表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/126

七十二話

場面が変わります。

間が空いたので説明。

武刀君を救うため、裕一君と唯さんは迷宮の攻略に向かったよ。沙織さんは裕一君と一緒にいたいからついてきたよ。

 巨大なハルバードが、頭上遥か上から振り下ろされた。

 ハルバードは人が持てるような代物ではなかった

 大きさは約十メートル。

 

 一瞬で潰されそう程に大きなハルバードを振り下され、裕一は振り下ろされるそれを見て右に身体を投げ出す。

 少し遅れ、左からハルバードが地面を叩く音が響いた。

 

 投げ出した身体が地面にぶつかり、すぐに起き上がる。

 裕一は目の前にいる魔物を睨む。

 

 茶色の肌に、頭の両側の上部にある曲がりくねった二本の角。

 大きさは十メートルの、二本の後ろ足で立つ牛の魔物だった。

 

 手や足は人のように五本の指で、大きなハルバードを握りしめていた。

 牛の魔物の目が赤く、白い息を吐く。

 

 裕一は片手ずつ持つ二本の剣を下段に構え、壁際にいる二人の仲間を見る。

 気絶している沙織を壁際まで唯がひきづって、介抱していた。

 

 入って来た後ろの扉を目配せする。

 ここの部屋は広く、二つの扉がある。

 扉はどちらも閉まっており、それは牛の魔物を倒さないといけない、という事が理解できた。

 

 その時、身体が重くなって支援魔法バフが消えたことが実感できた。

 

「唯! 支援魔法バフを頼む」


 壁際にいる唯に向かって、裕一は顔を向けず叫ぶ。

 

「今は待って!」


「待てない! もし俺が時間稼ぎができなくなる」


 沙織に回復魔法を使っていた唯は、裕一の言っている意味が分かるからこそ、今やっている回復魔法を中断して離れている裕一に支援魔法バフをかけた。

 

 力が湧いて来るような感覚がする裕一は、自身でさらに自分に強化魔法をかける。

 二重に掛かる強化魔法に、今以上に力が湧いて来る。

 

 二回も強化魔法を使えるならこそ、三回、四回も強化魔法を重ね掛けできる。

 ただし、重ね掛けの数が増えれば増えるほど、魔法が消えた途端に肉体の負担が、疲労が増える。

 

 そのため、極力重ね掛けの数を増やすことは避けている。

 裕一の実体験である。

 

 支援魔法バフも掛かり、準備万端な裕一は牛の魔物を見上げる。

 牛の魔物は地面に叩きつけたハルバードを両手で持ち上げ、こちらをゆっくりと見る。

 

 その僅かな隙に、裕一は自身の残りのマナを再確認する。

 

 剣の転移は残り三回。人の転移は残り一回が限度、か。

 

 今までの戦闘で、マナの量が減っている

ことは分かっている。

 ここに来るまで、魔物と戦ってきつくなれば帰り、それを何度も繰り返して強くなった。マナの量も増えた。

 

 だからこそ前の時みたいに、武刀がいなくなったあの時みたいなことはさせない自信があった。

 その思いに、裕一は剣を強く握りしめる。

 

 牛の魔物がハルバードを高々に振り上げる。

 ゆっくりと振り上げ、上段から振り下した。

 ハルバードは地面を叩き、衝撃が四方に広がった。

 

 衝撃に当たれば人なんて吹き飛ばすほどの凄まじい衝撃であり、躱した裕一もその衝撃に吹き飛んだ。

 上空に。

 

 ハルバードをすれ違い様に跳んで躱した裕一だが、その衝撃に身体が浮き上がる。

 浮いた身体をなんとか動かし、ハルバードの上に着地する。

 

 着地して、ハルバードを走って登る。

 ハルバードの道は急勾配だが、二重の身体強化により余裕で登ることが出来た。

 登って近づく裕一に、近付かせまいと牛の魔物がハルバード持つ左手を離して掴もうとする。

 

 近づく左手は、普通なら焦って躱せなかったかもしれない。

 しかし、支援魔法バフが掛かっているからこそ、それが自信に変わった。

 

 掴もうとする寸前に跳び上がり、躱した。

 左手の上に着地し、次はハルバードではなく左腕を走って登る。

 支援魔法バフのお蔭ですぐに左肩まで辿り着き、跳んで顔に向かう。

 その際に、右手に持つ剣を逆手に持ち替え、左目を突き刺した。

 

 剣の半ばまで左目に埋まり、目を突かれたことで目からの激痛により牛の魔物はハルバードから手を離して頭を押さえ、激しく動かす。

 右手だけで目を突いた剣を握っていたが、牛の魔物が頭を激しく動かすせいで身体が吹き飛ばされそうになり、右手だけで維持していたがそれも時間と共にきつくなり、手を離した。

 

 身体がふわっと浮いた感覚がしたと実感した時には落下し、背中から地面に叩きつけられた。

 地面にぶつかった拍子に肺に溜まった空気が吐き、咳き込む。

 

 なんとか起き上がり、牛の魔物を背中の痛みに苦しみながらも見る。

 左目に剣が突き刺さったままだが、左手で左目を覆ってこちらを鬼のような形相で睨んでいるように見えた。

 

 それが明らかな隙で、逃さないわけがなかった。

 左手に持つ剣を転移させた。

 場所はもう一つの残っている目、右目だ。

 剣を強制的に転移され、それはあたかも突き刺さっているように見えた。

 

 左目だけでなく、右目も突かれ、牛の魔物は吠えた。

 視界を潰され、感覚が鋭敏になる。

 他の感覚が敏感となり、痛覚もまたより鋭くなる。

 

 何も見えなくなり、痛みから逃れるように両手を乱暴に振り回す。

 腕の範囲に裕一はおらず、外から眺めながらも好機だと実感した。

 

 しかし、裕一には武器と呼べる物を持っておらず、転移したとしてもマナがほぼない。

 わざわざ派手に振り回す腕の中に突っ込まなければならない。

 そんなのは死か、重症の未来しか見えない。

 

 それならば、別の戦い方を、仲間を頼るまでのこと。

 

「唯。魔法で攻撃を頼む!」

 

「任せて」


 後ろで離れている唯に大声で頼むと、唯は頷くとすぐに牛の魔物を狙う 

 魔法を何度も放って来た。

 しかし、あの牛の魔物には効果があまりなかったように見える。

 

 だから、今回は狙う場所が決まっている。

 裕一が傷を付けた、剣を突き刺した両目。

 

 イメージする。

 剣を通して内部にダメージを与える魔法を。

 そのイメージはすぐに決まった。

 両手を牛の魔物に向け、イメージが具体的になると魔法が発動した。

 

 牛の魔物の頭上から電撃が迸り、身体全体に流れる。

 電撃が皮膚に流れるが、そのほとんどが肌を僅かに焦がすだけでダメージらしいものはなかった。

 しかし、目に突き刺さった剣を通して、電撃が内部にも届いた。

 

 電撃が牛の魔物の内部に流れ、一瞬にして焦がす。

 身体の中から電流によって焦がされた牛の魔物は、苦しむ暇もなく絶命した。

 

 膝から崩れ落ちる。

 その巨体故倒れるだけでも被害が拡大し、裕一は自分に向かって倒れてくるように見え、慌てて逃げ出した。

 

 壁際にいる唯と沙織の方に向かって走ると、背後から牛の魔物が倒れる音が部屋を木霊した。

 裕一は唯と沙織の所まで辿り着き、両膝に手を当てて前かがみになり、息を正す。

 

 その姿勢のまま、出入り口の扉に目線を向ける。

 さっきまでは閉まっていたが、今は牛の魔物を倒した事により開いたのかもしれない。

 

「お疲れ」


 裕一が魔物を一人で相手してくれたことに対し、そして魔物との戦闘が終わったことに対して、言う。


「なんとかなったよ」


 呼吸が整い、裕一は疲れた表情をする。

 

「それよりも」


 疲れた表情を一変させ、真剣な顔になる。

 

「沙織は無事か?」


 牛の魔物と戦う途中、ハルバードの一撃が沙織を襲い、壁際まで吹き飛ばしたのだ。

 唯の支援魔法バフにより身体に傷は残らなかったものの、気絶してしまい唯が今まで診ていたのだ。

 

「一応回復魔法をかけてみたけど、意識が戻らない。時間の問題だとは思う。それと、あの魔物の死体はどうする?」


 唯の視線につられ、裕一もそちらを見る。

 

 そこには、さっき倒した牛の魔物がいた。

 あの大きさでは、どうするか戸惑ってしまう。

 

「回収だ。唯が新しく作った魔法袋で回収できない?」


「うーん。今まで回収していたから、ギリギリかな?」


 首を傾げながら言う唯は、腰に携えていた袋を持って牛の魔物に近付く。

 魔法袋とは、見た目はただの袋だが袋以上の物が収納できる代物である。

 

 少し高価で、持つ者はステータスでもある。

 また、魔法袋にも性能差があり、それは作った本人の力量によって変わる。

 唯が自作した魔法袋は、転移したことにより得た能力、無限の魔道アンデシッド・マジックにより目が飛び出るほど馬鹿げてる性能となっている。

 

 唯が魔法袋で牛の魔物を収納した。

 それを耳元に近付け、振って中身を確認する。

 

「う~ん。もう限界、かな?」


 音から、袋の許容量を限界だということが分かった。

 

「唯、帰るぞ」


 牛の魔物を魔法袋で収納したのを見て、裕一は沙織をおんぶする。

 

「分かった。そういえば、裕一は武器を持たず沙織を背負ってどうやって魔物を倒すの?」


「唯が倒すんだろ? 俺はもうくたくただよ」


「え!?」


 三人は入口に向かい、階段を登る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ