七十一話
良い気持ちでお風呂に上がると、さっきと同じメイドが待っていた。
彼女が言うには、話があるから来い、という事のようだ。
今は夜でアリシアは夕食を食べていない。
アリシアは先にご飯を食べたかったが、話がそんなに長くなるとは考えていないため、我慢することにした。
部屋に向かうと、徐々に空腹であるからこそ鼻腔を刺激するいい香りがした。
この匂いが具体的な何かまでは分からない。
しかし、食べ物があるということは分かった。
食事があることに安堵し、部屋に入った。
部屋に入ると、たしかに食事、夕食はあった。
だが、それは一皿に詰め込まれていた。
残り物感がすごくあった。
「ね~。夕食に不満があるんだけど~」
「今何時だと思ってるの? 既に夕食の時間は過ぎてるのよ。あるだけで有難いと思いなさい」
そう言われるとアリシアは反論する要素がなくなって反論することができなくなり、ふと思い出す。
ヴァルと万里のやり取りで、食べ物がやり取りがあった。
あの時には既に、夕食を食べ終えた、ということになる。
アリシアは渋々と、ご飯を食べ始めた。
「全員集まったことだし、報告会を始めようか」
イリスがしようとするのを見ながら、アリシアは黙々と食べながら、一人だけいないことに気が付いた。
それは武刀の女の子達の一人、ユーミルがいなかった。
「あふぇ~ひもいひないけど~」
アリシアは咀嚼しながら喋ると、ヴァルが答えた。
「ユーミルは外に出ています。彼女は報告することは何もないので、彼女抜きで初めても構いません。あとで伝えておきますので」
アリシアの疑問に、ヴァルが説明したことで報告会は始まった。
「まず、大陸についてだが」
イリスは紙とペンを準備し、図を書いていく。
それは凹の形に似ていた。
「私達がいる大陸はここ」
ペンで右側をグルグルと円を描く。
「アザカ、という国の南端に私達がいる。そして武刀も、聞いた限りではこの国の首都にいるということが分かった」
「なら、そこに行けば会えるんですね!」
武刀に会える、ということを知ってヴァルは前のめりになる。
イリスはそれを答えるように、ヴァルの前に右手を出した
「まだ決まったわけではない。それに、色々と情報が交錯して本当かもどうかも分からない。だから、私とは別の角度からの情報が知りたかった。アリシア、得た情報を言って」
「ん?」
食べていたアリシアは呼ばれ、食べる手を止めた。
口の中に入っていた食べ物を急いで噛み、飲み込んで話し始めた。
「僕の知ってることはその先だよ~。なんか迷宮? ていう場所に行ったみたいなんだけど~帰って来た時はボロボロで行った時とは人が減ってたらしいよ~」
報告を終え、アリシアはまた食べ始めた。
「その迷宮に主がいるんですね」
さっきよりかは落ち着いたヴァルが聞くと、イリスは頷いた。
「迷宮に行けば会えるけど、ただ問題もある」
「問題とはなんだい?」
「迷宮にはボスがいる」
尋ねたアルフレッドに答えるように、イリスは喋りながらアイアンクローをして顔に指をくいこませる。
されてる本人は嬉しそうな顔をしている。
「そのボスも存在するのに理由がある。まず、この世界には魔王とかいう強者がいる」
それを告げると、二人、イリスとアリシアは口の両端が上に歪む。
「ボス共は魔王に仕えていて、魔王の城には結界があって攻撃が一切通らないらしい。それで国は、ボスと倒さないと結界は消えないのでは? という噂もある。という訳で、潰そう」
子供のような無邪気な笑顔で、イリスは悪びれた様子もなく言う。
それに二人、アリシアと周宇は頷いて賛成する。
彼らは武刀救出、という目的は忘れていない。
ただの暇潰しである。
彼らにとって、このようなことを暇潰し感覚でやろうとしている。
「アリシアは反対の大陸に行って、二体のボスを殲滅」
「おっけ~」
アルフレッドが賛成はしていないが無視し、話は始めた。
「私はここの大陸にいるボスを殲滅する。周宇とアルフレッドは魔王の方に行け」
「結界がある、という話ではのではなかったですか?」
攻撃が一切通らない結界がある、という話をさっきにしたはずなのに、そこに向かわせる理由が周宇は分からず、質問する。
「そこにいる馬鹿を一緒に向かわせる」
イリスは右手でアイアンクローしているアルフレッドを顎で指す。
「これは結界魔術の使い手だ。何かするはずだ」
「そういえばそうでしたね。彼を見てると、つい忘れてしまいます」
周宇は同情の籠った眼でアルフレッドをを見ていると、イリスがアルフレッドを放り捨てた。
捨てられたアルフレッドは。
「女王様……」
静かに、周宇はため息を吐いた。
「あの!」
暇潰しは決まったが、未だ本命はまだ決まっておらず残っている。
「私達はイリスさんについて行けばいいんですね」
「ああ、そうだ」
ヴァルが尋ねると、イリスは答えた。
それを見ていた周宇が少し不安になり、イリスに忠告する。
「魔王倒す事はいいですが、目的は武刀の救出。それを忘れては駄目ですよ」
本来の目的を先に決めず暇潰しである魔王退治の方を決める、それは傍から見れば暇潰しの方を楽しみにしている、と受け取ってしまう。
「分かってるわよ。はあ~、ここに同類がいることを忘れてたわ」
イリスはため息を吐いて、目線を周宇から逸らして小声で愚痴る。
距離がちかすぎるせいか、そのことを聞いた周宇は、反論する。
「同類ではありません。同志です」
周宇の性癖は、武刀と似ている所がある。
それは、ネクロフィリアと呼ばれるものである。
彼は死体しか、愛することが出来なかった。
そのため同じ仲間はおらず、孤独であった彼にとある出会いがあった。
武刀である。
彼もまた性癖が人外しか愛することが出来ず、その中には死体も含まれていた。
彼らは一瞬にして、友を通り越してさらにその上、同志となった。
「はいはい。もう夜も遅いし、寝ましょう」
周宇を軽く受け流し、イリスは部屋を出て行った。
イリスが出て行ったのを皮切りに、自室に戻って行く。
全員が部屋に戻ったが、万里、ユーミル、フェン、アーシアは一つの部屋に集まった。
集まった理由は、報告会の内容であった。
全てを言い終えると、ユーミルが口を開いた。
「さっき精霊と会話したのだけど」
「そういえば、ユーミルはエルフだものね」
ユーミルはこくりと頷く。
「それで精霊にご主人の場所を聞いたの。そしたら、反対側の大陸にいるらしいの」
それを聞いた瞬間、皆が目を合わせて近寄る。
「それはヴァル達は知ってる?」
緊急な案件なため、万里は小声で言う。
その返答として、ユーミルは首を振る。
「なら、ここは二手に分かれることにしましょう。私達が多いのだし」
そう言う万里に、ユーミルは頷いた。
空気となっているフェンとアルは、床で眠っていた。
翌日、二手に分かれることをヴァル達が告げると、同意して影でガッツポーズをしていた。
それを見て、万里は笑顔で見ていた。




