八十一話
倒したゴブリンの回収、それと赤いゴブリンの首をもぎ取った。
その赤いゴブリンの首を、畑を荒らす獣の討伐の証として、依頼を出した村の人達に見せた。
今までのゴブリンと比べると、子供と大人。
凶悪な人相の赤いゴブリンを見て、村の人達は驚いていた。
ゴブリンの事情を村の長に説明し、達成した証として一筆もらい、町に向かった。
その頃には空は暗いオレンジ色に変わっていた。
空を見たアルフィーは一言、急ぐぞ、と言って町に向かった。
その日、武刀は一番の地獄を味わった。
「マジ……無理。本当に、無理」
武刀は膝に両手を乗せて身体を支えて息を荒げる。
行くときは魔物を討伐しながら進んでいた。
しかし、帰りは違った。
「夜になると魔物共が活発になる。その前に町に辿り着くぞ」
「「「おお!」」」
二人は手を上げて同意した。
今はまだ夕暮れだが、すぐに暗くなる。
そのため彼らは急いで帰っていた。
アルフィーは風の精霊を使って、身体がまるで風のように早く移動し地の精霊で足場を平に変える。
ジブは元がドラゴンのためスペックがかなり高く、今までが本気ではないと言わんばかりにアルフィーよりも早く走り、独走状態だった。
そして問題の武刀である。
彼はエルフであるアルフィーやドラゴンのジブとは違い、人間である。
身体能力が低く、それを補うために強化魔術がある。
ただし、それだけでは足りなかった。
先を走る二人。
それも距離がどんどん延びていく。
このまま走り続ければ、身体がもたない。
歩いて休憩したい。
という欲望に駆られるが、このままでは置いてけぼりになる。
そうなると、一人で町に戻らないといけなくなるため死に物狂いで走った。
そして、町の前にまで辿り着いた時に完全にダウンして息を直していた。
ずっと走っていたせいで汗を流しているが、ストリアが吸収してくれたことで不快感は全くない。
スライムは本当に便利だと思う。
目の前には平気そうな二人がいる。
彼女達は武刀が回復しているのを待っており、その間二人で雑談をしている。
「大丈夫?」
「あ、ああ」
心配をするストリアに、武刀は大丈夫だと思わせるように返事する。
しかし、息が荒げて大丈夫だとは思えない。
やはり、強化魔術のバージョンアップは必要だな。
決心すると同時に体力が回復し、武刀は動き出した。
何事にも金は必要だ。
ならば金稼ぎするしかない。
三人は町に入った。
町の入口の扉には帰宅ラッシュみたく列ができていた。
その列も最初は多かったのかもしれないが今は少なく、並んだ。
人が多く並んでいたことで、それを捌くのはここに入った時と比べると雑であった。
その分、いつもより早く入ることが出来るのだから。
町の中に入ると、後ろから重厚な音が響いた。
振り向くと、町の入口である門が閉じようとしていた。
「閉じるんだ」
「当り前だ。夜は盗賊だったり魔物だったりと、めんどくさいことが多いからな。入れないためにも閉じるのは当たり前だ」
武刀の疑問にアルフィーが教える。
三人は町に入り、冒険者ギルドに向かって進んだ。
進みだした時、武刀はアルフィーに宣言した。
「俺、冒険者になりたい」
「どうした。突然に」
あれだけなりたくないと拒否していた武刀が、なりたいと言うのは疑問に思う。
「金が欲しいんだ」
それは切実な思いだった。
「では登録ですね。名前を書いてください」
冒険者ギルドに行って武刀とアルフィー、ジブは二手に分かれた。
武刀は登録に。
ジブとアルフィーは依頼の報告を。
そして今、一つの問題が立ちはだかっていた。
こういう異世界では文字が違ったりする。
その文字を武刀は知らず、どうしようか悩んでこっちの字を書く事にした。
受付の男性からもらった紙とペンを握って、書いた。
書くのは名前の武刀ではなく、苗字の阿崎の方を書いた。
書き終えた紙を受付の男性に渡した。
「確かに。えっと……」
受付の男性はその書いた文字を見て、ああ、と呟いて続けて言った。
新しい皇帝と似た文字ですね、と。
それで確信した。
その皇帝はこっちの人間だ、と。
但し、魔術師なのかどうかは分からないが。
調べる必要があるな。
心のメモ帳に記すと、横のほうで何か騒がしい。
「すみません、ちょっと待っててくださいね」
横の受付の女性が慌てた様子で動き出した。
その受付の女性の相手は、アルフィーとジブである。
きっと赤いゴブリンのせいだろ。
アルフィーとジブは受付の女性に連れて行かれ、奥へ消えていく。
どうしてそこまで焦っているのか、武刀はまだ理解できてない。
それを冒険者の登録作業を行っている受付の男性に聞いた。
「この町の近くで人知れずオーガがいたと考えると、怖いものがありますからね」
「へえ」
知ってるようかのように頷いて答える。
今の事で、分かった事が一つ。
それはオーガが他の魔物よりも強い、ということだ。
弱い魔物ならば、これほどまでに焦ったりしないだろう。
数少ない情報で、武刀は頭を巡らせる。
少しして、受付の男性から出来上がったカードを受け取った。
「へえ、これが」
カードを見ると、知らない文字でチンプンカンプンなのだが、何故か理解してしまう。
カードをポケットに仕舞い、アルフィーとジブを探すが見当たらない。
まだ話し合いの最中なのだろう。
暇潰しで椅子に座り、飲み物を注文しようとしたが前回の事もあり、やめた。
だけど、
「すみません。安いの一つくださーい」
これぐらいはいいよね。




