八十七話
今回は長くなっているので、分割しています。そのため、途中で終わることをご了承ください。
泣き言を言ったジブだが、めげずに薬草を探していた。
しかし見つかることはなかった。
「どうする? 少し気分転換でもするか?」
一向に見つからない薬草に、このままではグダグダになると考えた武刀はジブに持ちかけた。
「する!」
すると、ジブからは泣き言を言い弱っていたのは嘘のように今まで元気よく返事があった。
「何をするんだ? 魔物狩りか?」
薬草を探す際に邪魔だった斧を右手で持ち、右腕をグルングルン回す。
明らかに危険だから近づきたくない。
「いや、魔物は後。今回はタイマン」
「タイマン?」
「一対一、ということ。どう? やってみる?」
「やる!」
戦う気になったジブは武刀と近かったため、離れて距離をとる。
「ん? まあいいか、こっちは準備万端。行けるぞー!」
斧を持ってない左腕を上に突き上げて合図を送る。
「はいはい」
さっきまでの落ち込みようから今のハイテンションに、武刀はついていけず受け流して魔術を発動する。
一先ず、強化魔術バージョンⅢ。
身体全体に強化魔術が掛かり、ジブに向かって走った。
前とは違った。
一つの強化魔術だけでは到達できなかった速さに到達することができた。
あれは少し速くなっただけだった。
しかし今は風になったような感じだ。
木から木へと身体を隠しながら移動し、ジブに近付く。
武刀が隠れながら移動したことで見失い、ジブは動かずに迎え撃つ姿勢に変えた。
彼女は目を瞑って、集中して音を聞き分ける。
聞こえるのは風とそれで揺れる草木の音。
それとは別に、草が踏まれて近づいて来る足音。
集中してその音に耳を澄ませる。
徐々に近付いて来る足音。
それはかなり早く近づいて来て、突然消えた。
それは時間にして僅かに二秒か三秒か。
真後ろで草を踏む小さな音が聞こえた。
ジブは槍が刺さる前にと急いで振り向き、斧を両手で持って右から左に振るった。
あれだけ身体が速く動けるならば刺さる、と痛みを堪えて斧を振る心構えをしていたが一向に来ず、視界に武刀が写った。
武刀は槍をジブに突き立てて寸止めで止めようとしていたが、振るわれた斧に気づいて後ろに下がる。
武刀が下がった直後、その場所に斧が通り過ぎた。
再び武刀とジブの距離が開いたが、それは最初の頃と比べると短い。
強化魔術。
それは化け物と対峙する際に、必ず必要な物になる。
今の武刀もそうだ。
ドラゴンであるジブと戦うためには、必要なものであった。
そもそも、人であってもドラゴンのジブと人間の武刀では基礎スペックが違いすぎる。
だから強化魔術を使った。
バージョンⅢであれば、なんとかなるだろう。
そう考えてジブの真後ろに立ったが、彼女の反応が遅いように感じた。
強化魔術は身体の基礎スペックそのものを上げるものであり、聴力や反応の速さも上がる。
ジブのスペックであれば、音が聞こえたと同時に対応できると武刀は考えていた。
しかし、遅かった。
これにはなにか理由がある、と武刀が考えていた時だった。
ジブが動き出した。
考えるために武刀は動いていなかったため、彼女は攻勢にでた。
彼女の動きは速い。
それは人間と比べると、であるが。
動きから見て、武刀は確信した。
ジブは強化魔術を使っていないと。
使っていれば、基礎スペックが高ければ高いほど異様なまでに強くなる。
ジブにはそれが感じられなかった。
しかし、脅威にならないわけではない。
瞬く間にジブは武刀に近付き、飛び上がり斧を上段から振り下ろす。
それに合わせてバックラーをかざし、障壁魔術を発動する。
障壁魔術であればジブの攻撃を受け止められない。
バージョンⅡであれば、強化魔術を使用したジブの攻撃を受け止められない。
バージョンⅢならば、予測では防ぐことが出来る。
念には念を入れ、武刀は障壁魔術バージョンⅢを発動する。
バックラーの前方に薄い膜のような透明な壁が出来上がる。
同時に、強化魔術も発動しているためバックラーが二つの魔術により魔術回路が赤く発光し悲鳴を上げる。
ガキィン!! という音が辺りに響き、障壁魔術と斧がぶつかり合う。
強化魔術を使用していないジブでは、障壁魔術を破ることはできなかった。
障壁魔術にぶつかった衝撃でジブは弾き飛ばされ、体勢を崩した。
空中で体勢を崩したジブは恰好の的だが、武刀は盾を構えたまま動かなかった。
ジブは空中で身体を回転させ、斧を右手だけで持って両足と左手で着地する。
着地した反動を利用し体勢を異常なまでに低く、肉食動物が襲い掛かるように。
斧を肩に担ぎ、身体をバネにして武刀に襲い掛かった。
「吹き飛べ!!」
また障壁魔術で待ち受ける武刀に、ジブは衝撃の魔術を発動して横振りに打ち付けた。
盾を構えていた武刀は、さっきまでよりも重い一撃を受けた。
その一撃で、体勢を維持したまま身体が僅かばかり後ろに下がる。
さらに、障壁にひびが入った。
それは今までの経験によるものだった。
武刀はジブが衝撃の魔術を使ったと一瞬にして判断し、障壁魔術を取り消して強化魔術バージョンⅢからⅤに上げた。
二段目の衝撃が来る前に武刀はジブから離れた。
それには流石のジブも動きが見えなかった。
ただ、風が巻き起こったように見えた。
「終了! 棄権します」
離れたその場で武刀は宣言した。
ジブは武刀の起こした風に頭の処理能力がついていけず、
「あ、うん」
反射的に答えた。
その答え方に武刀は、強化魔術を解いて違和感を抱き、近づく。
「大丈夫か?」
「ん? ああ、大丈夫だよ。ごめん、心配をかけて」
「いや、何もないならいいが」
戦う前との変化に、武刀は気になった。
「そういえば、どうして戦うのやめちゃったの?」
「それはな。ジブが使った魔術が原因だ」
「魔術? イグニッションブレイクの事?」
「あの魔術はそんな名前だったんだ。うん、まあそのイグニッションなんちゃらとかいうのが原因。あれは元々守りの硬い相手を内側から破壊する魔術だからね」
イグニッションブレイクは一段目は衝撃を奥にまで与え、二段目は衝撃が全方位に拡散し、三段目で一段目の衝撃が戻って来る仕組みである。
一段目は防げたとしても、二段目と三段目で完全に魔術が破壊される。
「それでも、あのドM変態野郎の魔術は壊せないのはなんでだろう、本当。あれは馬鹿だろ、本人の性格も込みで」
武刀が思うことがあるのか、ジブから目線を逸らして呟く。
それはジブには関係ないことのため、彼女には聞こえない声の大きさであった。
武刀はジブから目線を外していたが、向き直る。
「強化魔術はどうした? 今のは使っていないように見えたけど」
「使おうとしたけど、何故か使えなくて」
「使えない? ちょっと後ろ向いて」
「うん」
武刀は喋りながら歩き、ジブは振り返って背を武刀に背を向ける。
「ちょっと首に触れるよ」
ジブの首の後ろに武刀は右手で触り、彼女の身体にある魔術回路を確認する。
問題は何もない。
何も異常がないが……しかし、魔術が発動しないのはおかしい。
ジブから右手を離して顎に置き、考える。
魔術が発動しないのは何かしらの理由があるはずだ。
だが、肉体に変化はない。
少し考えを変えよう。
彼女は人だが人じゃない。
人外だ。
もしや……。
一つ思いつき、顎に置いていた右手を鎧に触れて魔術の有無を確認する。
「やっぱりな」
思いつきだったが、正解だった。
しかし時間的に早すぎる。
「何か分かったのか?」
ジブが武刀の言葉を聞いて首を後ろに向けて尋ねる。
「ああ。鎧にまで魔術回路が延びていた」
「ん? それはどういう……」
ジブは武刀の言ったことが分からず、首を傾げた。
頭上には?マークが見えそうだ。
「延びている魔術は、身体をドラゴンにしたり人になったりと変化する魔術回路だ。この魔術回路は身体にあるんだが、鎧にも延びていた。それが原因だ」
「魔術回路が肉体にあるのに鎧に伸びるの?」
魔術回路は増やすことができるが、ジブの場合は身体と鎧と別々だが魔術回路が延びているのは、普通はない。
普通ならば。
「いやないさ。魔術回路を増やすには自分の血液を使う必要があるし、勝手に延びることはない。だが、ジブ。君は元は竜で人にもなれる。だから起きたし、俺の未熟な事で引き起こした」
変化の短剣。
あれは便利な物だ。
人を簡単に魔術師に変えてしまうし、難しい魔術回路も苦労することなく出来上がる。
それを武刀は、人外を人に変えることに使っている。
自身の欲望のために。
しかし、使えばデメリットも存在することが分かった。
人外が人になったと言っても、それはただ人の形をしているというだけで周りから見れば化け物だ。
そのため、武刀は本当に人に変われるように魔術回路を追加した。
だが、それは余計なことであり互いに干渉しあった。
それが今の魔術を使用できないジブであった。
ジブは魔術を使えないが、武器にある魔術回路は干渉していないため使うことができる。
「武刀が引き起こしたのはなんで? それに、どうして勝手に延びないはずの魔術回路が延びてるの?」
「それについては説明しよう」
遅いですが、あけましておめでとうございます。私的には一月になって初めてで投稿となります。更新ペースは遅いですが、できるだけ最後まで更新したいと思いますので今後ともよろしくお願いします。それと、ブクマや評価してくれますと私のモチベーションが上がって執筆速度も上がると思いますので、できればお願いします。




