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八十話

 武刀が戦い始めて少し時間が経ち、アルフィーが村から戻って来た。

 

「遅かったね」


「説明を聞いててな」


 アルフィーが辺りをキョロキョロと見まわしながら言う。

 ここにいるのはアルフィーとジブだけ。

 残りの一人、武刀がいないことに気づいてアルフィーは探していた。

 

「ムトウはどうした?」


「それは──」


 ジブが後ろの方を指差そうとした時、その後ろから何かが爆発でもしたかのような音が響いた。

 

「この音はなんだ!?」

 

 近くで爆音が聞こえ、アルフィーは声を荒げる。

 その音でアルフィーは理解した。

 ここに武刀がおらず、日常では聞こえないような音が聞こえた。

 

「まさか、戦っているのか?」


 武刀が戦っていることに気づいたアルフィーは、ジブに問いただした。

 その声は震えていた。


「そうだよ」


 こんなアルフィーの声、ジブは初めて聞いた。

 それがジブは理解できなかった。

 

「どうしたの?」

 

 だから、ジブは尋ねた。

 その理由を。

 

「今回ばかりは相手が悪い、ということだ。行くぞ」


 アルフィーは武刀が暴走魔法≪バーサーク≫にかかったリザードマンを戦っているのを見ている。

 あのとき、槍でリザードマンの鱗を貫くことができずに倒すことができなかった。

 

 それは暴走魔法≪バーサーク≫が強すぎた、ということもある。

 しかし、あの状態なら森にいるゴブリンの主を倒すことはできない。

 

 だからこそ、アルフィーは急いだ。

 その先には魔物がいつ出て来ても倒せるようにジブがいる。

 アルフィーの焦った表情にジブもただ事じゃないと理解し、走っていた。

 

 事情を知らないジブにとっては武刀がどこに行ったかは分からないが、音のからして場所の予測はできる。

 それに、道しるべもある。

 

「これは、凄いな……」


 ジブは道に転がっている物を見る。

 それは敷き詰められて絨毯のようになっている。

 緑色で、所々赤く濡れて汚れている。

 

 ジブもこれを倒してきた。

 ただし数の量が馬鹿げている。

 それも歩くごとに数が減っていき、なくなった。

 

 その先に、武刀がいた。

 彼は槍を地面に突き刺し、赤い魔物を右足で踏んでその魔物を見ていた。

 

「やはり魔術を増やしても遠距離技に変わりない。接近戦仕様にするか? いや、そもそも銃しか使わらないから接近戦は慣れんな。なら……」


 何やらぶつぶつと呟いているが、離れているせいで聞き取れなかった。

 遅れて、アルフィーがやって来た。

 

「なんだ……これは」


 予想していた光景とは違い、アルフィーは驚いた。

 アルフィーは武刀を見るよりも先に、その周りの光景に目がいった。

 武刀の前には見たことのない赤い魔物、武刀の奥にはゴブリンの死骸が多くあった。

 

 アルフィーは我に返り、武刀の元に急いで近寄った。

 それに武刀は気づいた。

 

「ん? どうした」


「倒したのはお前か?」


「ああ」


 武刀は頷く。

 そして、また呟き始める。

 

「やっぱり、問題は接近戦。なら強化魔術をバージョンアップするしかない、か。なら魔術の量を増やすとして、そうなると」


 途中まで武刀の呟きを聞いていたが、その意味が理解できないためアルフィーは赤い魔物の傍まで近づいてしゃがむ。

 

 手で赤い魔物の顔を掴み、横に向けて覗く。

 その顔はゴブリンそのものであった。

 ただし、赤い。

 となると異常種。もしくは進化寸前だと予測できる。

 

「何してんの?」


 赤い魔物の顔を掴んで皺を浮かべて覗くアルフィーに、武刀が尋ねた。

 

「この魔物を調べてる。村の畑を荒らしていたのはゴブリンらしい。食料を得るために荒らしていたらしい。ただ、問題なのは数だ。流石に多すぎる。普通ならこんなに数が多くなる前に減らす筈だが、それがないということは一気に数が増えたのだろう。もしくは、別の何かが影響なのか」


「ふーん、そう」


 興味なさげに武刀は頷くと、ジブの方に顔を向けた。

 

「ジブぅ~。暇だし魔術の扱いを詳しく教えるよ」


 小走りで近づいて行った。

 自分から聞いて来たのに、その反応はなんだ、と不満に思ってしまう。

 だが、武刀の視点になって考えてみれば魔物になんて興味ないのだから当然だ、と納得してしまう。

 

 アルフィーは意識を武刀から赤いゴブリンに向ける。

 大きさとしては人の大人以上ぐらい。

 緑色のゴブリンは人の子供ぐらいなため、比べるとその違いが分かる。

 

 それに、赤いゴブリンは体付きがガッチリと鍛えているのでは、と思ってしまう。

 さらに一つ、これに似た魔物を一度だけ見たことがある。

 

 オーガ。

 赤く、人よりも大きく、人よりも強い魔物。

 

「これは、本格的にやばいな」


 人知れず、町の近くでオーガがいると考えるとしたら気づいたときには既に色んな意味で終わっている。

 ただ、今回はまだゴブリンがオーガが進化する前だったから良かった。

 

 他の場所にも、こういった状況はあるかもしれない。

 

 アルフィーは帰ることを決意し、ジブと武刀がいる後ろに目線を向けると。

 

「イグニッション……なんだっけ? 思いつきで言うもんじゃないな。えっと、三連衝は三回の衝撃と方向は決まってるんだけど、一回だけとかもできるわけ」


 地面を破壊していた。

 

「ムトウ、ジブ。戻るぞ!」

 

「ああ、分かった」


「うん!」


 彼らは頷き、武刀は持っていた斧をジブに返していた。

 

「それと!」


 アルフィーは言い忘れていたことを思い出し、武刀に言う。


「倒したゴブリンは回収頼むぞ。自分でやったんだからな」


 途端に武刀は嫌がる表情をしていた。

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