七十三話
町に辿り着いた。
前に訪れた村は周りに防衛のために木の柵だったが、町は石の大きな壁で囲われていた。
資金に差があるんだろう。
町に入るためには門があり、門番がいる。
入るには門番が認めない限り通れないわけで、こちらとしてはやましいことなんて、あるのでドキドキしていた。
ストリアは服の内側、アーマーとして隠し、ジブはそのまんまだが堂々としていた。
武刀が気にしているのに対し、アルフィーが落ち着いた口調で言う。
「そんなに気にしなくていいぞ。別の事に気になると思うからな」
別の事、と言われ武刀は馬車に積み上げられている例の物を見つめた。
それは、リザードマンの死体である。
三体のリザードマン。
多少の金にはなるだろう。
それはアルフィーの目論見通りだった。
「なんだこれは?」
門番が馬車の中を覗き、リザードマンを見て不審な目をしていた。
「リザードマンだが?」
「嘘を言うな。嘘を」
大きすぎる、普通の人が知っているリザードマンとは違うため、門番は疑った。
しかし、アルフィーが何も答えないため門番はそれが本当だと知る。
「ほ、本当か? そういえば、そういう似た話があったな」
「本当か!?」
その話にアルフィーは食いついた。
「あ、ああ。ここに来る冒険者が、魔物の姿が変わっていて異様に強くなった、という話を聞いたな」
「そう、か」
アルフィーが俯き、真剣な表情で頷く。
彼女にとって、その魔物は憎き存在であった。
「入っていいぞ。金は既にもらっているからな」
門番の言葉から察するに、御者の人が三人分払ってくれたらしい。
アルフィーと武刀は、出世払いで返そう、と思った。
御者と一緒に、冒険者ギルドに辿り着いた。
分かれても良かったが、リザードマンの死体が三体を売るときに持ち運ぶのが面倒なため一緒に来てもらった。
アルフィーとジブは受付の方に行って、リザードマンの売却をしている。
ついでに、ジブは冒険者の登録を行うことになっている。
受付とは別の場所、酒場で飲み物を飲んでいる。
飲み物は酒。
ただし、かなり薄めているためジュース感覚で飲んでいる。
もし酒を飲んでいるのが日本だったら駄目だが、ここは異世界。
飲酒だって殺人だって、もしくは強姦をしたって警察に捕まらない。
まあ、強姦は好きじゃないからしないが。
どちらかというと、和姦が好きだ。
「遅いな」
酒をちょびちょびと口に入れながら、目は遠くで離れているアルフィーとジブが視界の中に入った。
「しょうがないよ。時間がかかるみたいだから」
服の内側に隠れているストリアが、他人には聞こえない程度の声の大きさで言う。
「それと、武刀はならなくていいの? 冒険者に?」
「ああ、俺はいいさ」
固い決意があり、その話は断った。
「する時間があるなら、ストリアと一緒にいたいし」
それは紛れもない、彼の本心であった。
「そう、ありがとう」
ストリアは照れ、嬉しそうに言う。
好きな女子からそんな風に言われると、男として嬉しく思う。
彼女の今の気持ちは大好きではなく、好き止まりだろう。
あんな短い期間で大好きになられたら、逆に不安で陰謀を考えしまう。
だから時間が欲しい。
彼女の気持ちを変えるために。
それが楽しい。とてつもなく嬉しい。
目の前の女性から、大好きだと思われるのだ。
武刀が時間を欲する理由であった。
酒を飲み、また目線をアルフィー達に移す。
彼女達はまだ話をしていた。
「長いな」
コップを口に触れたまま上げると、中に何も入っていない事に気づく。
それだけ、長い時間飲んでいること、ということだろう。
「すみませーん! おかわり」
冒険者ギルドと併設している酒場の店員に、大きく手を振って注文する。
「お金、持ってるの?」
「払うのはアルフィー」
店員からもらった酒を飲み、答える。
「それにしても、本当に長い」
「しょうがないよ。ジブの鱗もあるし」
「そういえばそうだった」
鱗の存在をすっかり忘れていた武刀は、酒を飲みながら壁際に張られている無数の紙を見る。
そこには魔物の名と場所、達成した場合の金額が書かれていた。
武刀はそれを、じっくりと見る。
目を離したのは、アルフィー達が帰って来てからだった。




