九十二話
いつも通り土曜日にも投稿しますよー
「勝者の特権は、敗者に命令できるんだよね?」
「ああ」
武刀は今までにないほど笑顔で尋ねると、バンデットは苦虫を?み潰したような顔をした。
「そうだな。まずは、座れ」
バンデットは言われた通りに、地べたに胡坐をして座る。
「次は……」
命令するのは良い。
だが、その内容を考えていなかった。
何がしたいか。
殺す、のはなんかつまらん。
それなら何か別の欲しい物、金だな。
武刀は少し間が空き、武刀は答えた。
「金になる物を置いてけ」
「ま、待て。それは!」
バンデットは立ち上がって訂正させようとするが、武刀は首を傾げた。
「命令だ。それに、アンタは俺を殺そうとして俺は殺さなかったんだ。それぐらい、いいだろ?」
「ぐっ」
バンデットは命令だと言われて言い淀み、金の入った袋を取り出して地面に置いて剣、鎧を脱いで順に地面に置く。
そして、バンデットは下着姿に変わる。
「くそっ!」
バンデットは悔しがり、呟く。
それを聞いた武刀はバンデットは見下し、人を貶すような笑顔を浮かべる。
「ざまあ」
地面に置いたバンデットの私物を取り上げ、ふと気づいた。
「どうしよう。どうやって持って帰ろう」
こんな大荷物、持って帰るには両手で持ち替える羽目になる。
もし、その時に襲われでもしたら大変だ。
今から相手は魔物だけじゃなくなる。
絶対にバンデットの手の物が襲い掛かるはずだ。
困っている武刀に、後ろにいるアルフィーが助言する。
「私が中身を増量した袋を渡しただろ」
「それだ!」
武刀が勢いよくアルフィーに振り向いた。
彼女から渡された麻袋を懐から取り出し、それにバンデットの物を全て入れる。
薬草の依頼だけだったのが、功を奏した。
もし、これが魔物を倒すのが依頼だったら目も当てられない状況になっていた。
「よし、完了」
「終わったか?」
「ああ」
後ろから来たアルフィーが、上から顔を覗かせた。
「それはどうするんだ?」
「これか? 売ろうと思って、金が欲しいし」
持ち主が目の前にいるにもかかわらず、武刀は鬼のようなことを言う。
バンデットはそれを聞いて、今まで使っていた物が売られてると知って憎くて顔が歪む。
「ならいっそ、防具一式を揃えたらどうだ? ないよりかはましだろ」
「そう、だね」
防具は盾以外はお城で貰って以来だ。
いっそのこと、ここで揃えるのもいいかもしれない。
武刀はアルフィーの言葉を肯定的に考えた。
「うん、そうしよう。その前に」
武刀は立ち上がり、ジブの方を向く。
「依頼を終わらせるぞ!」
「そういえばそうだったな」
ジブは忘れていたらしく、笑顔で楽観的に言う。
「アルフィーはどうする?」
「私はまだ依頼の途中だ。それに、これの事もある?」
彼女は、下着姿で地べたに座っているバンデットを右手で指差す。
「じゃあ、俺らは行ってくるよ」
武刀は右手を上げてジブと一緒にこの場から離れて行った。
「さて、バンデット。お前の処分についてだが、それは冒険者ギルドに帰ってからにしよう」
アルフィーは冷たい目でバンデットを上から見下ろした。
さっきまでの武刀と会話していたアルフィーとは、雰囲気が全然違った。
冷たい目を真正面から受けたバンデットは、目を合わせるのが嫌で目線を逸らした。
バンデットは武刀と勝負をし、負けた。
殺そうとしたことは基本的に駄目だが、武刀はそれを知って言及しなかったためそれは置いておく。
問題は、終わったあとだ。
負けたにも関わらず、殺そうとした。
このお蔭で、どうしてバンデットのパーティーメンバーが死んだ目をしているのか分かった。
「お前には軽くない罰が訪れることを忘れるな。それと、この使えない奴はどうする?」
同じ依頼を受けた別のパーティーのエンテに、武器も防具も失ったバンデットの今の処遇を尋ねた。
「使えないようだし町に帰す、というのはどうだろうか?」
「ま、それが最善か。ということで、邪魔だから帰れ」
右手でシッシッ、と手で払いながらここから消えるように命令する。
バンデットが武刀と戦う前までは、関係を悪くしないために何も言わなかった。
だが、今は違う。
殺そうとした。
それも二度も。
だから我慢はしない。冷たく扱う。
バンデットは悔しそうな顔をして立ち上がり、去って行った。
その方角は町のある方で、遅れてエンテのパーティーと一緒に居たバンデットのパーティーメンバーも向かった。
「さて私は」
アルフィーは地面に転がっているオーガの死体を回収することにした。




