七十八話
森を歩く。
薬草を回収しつつ、襲い掛かってくる、又は邪魔な魔物、ゴブリンを倒す。
ゴブリンを倒した数は二桁を超え、ゴブリン討伐の依頼は達成している。
薬草採取の依頼も又、アルフィーの精霊のお蔭で見つけて採取する効率がかなり上がり、達成することができた。
最後の依頼、畑を荒らす害獣の駆除。
そのためにも森を通ってに村に向かっている。
他の依頼も達成するため、という理由もあるが。
歩いていると、アルフィーが立ち止まった。
それに気づいた武刀も立ち止まり、少し遅れてジブも立ち止まった。
「畑を荒らす害獣はてっきり獣だと思ったが、まさか、な」
アルフィーはジッと真っ直ぐな目で向かう先を見て、呟く。
「どうした?」
アルフィーが呟いているのは分かったが、それが何を言っているかまでの内容は聞き取れなかった。
「これほどまでにゴブリンが多いのは何かしらの理由があると思うが、なんだ? またあのエルフが何をやろうとしているのか?」
思い浮かぶのは今の町に馬車で移動の途中の際に、魔物で襲撃を受けた事。
「もしくは、別の何か、か」
「だから、どうした!」
考え事をしているアルフィーに、武刀が肩を揺すって我に返らせた。
「お! す、すまん。ちょっと考え事をしていた」
「それは分かってる。で、この先どうするんだ?」
「そうだな。まずはこの先にいるゴブリンを殲滅する」
「またゴブリンか」
それを聞いて、武刀は呆れた顔をする。
ゴブリンを倒し、またゴブリンを倒し、ゴキブリと同じだと思っていたがそれ以上だとい認識に変わった。
「そのあと、私が村に行って話し合いをするから待ってて」
「分かった。ではゴブリンをやっちゃいましょうか」
「ああ」
アルフィーから了承を得た。
ならば、やるしかない。
「ジブ、この先にゴブリンがいるそうだ。だから行って来い!」
「了ー解!」
ジブは森の奥へと走っていく。
遠くから戦闘の音が響いて聞こえてくる。
「道中は安全だな。よし! 行くとしよう」
森を進み、村に向かった。
途中、ゴブリンを倒し尽くしたジブがいた。
斧が血で染まっているが、ジブには一切血がついていなかった。
道端に転がっているゴブリンの死体は、武刀が回収した。
涙目で。
アルフィーが村で交渉している時、武刀とジブは森の中で待っていた。
「どうして森の中で」
「アルフィーがそう言ったんだからしょうがないよ」
武刀の独り言に、ジブが答えた。
「知ってるけどさ」
木を背に座っているがいつでも戦えるよう心構えはしているし、準備はしている。
「ストリア。網を張れ」
そのためにも、必要な事はして起きたかった。
「網?」
「ああ、網だ。守りは不要。俺の身体に一部だけ預けてそれ以外を木々の間に張り巡らせろ」
「分かった」
ストリアは頷き、武刀の身体から一部がいなくなっていく感覚を感じる。
「何をする気なの?」
「準備だよ。それと、今回は戦うの譲ってくれる?」
「うんいいよ。僕もちょっと疲れたし」
ジブに頼んで代わりに戦うことができ、武刀は目を閉じて考え事をする。
思い出すのはさっき、アルフィーの言葉。
武刀を捜してるエルフがいるようだ。
もし捜しているのなら、見つかるのも時間の問題だ。
見つかれば、今のような生活を送ることができなくなる。
そして、アルフィーとジブ、ストリア達とは一緒にいることが出来なくなる可能性が高くなる。
譲歩したとしても話す機会が減る。
それは嫌だ。
まだそれほど時間が経っていないが、今の関係が少し気に入っている自分がいる。
だから、攻略するしかないのか?
するしか、ないんだよな。
「引っかかった」
考えている時、ストリアの呟きが聞こえた。
「行ってくる」
獲物がひっかかり、ジブに伝えて村とは反対の方向に向かう。
遅れて、武刀が向かった先から激しい音が響いた。
武刀は警戒もせず、躊躇せずに進む。
ただ頼るのは目と耳だけ。
いつでも戦えるよう、強化魔術と身体強化の魔法は発動させておく
網の引っかかった方向に歩き、いつでも槍を振れるように準備はする。
左斜め後ろから物音がした。
それはもう反射といっていいほどのレベルだ。
考える間もなく、振り向いて音のした方に槍を突き出した。
それはゴブリンだった。
胸、人間でいう心臓がある場所に槍を一突きした。
槍から貫いた感触が伝わる。
ゴブリンは右手に石と木で作った斧で後ろから襲い掛かろうしたが、一刺しで絶命した。
その顔は驚くような表情を浮かべていた。
槍を地面に突いて安定させ、ゴブリンを左足で踏んで地面に降ろしてから槍を引き抜いた。
槍に血がついており、血は振り払うことで周りに飛ばした。
「さて、と」
周りを見る。
背後からゴブリンが襲い掛かってきた、ということはここからは敵がいる、ということだ。
深呼吸をして精神を研ぎ澄ませ、進んだ。
「ストリア。自動迎撃。お願い」
「分かった」
武刀の願いに、ストリアは了承した。
水槍の魔術を発動させ、武刀の頭上に滞空、維持させた。
その数は五つ。
これにより武刀は戦わずすむ。
そして、ストリアにはいい経験となる。
武刀の考えはある意味で叶ったが、それは地獄だった。
「うっっわ! 気持ちわるっ!」
ゴブリンは本当にゴキブリよりもやばい。
それが目の前で光景に広がっていた。
進むと木に隠れていたゴブリンが襲い掛かってくる。
それはもうやばいほどに。
周りから襲い掛かり、それをストリアの魔術の水槍により迎撃をしていく。
良い経験になると思っていたが、流石にこの量は異常だ。
ほんの少しで、周りがゴブリンの死体で埋め尽くされている。
この量が普通ならば、俺は感性を疑ってしまう。
ゴブリンの死体で出来た道を真っ直ぐと歩く。
歩くと、近くにいたゴブリンが襲って来る。
それをストリアの魔術により水槍で、ゴブリンを迎撃する。
ストリアの負担は増える一方、魔術回路も魔術を使いすぎると悲鳴を上げているはずだ。
そろそろ頃合いか。
ゴブリンも減ってきて、襲ってこなくなった。
流石に序盤から大放出しすぎたのだろう。
いい機会だ。ストリアを休ませるとしよう。
魔術を使いすぎると魔術回路が焼けきってしまう。
それだけ絶対に避けたい。
「もういい。あとは俺に任せろ」
「大、丈夫……まだやれる、から」
やらせてほしい、と苦しそうに絞り出すように言う。
その声には疲労簡単に読み取ることができた。。
ストリアはただ、魔術を使っていた。
なのに、疲労があるということは魔術回路が焼けきる寸前までに熱くなっている、ということだ。
身体に描いた魔術回路が熱くなれば、身体もその部分が熱くなる。
熱くなった鉄を身体に押し付けるようなほどに熱い。
それは耐えられるわけがない。
なのにストリアはそれに耐え、魔術を行使しようとしている。
「いいから休め。もう辛いはずだ。だからあとは……」
俺がやる、と言おうとして言い淀む。
ストリアの立場となって考えれば、それが傷づくと考えたからだ。
だから、少し考えて間を置いて言う。
「もう疲れたろ。一旦休め」
「うん」
子供を諭すように優しく言い、ストリアは頷いた。
頭上を浮いていた五つの水槍が消えた。
ということは、ストリアが魔術を使っていない、ということだ。
耳を澄ますと、ストリアの寝息も聞こえるほど錯覚するぐらいに静かだ。
武刀はため息を吐き、左手で頭をガシガシと掻く。
考えていることはストリアのフォローにだ。
フォローが上手くいった、とは考えてない。
もう少し上手い方法があったのでは、と思って後悔する。
それに、問題も一杯ある。
減らしていく必要があるが、時間がない。
ただし、今はそれよりも先にやるべきことがある。
静かだった世界に音が聞こえた。
一定の感覚でドスッドスッと低い音が聞こえ、こちらに近付いて来る。
見えた。
それはゴブリンの姿をした何かだった。
さっきまでのゴブリンは緑色の肌だが、目の前にいるゴブリンは赤色の肌をしている。
子供の大きさであったが大人以上に身体が大きく、逞しくなっている。
周りにはゴブリンが群れている。
「親玉、という所か」
目の前の赤いゴブリンが他のゴブリンどもを引き攣れている所から、指揮をしているリーダーだという事が分かる。
それに、他のゴブリンよりも姿が違いすぎる。
きっと、進化した姿なのだろう。
だが、俺のやることは変わらない。
槍を右手で持って後ろに、左手を前にだして構える。
「ゴミ掃除の時間だ。とっとと終わらせる」
魔術紹介のコーナー
魔術:水槍 効果:水で形成した槍。術式によって大きさ、形、威力、速度、誘導性能が変わる。ストリアが使用した術式は威力、大きさを重視し速度はそれほど速くはない。全く誘導もしないが、ストリアが矛先を変えていたため当たった。




