないか?」


 追い出された俺が皮肉を込めて混ぜっ返したのを気にも掛けずに彼女は続けた。


 「まぁ、答えは決まってるのでそれはどうでもいいんですが。しかし、人間の町にもルール、常識があります。知識としては知っていますが、やはりどんなボロが出るかが分からない」


 ここで、俺に何をさせたいのかを理解した。しかし、俺は口を開かずに先を促した。



 「ということで、先に住んでる知り合いを頼れという話になりまして。私が人間の町で生活するのを手伝ってもらいに来ました」



 「………あの怪物共、初めからそのつもりだったんじゃなかろうな」


 「そうだと思いますよ、詳しい話は聞いてないので推測ですけど……それもどうでもいいですよね」


 まぁ、育ててくれたことには感謝しかないが。


 「私はあなたより強いし、手紙もあります。頼み、聞いてくれますよね?」


 残念ながらその通りだ。俺に拒否権は無い。グルなら、殺すと言えばたとえ街の中に居ても本当に殺されるだろう。俺は深くため息を吐いた。


 「そういうの、脅迫って言うんだぜ」


 「なるほど、これが脅迫ですか。言葉としては知っていましたが、やったのは初めてです」


 「そうかよ、人間の町でそれやったら犯罪だから注意しろよ」


 「心に留めておきます」


 素直なのか性悪なのか、どちらにしたってロクでもない。



 「分かった、あんたの生活の世話をすればいいんだな?」


 「世話、というか、私の過ごし方におかしい所があれば注意してくれればいいです」


 「そうか、どっちにしても、俺は冒険者のレベルしか知らないが、それでも良いんだな?」


 「ええ、構いません」


 ミロさんはコクリと頷き、話が一段落したせいか俺は力が抜けたように備え付けの椅子に座り込んだ。




 「………ところで、俺に報酬は無いのか?」


 「可能なら私が戦闘に参加してあげます」


 「そいつぁいいや」


 明らかに過剰な戦力である。俺のパーティなら近場の獣は大体狩れるのに。


 再び、腹の底からため息が漏れた。

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