九十五話
月曜日に木曜投稿します、と言ったが時間は指定していない。
前回の鍛冶屋に向かう最中、襲撃はなかった。
勿論、つけられることもなかった。
扉を開けると、いつもの店主がいた。
店長はカウンターの後ろに立っていた。
「いらっしゃい。今回はどういった件で? 燃えにくい布の方は注文するのであれば用意はしますよ」
店主は武刀の顔を覚えていたらしく、前回お金が足りなくて買えなかった物を購入する準備が出来ることを伝えた。
「いや、今回はそれじゃない。欲しいのは防具一式だ。資金はこれを売った金で頼む」
武刀は決闘で得た金目の物全てが入った麻袋を取り出し、それをカウンターの上に置く。
店長は麻袋の口を開き、中身を取り出した。
「これは……」
武器や防具を全て取り出してカウンターに置いた店長は、驚いたような顔をした。
「どうした?」
「これは名工、とはいえませんが普通の鍛冶職人なら一級品と呼べる物です」
「ほう」
武刀はただ凄いとしか分からず、頷くことしか出来なかった。
一級品。あの野郎、見た目に似合わず高価な物を持ってたんだな。
決闘で勝利して得た武具が高価な物だと知って、武刀は少し驚いていた。
てっきり、あまり金にならないと思っていたからだ。
「これなら、一式揃うのは簡単です。どうします? 少し根は張りますが、ちょっと高価な武具は揃いますよ。その場合、お金があまり残りませんが」
「うーん。そうだなあ~」
店長からの選択肢に武刀は悩む。
お金も欲しい。
しかし、ここは金がなくたって高価な物を選ぶべきだ。
安物は所詮安物。
あっさりと一撃を貰う羽目になる。
もしそうなれば、代償として支払うのは命になる。
「高価な物でお願いします。俺はこういうの詳しくないんで、お願いします。あと、剣は別途で使うんで売らないです」
「はい。分かりました」
店長は頷くと、カウンターから離れて展示されている防具のほうに向かって選び始めた。
「どういった防具がご所望ですか? 護りを固めますか? それとも、動きやすいのにします?」
「そう、ですね」
武刀は展示された武器を見て少し悩む。
護りを固めれば、強烈な一撃を貰わなければ死ぬことはない。
だが、その分重い。
魔術師、といっても所詮は学生。
非力だ。
防具を着こむと重くて、動けなくなる事が予測できる。
ただし、強化魔術を使えばこの問題は解決するだろう。
まるで服を着ているように、重さなど気にせず動くことが出来る。
だが、魔術には総じて欠点がある。
それは長時間の使用が不可能、ということだ。
魔術は使えば使うほど、魔術回路が熱くなって焼き切る。
そのため、長時間では使用できず休憩を挟まなければいけない。
なら、選択肢は一つしかない。
「動きやすさで」
武刀は答え、部屋の片隅にある樽に入っている多種多様の剣を見つけた。
その中から、剣を引っ張て適当に振り、戻すという作業をする。
そして、しっくりとくる物を見つけた。
剣は装飾など何一つない、至って普通の剣だ。
普通の剣よりも刃は短く、盗賊などが使う振り回しやすい剣といった所だ。
メインは槍だが、もしもの時を考えると持っていたほうがいい。
槍がなくなった場合、使うことになる。
「これ、買います」
持っていた槍を見せながら店長に告げると、店長は難しい顔をした。
「分かり、ました。そうなると、防具のほうは……」
武刀が剣の購入を決めたことで、選べる防具の幅が減って悩んだ。
そんなこと知らず、武刀は剣を右手で持ち中段で構える。
剣を持ったまま、右腕全体を使って動かす。
振りが軽い。
身体に突き刺されば致命傷だが、軽い分打ち負けそうな予感がする。
そこは魔術を使えば問題ないが、気には止めておこう。
「防具選び、終わりましたよ」
武刀が剣を振るっていると、店長が声を掛けた。
「本当ですか?」
終わったのを知り、武刀は持っていた剣をカウンターに近寄ってその上に置き、店長の元に向かった。
「ではこれを」
最初に渡されたのは、脛の上まで隠れた革の靴、グリーブだった。
それを履いて足踏みをして、履き心地を確認する。
グリーブは少しぶかぶかだったが、足を上げると脱げるほどぶかぶかではないので、気にはならない。
次は小手だった。
小手は指先から肘の部分まで革が覆っており、手首の部分から肘下の範囲に厚くした革が腕に合うように丸みが帯びている。
小手を着てから両の指を動かし、問題がないか確認する。
異常はなく、手首を覆っている厚い革を右手の第三関節で叩いて硬さを確認する。
厚いだけあって、左手首には叩いた衝撃が伝わらない。
ただ、どれほど頑丈のかは斬って見なければ分からない。
なので、それはまだ知りたくない。
次は鎧。
動きやすいという要望通り、分厚くもなく持ってみた感じガッシリときて両腕が僅かだけ下がった。
鎧は腕や足同様に革で、肩が隠れるぐらい伸びている。
服を着るように鎧を着ると、サイズがピッタリらしく窮屈だったりぶかぶかだったりと、不快感は全くなかった。
「どうですか? 違和感はありますか?」
「そう、だな……」
武刀は軽く足踏みをしたり、腕を曲げたり伸ばしたりと、動かしてみる。
動かす感じ、特に違和感は感じなかった。
「動かしにくい、とかは感じなかったよ」
「そうですか。それは良かった」
武刀の言葉を聞いて、店長は安堵の息を吐いた。
「この革は何の素材ですか?」
「それは、狼と魔物の皮をなめして作ったものです。鉄よりは頑丈ではないですが、ご要望の通り動きやすさを尊重したため、革の装備を選びました。
又、魔物の皮につきましてはここ辺りでは取れない物で、頑丈な物です。鉄ほど硬くありませんが、皮の中では十分頑丈です」
「そうなんだ。これ、買うよ」
「ありがとうございます」
店長は一度礼をし、カウンターのほうに戻って精算を始める。
「計算が終わりました。お売りした防具のお金が余ったので、お金の入った袋を貰えますか?」
武刀は言われた通りにお金の入った麻袋を渡すと、店長はその中にお金を入れ、二つの麻袋を両の手で持つ。
「こちらがお金のほうになります。そしてこっちのほうが剣になります」
最初にお金の入った麻袋を渡し、次に剣の入った麻袋を店長は渡し、武刀はそれを受け取った。
武刀は受け取った麻袋を懐に仕舞い、店から出た。
「ありがとうございました」
扉を閉めるとき、後ろから店長の声が聞こえた。




