八十三話
ゴブリンとの戦いで、武刀には色々な課題が残った。
それを解消するためにも、色々と買う必要がある。
「アルフィー。俺は今から買い物に行くが、どうする? 一緒に行く?」
「いや、やめておく。私もしたいことがあるしな」
朝食後に武刀が誘うと、アルフィーは丁重に断った。
「明日の事もある。荷物の中に入る量を増やそうと思ってな」
「あの、それは簡単にできるものですか?」
「いや、できんが? かなり難しい類のものだと思うぞ」
その難しいことをアルフィーは簡単に言いきる。
そのことに流石の武刀も驚く。
彼の中では、アルフィーの強さがまだ具体的にハッキリとは分かっていないのだ。
それは人と接触する機会が少ないことが原因だ。
比べる材料が少なすぎるのだ。
「あ、うん、そうなんだ。ジブは行く?」
「買い物? うーん」
昨日貰った金の使い道をジブは考える。
そして、
「行こうかな。色んなお店も見てみたいし」
ジブは立ち上がる。
「そうか。ストリアは──」
「行く」
食い気味にストリアは言った。
今まではしなかったであろう態度に、気持ちの変化が起きているのだと分かり微笑む。
ストリアは武刀に近付き、身体を呑み込む。
「じゃあ行って来るよ」
「ああ、行って来い」
武刀、ジブ、ストリアは外に出た。
それを見送ったアルフィーも作業を始めた。
朝早く外をでたことで、今から仕事に行こうとしている人たちが多い。
そのため、出店も多い。
「ふぉふぉい」
筒状にした肉を串刺した物を口の中に頬張っている。
「あの、ジブさん。何を食べてるの?」
「肉」
一瞬にして食べ終えたジブは答える。
「うん、知ってる。いや、そうじゃなくて! なんで食べてるの?」
「お金の使い道は自分で決めていいんでしょ?」
「いや、うん、そうなんだけど……」
そう言われてしまうと、何も言えなくなる。
ただ、俺が言いたいのは。
朝食を食べたよね。足りなかったの?
ただし、言えない。
そういう言葉は女性に厳禁だからだ。
「武刀は何を買うの?」
聞こうか苦しんでいる武刀に、ジブが質問尋ねた。
「俺は盾と布だな。あと、できれば剣も欲しいが無理ならいい」
昨日の出来事で、強化魔術のバージョンアップが必要だと感じた。
そのためにも、槍とは別の武器や防具を魔術触媒≪デバイス≫にしてバージョンアップしたい。
「そういや、ストリアは何か欲しい物はあるか?」
今まであまり喋っていないストリアに聞いた。
しかし、
「ううん。何もない。だから、使っていいよ」
自分は何もいらずただ使って欲しい。
それは無欲、というよりも考えることを放棄している。
「いや、それは流石に」
それには武刀も遠慮した。
女性が男性にプレゼントをするために購入、というのはある。
しかし、ストリアはただ貢ごうとしている。
それが分からず使うのは馬鹿で、分かってて使うのはクズだ。
武刀はストリアが貢ごうとしているのが分かっていて、買うのは断った。
だってそれは男が廃る、というものだ。
魔物と人の違いはなんだろうか。
武刀が一番初めにぶち当たった障害の一つがこれだ。
その答えは、思考することだ。
魔物のほとんどは、本能に従って生きている。
例外もある。
それは長く生き続け、考えることが必要だと理解した時、今のジブもそうである。
そのため、ジブは人となった時はそれほど戸惑いを見せてはいない。
しかし、ストリアにとってそれはなかったものだ。
魔物ではなくなり、本能だけでは生きていけなくなった。
思考することがなかったストリアは、一つの答えを出す。
役に立とう、と。
それはいいことだが、一種の現実逃避であり依存でもある。
一歩間違えれば自分を犠牲にするやり方でもある。
それは駄目だ。
俺が許さない。
だからこそ、ストリアには考えてもらう必要がある。
自分そのものを。
武刀たちが向かったのは南門。
森に行くときに向かった場所でもある。
盾や布、剣を買うためにも鍛冶屋に行く必要があるが、武刀はそこしか場所を知らない。
店によって品質や値段は違い、こういうのは良い店を人伝に聞くものだがそんな情報網はない。
ならば信じられるものといったら勘としかない。
魔術師としての戦いで技術と経験、そして勘によって今まで生きてきた。
だからこそ勘が信じられる。
勘で鍛冶屋に突入した。
「いらっしゃ~い」
扉を開けると、女装をした男がいた。
閉めた。
「い、今のは……」
「見ちゃいけない」
振り向いて、ジブの両肩を押さえて力強く言う。
「あれは……」
「思い出しちゃいけない」
思い出そうとするストリアに強制する。
次の店に向かった。
「ヒャッハー!」
また、閉めた。
いたのはモヒカンに某世紀末アニメに出ていたやられ役に似た存在。
店に並ぶ商品もそれに関するものだった。
なぜこの世界にいる!?
もう、やだよ!
「俺の勘が信じられなくなってきたな」
開けてると変人がいる店。
そんな店に入りたくないのが普通で、武刀は入ることすらしなかった。
次の店もまた、変人がいるのではないかと考え、行く気力がなくなる。
「行かないの?」
泣き言を言っていると、ストリアから声が掛けられた。
「そうだな。行こうか」
ストリアから声をもらい、武刀は動くことを決意する。
次だ。次でラストにしよう。
そう決意し、入った店は普通の人の普通の店だった。
「良かった。凄く良かった」




