七十五話
アルフィーとジブは宿を出て、向かったのは冒険者ギルド。
その道中。
「今回は何をするの?」
「ジブほどの強さなら不満だと思うが、まずは薬草の採取だったり簡単な魔物の討伐だったり、だな」
「そうなんだ。分かった」
ジブは頷いた。
冒険者ギルドに着き、貼られた貼り紙を引き千切り、それを受付に持って行く。
持って来たのは三つ。
薬草の採取とゴブリンの討伐、近くの村に住む畑を荒らす獣の討伐。
本来ならば、初心者がそんなに多く受けるのは無理だ。受付で断られる。
しかし、アルフィーがいるおかげで指導役、ということで受けることができた。
冒険者ギルドを出て、南門に向かう。
門の近くには冒険者向けに傷薬や武器、防具などが売られている。
売り物には、名前と金額の札が置いてある。
ジブは歩きながら、それらを眺める。
ふと、そこで思う。
自分達は武器はや防具は身に着けているが、道具は何も持っていない、と。
「ねえ」
アルフィーを呼び、立ち止まって傷薬を指差す。
「ああいうのを持ってないけど、大丈夫なの?」
「大丈夫じゃない。だが」
ジブは真剣な顔をして言い。
「金がない」
「それは……」
宿代と冒険者ギルドで飲み食いした金で全て消え、何も買うことが出来ない。
「一応回復魔法は使えるが、万能というわけではない。そのため、怪我を負わないためにも注意して戦わないといけない」
「気を付けよう」
ジブは気を引き締めて頷く。
彼女は斧を使うため、接近しなければならない。
そのため怪我をする可能性もある。
色々と並んでいる商品を横目に見ながら、ジブとアルフィーは歩く。
ジブが封印され眠っていた時よりもこの世界は発展しており、知らない物が多かった。
知らないのは竜だったこともあり、興味がなかった、という事もある。
道端に大きな布を敷き、その上には色んな種類の武器が並んでいる。
その内の一つに、今まで見たことない武器があった。
黒くL字の形をしており、刃の部分がない。
ということは、飛び道具なのかな?
片方は厚く短く、もう片方は長く細い。
お尻をつけず腰を下して、それを両手で持って色んな角度から確かめる。
横で歩いていたジブが消え、そのことに気づいたアルフィーが振り向くとジブが腰を下してLの形をした何かを持って見ていた。
アルフィーもジブが持っている何かを見たことがなく、ジブの横まで移動して両手で膝を押さえて見下す。
横にアルフィーが来たことに気づいたジブは、両手で持っている物を尋ねる。
「何これ?」
「私も分からん。初めて見た」
不思議そうに見ていると。
「お! お目が高い」
喋りかけたのは、それを扱っている武器商人である。
その商人は胡散臭い顔を浮かべており、相手にはしたくないと感じた。
「これはシュトラドラッハの新しい皇帝が使っていた武器でね。その皇帝から直々に貰ったんだ。たしか名前は……」
目を瞑って商人が思い出していると。
「銃、でしょ」
武刀がジブの隣に立ち、答えた。
「ムトウ!? どうしてここに?」
宿にいるはずの武刀がここにいることに、アルフィーは驚いた。
それに武刀は答えず、ジブが持っている銃を奪い取る。
「あ……」
銃を見る。
形はL字だが、銃口はない。
引き金もない。
弾倉を入れ替えるためのレバーもない。
これはただ、銃を真似て作ったものに感じる。
「はい」
銃モドキを武器商人に返す。
てっきり本物の銃だと思って期待したのだが……。
「行こうぜ。とっとと」
興味がなくなり、武刀は武器屋から離れた。
「ちょ、ちょっと!」
アルフィーが慌てて武刀を追う。
続いてジブもその後を追った。
武刀は道の真ん中、外に行くため南門へと向かう。
「どうしたの、突然。というかどうしてここに? 質問したいことが多すぎる」
追いついたアルフィーが頭を両手で押さえて悩んでいると、追いついたジブがアルフィーの隣で止まって質問する。
「武刀は銃を知ってるの?」
「そう、それ!」
ジブの質問に、アルフィーが頷く。
さっきの商人とのやり取り。
武刀の口調は知っているように、ジブは思えたのだ。
「まあ知ってる、というかよく使ってる武器だし」
「なら、その新しい皇帝もムトウと同じ世界に住む人だと?」
「そうかもしれないし、違うかもしれない。ただ、可能性としては高いと思うぞ」
皇帝が変わったという噂はあった。
だが、その皇帝の真実をこんな所で知るとはアルフィーも思っていなかった。
そんなこと露知らず、ジブと武刀は会話を続ける。
「どうしてここに?」
「魔術を作ったから、試し打ちも兼ねて魔物退治に行こうと思ったら追い返された。それで戻ってきたらジブ達がちょうどいた、という訳」
「ストリアは?」
「中」
武刀が自分の服を右人差し指で、トントン、とつつく。
「外にでれないのは、カードを持ってないからだ。出るには必要だからな」
現実に戻ったアルフィーが言う。
「カード?」
「カードは冒険者ギルドで作成することが出来る。カードがあると冒険者だと認識される。外は危険だから、行かないように決められたことだ」
ということは、冒険者にならないと外には出れないのか。
だけど、冒険者にはなりたくはない。
わざわざ金を稼ぐために、危険なことはしたくない。
そんなことをするぐらいなら、ストリアとずっといたい。
ただ、それだけならば他の町に行く時はどうなるのか、疑問に思ってしまう。
「他に、他に方法は?」
「あとは金だ。多少の金を払えば外に出れることができる」
中に入るにもお金がかかり、外に行くにもお金がかかる、全て金か。金なのか。
現在文無しの武刀にとっては、それが一番辛い現実であった。
「あの、他には、ないんですかね」
今の間に刻々と、門が近付く。
というか、近い。すぐ目の前だ。
武刀は早く知りたかった。
知らなければ、目の前でジブとアルフィーが外に行き、自分はただ見てるだけ。
夫を行ってらっしゃーいと手を振る新妻の気分である。
そんなの、凄く嫌だ。
だが、現実は残酷。
門についてしまった。
「ふっ、終わった」
脳裏には未来の景色が浮かび、武刀は死んだ目をした。
送ったら、何しようかな。
宿にいても暇だし、散歩でもしようかな。
ストリアも一緒だし、平気だな。
けど、並んで歩けないのは残念だな。
娯楽があればいいんだけどな。
アハハ、アハハハ。
「ねー。武刀の目が死んでるけどどうする?」
勿論、武刀の異変に気付かい二人でなく、ジブが立ち止まっている武刀を指差し、アルフィーに伝えた。
「引きずっても連れてこい」
「分かった」
武刀の襟を握り、ジブは無理矢理に連れて行く。
少女の姿をしているジブが男の武刀を引きずって連れて行く姿は、ひくものがあった。
その頃アルフィーは、門番と交渉をしていた。
「要件は?」
「クエストです。これを」
アルフィーが懐から取り出したのは、カードである。
それを門番が見て、アルフィーが冒険者だと認識する。
「お仲間はいますか?」
「あれです」
親指で指差す先には、ジブと引きずられる武刀がいた。
「あれ、ですか?」
「はい。一人冒険者じゃありませんが、荷物持ちです。薬草の採取と魔物の討伐もあるので、持っていると満足に戦えないので代わりに」
「分かりました。どうぞ、通ってください」
門番は三人を通した。
そして。
「あれ?」
武刀は気づくと、外にいた。
28日から連続投稿します。時間はいつも通りです




