九十八話
今日で投稿が四回目です。
これは今日中に投稿を終えそうにない?
気力を絞って叫んだ少年は、立つ気力を失って前に倒れた。
しかし、それにいち早く気づいた、入口の近くにいたの三十代ぐらいの男の冒険者が、急いで倒れそうになった少年に近づいて床に倒れる前に受け止めた。
倒れそうになった少年を抱きしめ、仰向けにする。
「回復できる魔法使いを呼べ! ギルドの職員はこいつの受けていた依頼を見つけろ!」
少年の冒険者が倒れた所で、静寂に包まれていた冒険者ギルドが一瞬にして騒音が溢れかえった。
冒険者ギルドにいた冒険者達は回復道具を取りに行く者、回復魔法が使えるため怪我をしている少年に近付くもの、担架や水、布を取りに行く者がいた。
少年の冒険者は受け止めてくれた冒険者の左腕の袖を、動く左腕で強く握りしめた。
「助けてください。助けてください」
少年は目から涙をこぼし、声を震わせながら懇願する。
冒険者の服を握っていた左手を、より強く握りしめた。
「どうした! 何があった!!」
力が徐々に弱くなっているのを感じ、受け止めた冒険者は声を荒げた。
その周りには他の冒険者も集まり、人だかりが出来上がっている。
その中にはアルフィーやジブもいた。
ジブはただ見る事しかできなかったが、アルフィーは違った。
アルフィーは傷ついた冒険者の傍まで寄って腰を下し、回復魔法を使って傷を癒した。
回復魔法で傷が癒えたおかげか、怪我がなくなったことで少年は落ち着いた。
「大丈夫か? 何があったか話せるか?」
「はい」
少年はゆっくりとだが、頷いて話し始めた。
「今日のお昼のことでした。僕たちは紅蓮の剣、というパーティーでした。ランクはEで王都に移動する商隊の護衛の依頼でした。それで移動中のことです。魔物が襲ってきました。しかし、それはよくあることなんですが、今回だけは違いました。魔物どもが軍を率いていたんです」
少年の言葉を聞き、冒険者達は戦慄が走った。
魔物は普通なら群れを形成することはあれど、軍を率いることはない。
それは、多種の魔物を率いることができる者がいる、ということになる。
「軍といったな。本当か?」
「はい。色んな魔物が襲って来るのを見ました。それで、パーティーの仲間達は僕を逃がしてくれました。だから……」
少年を涙を流して声を震わせて言う。
きっと、仲間を助けてほしいのだろう。
しかし、彼の話を聞く限り、その出来事が起きたのは昼で今は夜に夕方だ。
誰も彼には何も言うことが出来ず、俯かせるだけであった。
そのあと、少年の冒険者は担架を持って来た冒険者達に運ばれ、治療院に連れて行った。
「これが、ムトウがいない間に起きた出来事だ」
武刀はアルフィーの静かに聞き、情報を整理していた。
「千、という数は?」
アルフィーの話を聞く限り、魔物の数は出てこなかった。
「遠出していた冒険者立ちから話しを聞いて、その内容を統合した数だ。ただ、それも変わるかもしれない。今は夜で偵察はできないから、他の冒険者ギルドに連絡と情報の共有している」
ふう、と武刀は肺に溜まっていた空気を吐いて手を後ろに、足を前に伸ばして緊張を解く。
「まだ情報が全然ないから、こちらも何をするか決めかねないな。ただ」
武刀は身体を反らし、天井を見る。
「偵察と必要な道具を買い漁る必要があるな。俺は今日新しく買った武具を魔術回路を作らないといけないが、アルフィーはどうする?」
「私は精霊を使っての情報収集、といった所だな。身体を休めておかないと。それに、千という数の魔物だ。魔力を温存しておかないと戦えない。現在の一番の戦闘能力を持つジブはどうだ?」
「彼女は……」
今のジブの状況を、アルフィーに説明する。
「身体の魔術が使えないのか。大丈夫なのか?」
「ああ、いずれ直る。ただ、こんな時に、というのが問題だ。戦力としては数えられんが、普通の人間より強いからやってくるはずだ」
「それはいいすぎじゃないか?」
武刀の、戦力としては数えられん、という言葉が気になって、アルフィーは噛みついた。
「そうか? 強化魔術が使えないと魔術師としてはかなりキツイぞ」
アルフィーの思いを知らず、武刀はとぼけたような顔で答えた。
その表情と言葉を聞き、アルフィーもやっと理解した。
「ムトウがいた世界の常識をこっちの世界で使わないでくれ」
「それなら、こっちだって強化魔法がないとキツイだろ?」
「それはそうだが……」
言い返すことが出来ず、アルフィーは口をすぼめて言った時に気が付いた。
何時の間にか話がずれていると。
「話を戻すぞ! 明日は各自自分で出来る事、でいいか?」
「ああ、大丈夫だ。それなら、俺はもう寝るよ。明日は色々したいし」
武刀はそう言うと、アルフィーに右手を伸ばした。
それはまるで、お菓子をねだる子供のようだった。
「な、なんだ?」
アルフィーは武刀の行動が分からず、尋ねた。
「ストリアをプリーズ」
「ああ! そういうことか」
アルフィーが理解した時、身体から何かがすり抜ける感覚がした。
気づいた時には、袖からストリアから抜け出て武刀の横にいた。
「ストリア。ベッド、あと抱き枕」
武刀が単語だけを言うと、ストリアはそれだけで動き始めた。
身体をベッドの形状にし、さらにその身体の一部を人の身体にする。
いつもなら少女の姿だが、今回はベッドの分があるため小さくなり、少女を幼くした幼女の姿をしていた。
「ふいー」
武刀はベッドにダイビングし、幼女となったストリアを抱きしめて左右に転がった。
「うわ。本性を見せた」
変態が喜ぶ姿を見て、アルフィーは右の頬を引きつらせて本気でひいた。
「そうだ」
転がっていた武刀は突然止まり、アルフィーを見た。
「階段を登っている時にはジブを心配したのは、お説教したのが理由でしょ。本当は、少し言い過ぎた、なんて思ってるのかな?」
ひいたお返しにと、武刀は顔をニヤつかせながらアルフィーをおちょくった。
顔を下げて聞いたアルフィーは、右手を上げた。
その手には、魔法が発動しようとしているのを感じた。
それに気が付いた武刀は慌てた。
「ストップストップ。冗談だから」
武刀が寝ているベッドとなっているストリアが、自分にも魔法が当たるのではと震えていたのはアルフィーには言えない内緒の話だ。
武刀の言葉を聞き、アルフィーはため息を吐いて部屋から出て行った。
アルフィーが出たことが分かり、武刀は目を瞑り眠った。
なにせ、朝が早いのは本当のことだ。
やることが多すぎるのだ。




